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<近況>
2014/11/8 更新してないねぇー ねたはあるんだけどね
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涼秋の職人達
相変わらず仕事三昧の日々を過ごしている。
会社で過ごすうちの、昼休みの一時間というものはとても貴重な時間である。
俺は昼食後の約40分間は、惜しみなく昼寝のために消費するよう、普段から心がけている。
しかし、ある日の昼休み明け、事件が発生した。

「新人のF。Fはいるか」
「はーい。お呼びですかー?類二さん」
「いい返事だ。今、仕事忙しいか?」
「今私のチームが作ってるシステムは来月運用開始予定なんですよ。今は試験段階だからめっちゃ忙しいんですぅ」
「そうか。新人のわりに、もう一丁前に仕事をこなしていると見える。やはり後輩Kのチームに入れて正解だったようだ」
「研修のとき、類二さんが親身になって教えてくれたからですよぅ。とっても感謝してます」
「忙しいところ悪いが、一生のお願いだ。俺の悩みを聞いてくれ」
「きゃあきゃあ。憧れの類二さんが私に相談してくれるなんて。感激ですわ」
「うむ。さすがは俺の後輩」
「類二さんの悩みで私に解決できることなんてあるのかしら。どきどき。何でしょうか」
「よし、では単刀直入に言うぞ。メガネが壊れた」

「はあ。それが何か」
「どうにかしてくれ」
「私がですか」
「そうだ」
「なぜ私が」
「お前、メガネっ娘だろうが」
「やだー。メガネっ娘だなんて、恥ずかしいんでやめてください。私、もう10万22歳ですよぅ」
「お前はデーモン小暮閣下か。ともかく、なんとかならないか」
「メガネ屋さんに行ったらいいんじゃないですか」
「そうはいかん。後輩Fよ。俺の視力を知っているか」
「いえ、残念ながら」
「両目とも0.1前後だ。こんな俺がメガネ無し状態で街を歩いてメガネ屋に行けると思うか?」
「モノはためしですよ。何事も挑戦しなければ結果は生まれません」
「なかなかいい事を言うな。だがしかし、メガネ屋と間違えて牛丼屋に入ってしまったらどうする」
「迷わず大盛りと卵と味噌汁をテイクアウトするしかないですね」
「そうだろう。今日の昼飯で吉野家に行ってきたばかりだ。一日に二度も牛丼屋に行くような愚は避けねばならない」
「その理論で行くと、間違って不動産屋なんかに行ったらえらい事になりそうですね」
「そうだ。迷わずマンションを一棟テイクアウトせねばならなくなるだろう」
「おちおち外も歩けないというわけですか。困っちゃいましたね」
「その通り。家に帰ることすらままならぬ。だから何としても今ここでメガネを直さねば、俺に未来は無いのだ」
「家に帰ったところで、奥さんの尻に敷かれる未来が待っているだけじゃないですか」
「鋭いな。まさしくその通りだ。何一つ言い返せない」

「建設的な話に戻しましょう。どう壊れたんですか。類二さんのメガネ」
「いい質問だ。よく聞いてくれた。鼻に当てるところが取れてしまい、フレームがひしゃげている。レンズはかすり傷程度でなんとか無事だ。ほれ、この通り」
「うわー。これはまた見事な壊れっぷりですねぇ。引くわこれ」
「ん。何か言ったか」
「いえ。それにしてもこれ、誰かが踏みつけたとしか思えないですね」
「俺もその結論に達したところだ。犯人の見当は既についている」
「さすが名探偵類田一さんですね。犯人は誰ですか」
「いや、今犯人を糾弾したところで、メガネが直るものでもない。今、早急になすべき事は、メガネの修理だ」
「予備のメガネは持ってないんですか?」
「予備だと。そんなものは無い。日本男子たるもの、宵越しのメガネなんぞ持つわけにはいかんのだ」
「えっ。ぷぷっ。まさか類二さん、メガネひとつしかないんですか。やだ信じられない」
「なぜ笑う。現代の日本においてはメガネがひとつしかない事が嘲笑に値するとでも言うのか」
「だって最近はメガネすっごい安いし、かわいいフレームがあるとつい買っちゃうじゃないですかぁ」
「何と。昨今のメガネは衝動買いの対象なのか。知らなかった」
「だから、普通の人ならいくつもメガネがあって、その日の気分でつけかえたりするのが当たり前ですよ」
「俺は気分などでメガネを取り替えるような軟弱者ではない。ということにしておいてくれ」
「意味が全然分かりませんが、分かりました。ではどうしてもこれを直さないといけないんですね」
「そうだ。Fよ。特命だ。やってくれるか」
「わかりました。類二さんのために、喜んで直しまーす」

「どうだ。直ったか」
「はい。類二さん、私、仕事そっちのけで類二さんのためにメガネ直しました」
「よし。さすがは俺の後輩だ。今度類二菊花章なる勲章を授ける。どれ、見せてみろ」
「どうぞ。私の渾身の一撃の成果です」
「あっ。なんだこれ。さっきよりひどくなってるじゃないか。どういうことだ」
「決まってるじゃないですか。私が渾身の一撃を加えたからですよう」
「なぜだ。なぜこんな事をする」
「だいたい後輩かつ女の私に修理を依頼するなんて、よく考えたらパワハラ&セクハラのコンボ攻撃だなーと思っちゃいまして。てへ」
「満面の笑顔で言うな。お前が信頼に足る人物だと思ったから依頼しただけだ。セクハラパワハラなど、いいがかりもいいとこだ」
「ともかく、うまく直せないんで、こうなったら思い切って再起不能にしちゃおうかと」
「ひどい。これがなければ、俺の目は33のままだ。のび太状態だ。どうしてくれる」
「あっ類二さん。口まで3になってますよ。文句を言ってるときののび太にそっくりです。今日から類二さんの事、のび太って呼びますね」
「仮にも先輩だぞ俺は。人のメガネを壊しておいてよくそんな事が言えるな」
「だって元々壊れてたじゃないですか。ていうか、このメガネ壊した犯人って、のび太でしょう」
「のび太呼ばわりの上、呼び捨てか。それにしてもよく俺が犯人だとわかったな」
「おおかた、昼休みのときにメガネはずしてぐうぐう昼寝して、いつのまにかメガネが机から落ちてて、起きたときに誤って踏みつけたとか、そんなとこでしょう」
「その通りすぎてぐうの音も出ない。よくぞ見破った」
「ああ楽しかった。では私仕事に戻りますんでそれじゃ」
「なんて奴だ。叙勲は取り消しだ。こんな小娘に任せたのが失敗だった」

しかたなく、フレームからレンズを取り外し、棒をくっつけて手で持って、虫眼鏡の要領でレンズ越しの世界を見ながら帰宅した。
comments(1)
いそがば
「おおお、おお、おまわりさん!たった大変だ大変だ!」

「どうかしましたか!落ち着いてください!」
「たたたたっいへ大変だよおおおまわまわさんりさん」
「大変なのはわかりました。お、落ち着いて、ゆっくり喋ってください」
「むむむこう向こう、変だ変大変でどどどどうしようどどドルッフ」
「ゆっくり、落ち落ちついて。あ慌てなないで、わた私にもわっわかるように」
「ひひひひっとひっっとゴロゴロゴロシェーーッッ」
「ななな何ですと人殺殺し!!く詳しく説明ししてくだっさい」
「ババッバータコタコポーイポーイショーーーッップププハァッ」
「ええっある店のまままんまん前でタバタバコをポイっ捨て??」
「ケケケンンンカカカッドカッバキッグシャッギャーーウヒョー」
「ポイ捨ってした人とテテテ店主が殴り合い合いのケンーカを!?」
「切れっ切れ切れっ切れナイフシャキーンのコレもんのコレもーんのコレコレドラえもーーん」
「ポポポイ捨ての人が逆ギレ?ナイーフ取り出して!?」
「ぐさって刺し刺し刺しギャーワーちちち血血ダラダラダダダイサンゲーンヤックマッハーン」
「ささ刺さされた店主が血だらけっけ!?そっそりゃーたた大変だらぁぁぁーー」
「どどどドドはやっくなななんとカッカシテシテテリュロッハラーーッッ」
「わわわわわわかりりょうかいーーんしたしたしまましたぃぃ」
「ブッフッッロイーーやらやらダーーー」
「いそいそおおしおげーーんババババッぬぉーーー」
「ぎゅえりんしゅゅゅしじいーークック」
「らっしょらっしぇー」
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人生の難問を解くために
必要なのは何よりもまず計画性だ。
闇雲に前進するばかりでは、後に待ち構えている複雑な局面に対処しきれないし、たとえ状況に応じた判断でその場をしのぐことができたとしても、行動が一々後手に回るから、どうしても受け身の姿勢になってしまう。
積極性を欠いた守勢は視野を狭め、目先の些事に拘泥する結果を生む。つまり、ミスを補うための無用の行動が増加し、これが更にミスの発生率を上げているにもかかわらず、ひたすらゼロに戻すための非建設的な行動が繰り返される。その間に打開策、予防策は講じられず、次第にミスのフォローばかりで手一杯となって、知らぬ間に当初の目的を見失う。
このような状況にあっては苛立ちが捨て鉢となり、最後には神頼みという無惨な結末にいたる。
障害物競走とは知らずに全速力で駆け出すようなものだ。とうてい満足のゆく成果は望めない。結果的に問題を解決できたとしても、それは単に運が良かったというだけの話で、実のところ「失ったものの方が大きかった」という場合の方が多いだろう。

臨機応変のつもりが実際は行き当たりばったりで、気がつけば袋小路に入り込んでいた、というパターンはことのほか多い。比較的難度の低い問題であればそれもまた一興と言えるが、高レベルの問題においては文字通り「命取り」になる。
無計画は時間やエネルギーを浪費するばかりでなく、せっかく訪れた起死回生のチャンスさえも無駄にしてしまう危険性があるのである。

故に、計画性は絶対に必要だ。
それも綿密なシミュレーションの上に組み立てられた、一分の隙もない緻密なプランである必要がある。
まず、全体像を把握し、解決への方向性を定める。問題の肝となる部分を正確に見抜き、絶対に外せない部分から逆算してそのほかの行動を決定してゆく。また、可能であれば、突発的な事態に備えて余力を残しておくことも必要だろう。
これは口で言うほど容易いことではないが、無計画に突き進むよりは遥かに成功率を引き上げてくれる。巧妙なくらいの問題であれば、完璧とはいわないまでも、それなりに満足のいく成果は得られるだろう。是非とも試して頂きたい。

しかし、真の難問、破壊的とされる問題について言えば、このプランを立てる段階から、すでに頓挫してしまうケースが多い。それが実情である。
いくら頭を捻っても、とうてい解ける気がしない。とりあえず計画は出来上がったものの、実行は困難、というより不可能に近い。あるいは、あと一歩まで来ているから、あとは運次第で……。
そのような場合は、無理な賭に出るべきではない。潔く破棄するべきだろう。想定の範囲内ですら解決できていないものを実際に解くことなど不可能であるし、運に左右されるようなプランはそもそもプランとは言えない。ならば実行に移したところで無計画と同じである。当然、満足の行く成果など得られるはずもない。
では、どうすればよいのか?

計画が立てられないほどの難問、あるいは運に頼った成功率の極めて低いプランしか組み立てられないような難問に立ち向かうためには、まったく別種の武器が必要となる。
それは「ひらめき」だ。
ひらめきというのは難局を打破する上で、最も強大な武器となる。これを得ることができれば、その問題はすでに解けたに等しい。もちろん、なくてもどうにかなる場合もあるが、これによって天地のひっくり返るような変化を体験された方は少なくないだろう。
地と図の入れ替わるトロンプ・ルイユ(だまし絵)。その秘められた謎を解き明かす魔法の力が「ひらめき」である。

とはいえ、通常、ひらめきを得るのには時間がかかる。いつかは誰にでも訪れる「ひらめき」だが、天啓を得たのは死の直前、ということだってあり得る。むろん、我々にそんな時間的余裕はないし、そもそも、ひとつのひらめきがそのまま正解になることなど実は稀なのだから、ひらめきは複数回起こらなくては用を為さない。自明のことだが、怠惰な芸術家でもない限り、インスピレーションをひたすら待つのは得策とは言えないのである。

では、待たずしてひらめきを得るにはどうすればよいのか?
答えは単純だ。
頭脳を叱咤して強引にひらめかせればよい。
そのためには、より多くの、幅広い知識を獲得するのは当然として、最も効率的なのは、消去法による可能性の削減である。

言うまでもなく、知識の獲得はひらめきを得る上で欠かせない要素だ。何がきっかけとなってひらめくか分からない以上、その問題とはまったく無関係の知識であっても、この獲得は有用である。ダ・ヴィンチが万能の天才であり得たのは、多方面にわたる知識によって、ひらめきの機会をより多く得ていたからではあるまいか。
一方、可能性の削減については少々の説明が必要だろう。
ここでいう可能性とは、問題を解く上で複数成立するプラン、つまり選択可能な道筋のことである。

複雑な問題──解法が複数あるように見える問題というのは、ほとんどの場合、小さな問題の集合体である。
細かな問題が入り組み、絡み合い、連係し、連続して、ひとつの巨大な難問を形成している。
これを解こうとする場合、ひとつの着想だけに拘るのは危険といえる。というのも、この手の難問は解法が複数あるように見えて、実際には「正解は一手しかない」というケースが多いからだ。そのくせ、ひとつひとつの問題は案外簡単に解けてしまうから、ついつい見通しが甘くなって、最初の着想に固執してしまう。
「これで行けるぞ」と思って進めていくと、かなりのところまで解けてしまうのだが、それを嘲笑うかのように最後の段階で手詰まり、となる。一度勝利を確信しているだけに、これは辛い。では、と思って別の方法を模索しても、結局上手くはいかないだろう。
何故といえば、そのようなケースでは根本的な考えが間違っている可能性が高い。
にもかかわらず、「あと少し」と思い込んでいるため、微調整で解決すると勘違いしてしまうのだ。
この時点で本当に必要な「ひらめき」からは程遠くなり、延々無駄骨を折ることになる。

そこで必要になるのが、可能性の削減だ。これにより、欲しい「ひらめき」を力ずくで呼び寄せることができる。
引き続き上記のケースを例に説明を続けよう。

ひとつひとつの問題は解ける。解法も複数用意できる。ならば、それぞれの解法を如何に組み合わせるか、それが巨大な難問を解く鍵となる。
「ここでこの方法を使えば、次はこうしなくてはならない。するとあれがこうなるから、ここをこうして──」
というように考えを詰めていくわけだが、無論、ここで組み合わせをひとつひとつ試していたのでは、迂遠すぎる。
ポイントは無理のあるプランや効率の悪いプラン、運に頼る要素の強いプランなどを軒並み削除してしまうことだ。これは厳しく、徹底的に行ってよい。
するとこういうことになるだろう。

「絶対に無理だ。解法はない!」

だが、それが正しい。
解法がひとつしかない問題に対して、そもそも間違った着想から始まっているのだから、そこから派生したアイディアなどすべて捨ててしまうべきなのだ。
一度すべてを否定する。
すると初めて、そこに「ひらめき」の余地が生じる。
可能性を狭めたことで「ここでは必ずこうしなければならない」「こうするしかない」という制限ができ、それによってこれまでとは違った発想が求められる。
こうなればしめたもので、目的とする「ひらめき」はすぐそこに来ていると言っていい。

条件や制限がつくと、人はつい苦境に陥ったような気分になりがちだが、それは大きな間違いだ。制限というのは選択肢を限定してくれる上に、それ自体がそのまま解決のヒントになっている場合が多い。特に正解がひとつしかないような問題、いわゆる詰め将棋的な問題では、その制限に着目することで比較的容易に必要な「ひらめき」を得ることができるのである。
このやり方はいわば、理詰めで強引にひらめきを得る手段であって、天才的なひらめきとは若干性質が異なる。些かスマートではないが、効果はあるので是非試して頂きたい。

さて、プランが完成すればあとは実行に移すのみである。
が、難問の難問たる所以は、その実行にこそ難がある、という点を忘れてはならない。
如何に完璧と思えるプランが用意できても、いざ行動に移してみると、思わぬところに落とし穴があったりする。単純な見落としもそうだが、見積もりの段階では隠れていた罠、こちらが行動することで初めて発動するタイプの仕掛けもあるから、それらの対処はその場その場の判断に委ねられる。問題を解く上では実に厄介な要素だ。
このような突発的事態を乗り越えるためには、戦力を温存しておくのはもとより、組み上げたプランを瞬時に破棄、変更できるだけの度量とフレキシブルな頭脳が必要となる。焦って冷静な判断ができないというなら、一度手を止めてじっくり考えを巡らせてみるのもいいだろう。時には不測の事態が、逆に有利な状況を招いていくれる場合もあるかもしれない。

ただし、発生したトラブルが致命的で、取り返しのつかない状況に陥っていたなら、そのときは潔くあきらめてプランの練り直しを図るべきである。下手な悪あがきは時間とエネルギーの浪費にしかならないし、万が一解決に至ったとしても、二度目には通用しないからだ。
もちろん、ここでいう「あきらめる」とは、その状況からの解決をあきらめる、という意味であって、解決自体をあきらめるのではない。むしろ次回に備えての調査、実験、演習等は欠くことのできない重要な作業であり、必ずや問題解決の近道となるだろう。その際には是非、計画性を敢えて無視した奇抜な行動をも試してほしい。それが思いがけず解決の糸口になることもあるだろうし、いっそのこと、最初の数回をまるまるそれに当ててしまってもよい。
いずれにせよ、たった一度の挑戦で解決できるような問題は難問とは言わない。
失敗から学ぶ、転んでもただでは起きない、そういう貪欲な精神が必要だ。

さあ、ここまでくれば、あともうひたすら繰り返し繰り返しトライするばかりである。たとえ仕事中であろうと食事中であろうと、四六時中その問題について考え、試し、極限にまでプランを錬磨する。そうするうち、知らぬ間に経験値が上がって、自身の技量も増していることだろう。

「ひとつの目的を達成するためには、千回同じことを繰り返しなさい」

これは作家の故・開高健の言葉だが、実に味わい深く、真を捉えている。
失敗をおそれるな。
やり直しの利かない問題などない。
失うのはせいぜい、時間と労力と、僅かばかりの小さな命だけである。

いかがだっただろうか。
まったく、何をわかりきったことを長々と──と、うるさく感じられた方もあるかもしれないが、ここまで読み進めて頂いた諸君には、すでに難問に対する心構えが身に付いている。
今後の人生に待ち受けているであろう簡単な問題は言うに及ばず、巧妙(tricky)な問題、困難(taxing)な問題、あるいは破壊的(mayhem)な問題ですら恐れるには値しない。
SPECIALと名の付く問題にはさすがに手を焼くだろうが、己を信じてまず第一歩を踏み出せば、必ずや栄光を手にすることができるだろう。それでは諸君。

レッツ、レミング!

健闘を祈る。




ゲームセンターCX24時間生放送、見ました。
有野の挑戦は「レミングス」
全部見るのに一週間かかった。
レミングスはたいへん素晴らしいゲームです。
comments(3)
はなくそのひみつ。
職場のトイレにこんな張り紙があります。


『トイレはきれいに使いましょう。

        鼻糞の貼りつけ禁止』


この張り紙、今はすっかり馴染んでしまって見向きもしませんが、
以前はずいぶんと気になりました。
というのも、

「トイレはきれいに使いましょう」は、いい。だが、
「鼻糞の貼りつけ禁止」とは何だ?

わかりません。
どうしてわざわざ禁止する必要があるのでしょう。
禁止するまでもなく「きれいに使いましょう」の一文に、
その事項は含まれているはず。
そんなの言われるまでもなく、常識ですよね。
なのに、この張り紙ときたら……。

正直、屈辱です。
この張り紙は、最初から私がそのような愚挙に及ぶものとみなしています。
みなした上で、そのふしだらな行為を「禁止」しているのです。
たった一枚の紙切れに、私は、そのような愚劣な人間であると決めつけられたこ
とが不本意でなりません。

性悪説とは荀子の性説で、「人間の本性は悪である」とするものです。
故に、礼法による秩序維持が重んじられるわけですが、
この張り紙も同じ発想に基づいていると考えられます。
つまり、

『人間は放っておくと「鼻○そ」を貼りつける生き物である』
故に張り紙をもってこれを固くを禁じ、トイレの秩序を維持しなくてはならない。
そうしなければ、たちまちトイレは「鼻○そ」まみれになってしまう。

なるほど、一理はあるようです。
如何に御不浄とはいえ、まみれるのは良くないです。
しかし──。
私もずいぶん長いこと生きてきましたが、こんな侮辱は初めてです。

ところで、ここで問題にしたいのは私の受けた辱めそれ自体ではなく、何故この
ような張り紙が作製され、不当に人の尊厳が貶められるような事態に至ったか、
また、私たちは今後、如何にして損なわれた人間性を取り戻すべきか、
という二点の追求が目的となります。
そのためにはまず、ことの発端をつまびらかにする必要があるでしょう。

何故、「鼻○そ」の貼りつけは禁止されたのか?

初めてこの張り紙を目にしたとき、私は激しい衝撃を覚えたものです。
少し大げさかもしれませんが、「人間の本性は悪である」と実感させられました。
というのも、わざわざ禁止しているのは、過去に実例があったからであり、この
トイレには、かつて「鼻○そ」にまみれた事実があったのです。
むろん、私は直接その過去を見知っているわけではありませんし、同僚から聞か
されたことすらありません。しかし──

おお、神よ!!
人間とは生まれながらにして「鼻○そ」を貼りつけたがる生き物なのか!?

これは絶望です。
自分は決してそのような愚劣な人間ではない、と固く信じていても、過去の事実
が人間という種の本性と、その限界を示しています。
今は清廉な肉体であっても、遠い将来のことまではわからない。些細なことが契
機となって、その邪悪な本性を顕さないとも限らない。かつてその罪を犯した人
物が、その日より以前は無垢で潔白な人間だったなら、かくいう私とて、いつか
そのような劣情に身を委ねてしまう日が来るのではあるまいか──。

ああ、人間とはなんと醜悪な生き物であるか。

私はひどく憂鬱でした。
絶望の淵に立たされ、生きる価値すら見失う寸前でした。
なんてことだろう。「鼻○そ」を貼りつけたがるばかりが人間の性だなんて。
エジソンもシューベルトもトルストイも、人間て、そんなものなのかな……。
……しかし、待てよ、とも思うのです。
本当にそうでしょうか。
私は疑問し、ふと顔を起こして張り紙の周囲を確かめました。
するとどうでしょう。
壁は輝くように白く、落書きはおろか、染みのひとつも見当たらないではありま
せんか。
それは大変にきれいなもので、いわんや、「鼻○そ」をや、です。

これは微かな希望でした。いえ、確かな光明です。
過去はどうあれ、たった今、このトイレは清浄ではないか!
その思いが私を少し勇気づけました。
思い返してみれば、このトイレはいつだってきれいだったことに気がつきます。
それは張り紙によって人々が理性と叡智を取り戻した証。
「鼻○そ」を貼りつけたいという劣情から解放された、まったく新しい人間性の
獲得だったといえるでしょう。
いや。あるいはそれこそ、元来人の持つ美しさだったのかもしれませんね。

いずれにせよ、この張り紙はすでに用を為さない。
私はそう思いました。何故なら、人々はすでに自らの意志によって、その尊厳を
取り戻しているからです。
もう「鼻○そ」を貼りつけたりしない。絶対にしない!
このトイレの美しさが、如実にそれを物語っていたのです。

そう思えた瞬間、私は誠に幸福でした。

ところが、悪夢は唐突にやって来ました。
忘れもしません。数ヶ月前、週明けの月曜日のことです。
私はそのトイレで、あり得ない光景を目の当たりにし、「ぎゃあ」と思わず絶叫
せずにはいられませんでした。

それはまるきり、この世のものとは思えぬ忌むべき光景です。

貼りつけてある。
それも、一粒や二粒ではなく。

いったい、一人の人間からこれほどの量が掘り出せるものなのか? と疑いたく
なるほど、徹底的にほじくり返したような有様です。
まさに「尋常ではない」という表現がぴったり。
視覚的に喩えるならそれは、夜空に瞬く星々のすべてが、死兆星の如き禍星と化
した絶望的な光景です。

最初は唖然と目を瞠るばかりの私でしたが、
これでもか、これでもか、といった具合にほじくりほじくり、貼りつけている人
間の姿を思い浮かべると、次第に恐怖を覚えました。
人は理解を超えた存在に畏怖を覚えるものです。
そこには憎悪にすら似た、強固な、鉄のような意志が感じられ、私はたちまちそ
の場から逃げ出したくなりました。
少なくとも、いたずらや遊び半分でここまではできないでしょう。
いったい、いかなる激烈な情念が、その人物をこれほどまで凄惨な行いに駆り立
てたのか。過酷な採掘作業にその人物の鼻の粘膜は擦り切れ、今も鮮血が滲み出
しているに違いないし、見れば壁一面に貼りつけられた、あの無数の禍星にも、
べったりと滴るような赤黒い染みが……。

いや、それはさすがありませんが。
もちろん少し冷静に考えれば、これが数日をかけて為された仕事だったことがわ
かります。おそらく土日を利用したのでしょう。あるいは、複数人による犯行で
あった可能性も考えられますが、ともかく、それくらい無茶苦茶な量の禍星でし
た。

なるほど。
ひたすらに心を鎮め、冷静に現状を把握した私は、そのときようやく事の次第を
悟りました。

つまり、「これは戦いなのだ」と。

そうです。
思えば、わざわざ張り紙をしてまで「貼りつけ」を禁止しているのは、それが常
習的な行為だったからに他なりません。
一度注意したくらいで収まる騒ぎなら、そうまで躍起にはなりません。
言い忘れましたが、問題の禁止事項は後から書き加えられたものなのです。

貼りつける者たちは、最初は面白半分で行為に及んだのかもしれません。しかし、
それが張り紙によって禁止されたことによって、不毛なる戦いが始まってしまいました。
傲岸な張り紙に対し、貼りつける者たちはきっと思ったことでしょう。
「何を偉そうに」と。
するとどうなるか。次に来るのは聖戦とも言うべき愚かな時代の幕開けです。
抑圧されるから抗う。抗うからますます抑圧する。そんなイタチごっこ。
やがて本末は転倒し、手段は目的となり、彼らは「貼りつけること」によって、
神の如き張り紙にささやかなる反抗を試み続ける結果に至ったのです。
そこにはもはや「鼻○そ」を貼りつける喜びなど少しもない。
彼らは知らずその喜びを失ってしまった。
そうまでして貼りつけ続ける意志の根底にあるのは、もはや「意地」としか思わ
れません。

しかし、そうなると、この禍星を貼りつける者たちを単に愚劣な人間と決めつけ
ることはできないようにも思います。
彼らは自らの行為が愚劣であると知りながら、なお、敢えてその愚行を続けてい
るのです。立派だとは言えないにしても、ただ面白がって貼りつけている輩とで
は雲泥の差がある。そもそも志が違うのです。

法で人を束縛し、禁じることによってのみ統制を図ろうとする神の如き張り紙。
それに対し、一途なまでに同じ反抗を繰り返す小さき人間。
両者の戦いは永劫に続くでしょう。
愚直な人間は、けれどいつだって、そうやって成長してきたのではなかったですか。
ならば、私に言えることはたったひとつしかありません。
そうです。

「トイレはきれいに使いましょう」
comments(1)
(仮名)
 
「ちょっと」

突然、嫁T氏から話しかけられました。
なんかいいこと思いついた的な顔してます。
それはつまり、僕にとっては、あまり都合の良くない、もしくは面倒な、
端的に言えば災いが降りかかる前触れである事を表しています。
過去の経験から、わかるのです。
呑気にドラクエ9などやっている場合ではありません。
DSの蓋を閉じ、嫁の話を聞いてやる事に全身全霊を傾けます。

「今日から、私ドカベンになるわ」

さあ来ました意味不明。
予測不能。予断を許さぬ状況です。
こうなると、僕としては、様子を伺いつつ、また嫁の機嫌を伺いつつ、その真意を確かめるべく探りを入れていく他ありません。

「そ、そうかい。それはよかった」
「でしょう。でも、私がドカベンになるのはドカベンの歌を歌うときだけよ」
「??・・・そ、そうかい。それはよかった」
「いい?私がドカベンを歌うときは、私はドカベンかっこかめいになるの」
「ド・・・ドカベンかっこかめい?」
「かっこかめいよ。さっさと理解しなさい面倒くさいわね」
「あ、ああ、(仮名)か。そうかい。それはよかった」
「本当にそう思ってる?」
「お、思っているとも」
「じゃ、今度から私がドカベンを歌っているときは、私の事をドカベン(仮名)って呼ぶのよ。わかった?」
「ああ、わかったよ」

嫁はそう言うと、満足そうに僕の部屋から出て行き、リビングで嵐のライブDVDを観始めました。
わかったよ、と答えたものの、なにひとつ意味がわかりません。
しかし、それからしばらく経っても、嫁は嵐のDVDを観ているだけでまったく動かなくなったので、僕は安心して再びドラクエ9を再開しました。
ところが、およそ1時間後、突然リビングから、嫁の歌、というか叫び声が聞こえてきたのです。

「がんばれがんばれドカベン!がんばれがんばれドカベン!」

!?
困りました。
我が家には僕と嫁しかいない以上、今の叫び声が僕に向けて発せられた事は明白です。
まさかテレビに映っている嵐に対する賛辞の類ではないでしょうし。
僕はどう反応して良いかわかりません。
そうこうしているうち、嫁が怒りの表情で僕のもとへやってきました。

「ちょっと」
「は・・・はい」
「何で「いよっドカベン(仮名)!」って言ってくれないのよ」
「!?・・・ご、ごめんなさい」
「あんた、よくわかってないようだから、練習ね」
「は・・・はい」
「がんばれがんばれドカベン。がんばれがんばれドカベン」
「い・・・いよっドカベン(仮名)!」
「よし。やればできるじゃない。今後もその調子でやるように」
「は・・・はい。でも・・・」
「何」

僕は意を決して嫁に意見を述べました。

「あの・・・何でドカベン?」
「何よ。問題でもあるの?」
「いや、そういうわけじゃ・・・」
「ああ、いよっ山田太郎(仮名)!のほうがいいってこと?」
「そういう話ではなく」
「じゃあいいじゃない。次からちゃんと「いよっドカベン(仮名)!」って言わないと罰金300円だから」

妙にリアルな罰金制度ですが、我が家では良くある事です。
しかし、それ以来、嫁がドカベンを歌うことは二度と無かったのでした。
めでたしめでたし。
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誰がためのクエストか
俺は今、とある老人に頼まれてテンツクを退治しているのだが、
ふと疑問を覚えた。
これで良いのか? と。
というのも、このジジイが俺にテンツクを退治させる理由というのが、

「孫にテンツクに似ていると言われてキズついた」
「キズついたワシの心を癒すために、テンツクを10匹退治してくれ」

まったく、なんというくだらない私憤か!
要するに八つ当たりの憂さ晴らしだろう?
孫がテンツクに殺されたとかいうならともかく、
そんな理由で退治されるテンツクが哀れすぎる。
テンツクにしてみれば、ジジイに似ているかどうかなど
まったくもって知ったことじゃない、まさにいい迷惑。
むしろ失礼な話である。
その場の勢いで、ついつい気楽に引き受けてしまったが、
これは果たして正しい選択だったのだろうか。

否。確かにテンツクは魔物だし、
取り立てて容姿が優れているわけでもないが、
だからと言って憂さ晴らしで殺されるいわれもない。
この場合どちらに非があるは、問うてみるまでもないだろう。
仮にテンツクを猫に置き換えてみれば、ジジイの非道ぶりは明白である。

じじいとテンツク。
魔物というなら、むしろこのじじいこそが魔物ではないのか?
エゴの魔物。エゴイスティック・モンスター。

俺はこれまで、平和のためと信じて、正義は我にありと信じて、
(つまりは義憤をもって──)
民家のタンスを漁ったり、壺を破壊するのと変わらない気持ちで、
道端を跋扈する魔獣テンツクをことごとく退治してきたわけだが、
じじいの依頼を受けてからというもの、
一個人の身勝手な私憤を晴らすために罪もないテンツクを痛めつけている、
というもの凄く後ろめたい気分に苛まれている。
そして何より、この依頼の究極に度し難いのは、その実質な意味合いが、
「自分の代わりにトイレに行ってきてくれ」というのと変わらないことだ。
他人にやらせて何の意味がある?
俺がテンツクを退治して、それで本当にじじいの憂さが晴れるのか?
じじいはテンツクが退治される様を確認さえしていないのだぞ?

先ほど、9匹目のテンツクを退治した。
そうして今、非常にやるせない気持ちで、
10匹目のテンツクを退治した。すると、
どこからともなく背徳的なファンファーレが鳴り響き、
報告を受けたじじいは大喜び。
罪もないテンツクが10匹天に召されたことで、
このじじいの憂さは晴れ、俺は褒美に小さなメダルを手に入れた。

小さなメダル。
この結末、その報酬は果たして、大であるのか、小であるのか。
一人の人間のエゴによって、
10匹のテンツクが意味もなく命を奪われた、その結末が……。

無論、大である。
10匹のテンツクが小さなメダル1個と等価であるならば、
テンツクの評価は今まさに「跳ね上がった」。
もはや金と経験値だけの生き物ではない。
まして、このじじいの依頼が一度限りのクエストでないというなら。

またしても孫に「テンツクに似ている」と言われたらしいじじいは、
性懲りもなく「もう一度テンツクを10匹退治してくれ」と言う。
俺は、よしきた! とばかりに、
あっさりこのエゴイスティック・モンスターに魂を売り渡した。

たちまち10匹のテンツクを虐殺する。
大丈夫だ。何も心配ない。
メダルのためならば、テンツク10匹の命も無駄にはならない。
むしろテンツク冥利に尽きるというものだ。
メダルメダルメダル〜。
ほくほく顔でじじいのところに報告に向かうと、
じじいは大喜びで、「へびのぬけがら」をくれた。
は?
小さなメダルは?
念のため、更に10匹のテンツクを虐殺。
しかし、どうやら二回目以降の報酬は「へびのぬけがら」らしい。
何てことだ!
この仕打ちに心底腹を立てた俺は、
自分がすでにエゴのモンスターと化していることに気がついていない。

しかし、テンツク10匹の命が「へびのぬけがら」1個とは。

まあ、妥当なところだろうな。
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めくるめく
「それでは始めるとしよう。心の準備はいいかね。ヘイスティングズ君」
「はい。お願いします。先生」
「よし。・・・つまんだ」
「ああっ。先生の親指と人差し指がっ」
「つまんでいるぞ。確かに私は今、紙の端っこを指でつまんでいる」
「先生っ。どうか紙で指を切らないでください。折り目をつけないでください。あせっていはいけません」
「わかっているとも。ではいよいよめくるぞ」
「ついにめくってしまうのですね。めくられてしまうのですね」
「そうだヘイスティングズ君。我々は今、紙をめくろうとしているのだ」
「もう平常心ではいられません。先生、お気を確かに」
「私は大丈夫だが、君は少し落ち着いたほうがいいだろう。深呼吸をしたまえ」
「は・・・はい。・・・ふう。落ち着きました」
「では、もういいかね。私は早くめくりたいのだが」
「申し訳ありません。取り乱してしまいました。お恥ずかしい」
「私は待ちくたびれてしまったよ。君が深呼吸している間も、私は指で紙をつまみ続けていたのだから」
「もう大丈夫です。先生、お願いします」
「ではめくろう。いくぞ」
「ああっ。先生の親指と人差し指がっ。紙をつまんでいる二本の指がっ」
「実に感慨深い。我々は、今まさに紙をめくっているのだな」
「めくっています。めくっていますとも」
「今日は記念すべき日だ。私は自分の指で、この紙をつまんでめくっているのだ」
「た、大変です。先生」
「何事かね。ヘイスティングズ君」
「私は、どちらを見るべきなのでしょう。めくられた紙の裏側か、めくられた紙の下にあるものか」
「好きなほうを見ればよろしい。だが、私の心は既に決まっている」
「先生のお気持ちを教えていただけますか」
「無論、紙の裏側だよ。ヘイスティングズ君。我々が紙をめくるのは、他ならぬ裏側を見る為なのだからね」
「そうでした。さすが先生、こんな時でも落ち着いていられるのですね」
「そうだ。私はいかなる場合でも常に冷静なのだ」
「では、裏側を見ることに専念します。先生、続けてください」
「よかろう。そろそろ裏側が見える頃だ」
「裏側。裏側ぁっ。はあはあ」
「一気に裏返すぞ。よく見ていなさい」
「ええっ。めくるだけでなく、裏返してしまうのですか。先生っ」
「大丈夫だ。安心しなさい。私は失敗しない」
「あああっ。裏返されてゆくっ。紙が。紙がつままれてめくられて裏返されてゆくぅ」
「ヘイスティングズ君。ヘイスティングズ君」
「・・・はっ。先生」
「終わったよ。ヘイスティングズ君」
「私は・・・、気を失っていたのでしょうか」
「どうやらそのようだ。君が失神している間に、紙はすっかり裏返ってしまったよ」
「本当だ。紙が・・・裏返って・・・」
「どうかねヘイスティングズ君。すっかり裏返ってしまった紙を見る気分は」
「いやあ、私としたことが。裏返る瞬間を見そびれてしまいました」
「ヘイスティングズ君。君に重要なことを教えよう」
「はい。なんでしょうか。先生」
「つまみ、めくり、裏返す瞬間が大事なのではないよ。事の本質は、紙の裏側にあるものだ」
「ありがとうございます。先生。さすが私の先生」
「なに。私にかかれば、紙をつまんでめくり、裏返すことなど造作もない事だよ」
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無力化
無力化。

いい言葉だ。
戦わずして勝利を得られるわけだ。
圧勝どころの話ではない。素晴らしいではないか。

そんなわけで、俺は常日頃から、戦いの際は正面からぶつかるのではなく、
できるだけ相手を無力化するように心がけている。


シールがあらわれた!

机に貼られてしまったら厄介だ。無理に剥がそうとすると、どうしても跡が残ってしまう。強敵だ。
そこで台紙からシールをめくり、二つ折にするようにして粘着面同士を貼り合わせてやった。
どこにも貼ることができないという、シールにとって最大の屈辱。
いや、粘着部分を余すところなく使用したわけだから、シールにとってはある意味幸せだろう。
これからはただの紙として永遠にこの世を彷徨い続けるが良い。


缶コーヒーがあらわれた!

楽勝だ。
缶切りを使い、缶詰を開ける要領でコーヒーの上蓋を切り取ってやった。
缶飲料最大の特徴であるプルタブを無力化したわけだ。
普段は小さな飲み口からしか窺い知る事の出来ない缶の中身がアホみたいに見えまくっているではないか。
そして中身がみるみるうちに冷めていく。
情けない。これがかつて俺の舌を何度も火傷させた缶コーヒーか。
プルタブよ。貴様、何のためにこの世に生産されたのか。自問自答するが良い。
缶蓋に書かれている、
1.→タブをおこす
2.←タブをもどす
を実行されずに中身を美味しく飲まれることになろうとは思いもしなかったであろう。
しかし武士の情け。介錯くらいはしてやっても良い。
中身を飲み干した後、ただのスチールの板に成り下がった缶蓋のプルタブをフルパワーで開けてやった。


トイレがあらわれた!

バカめ。トイレ戦には定石がある。
うんこをして流さずに出てくるだけでよい。
さあどうだ。
これでもはや貴様はトイレではなくうんこの一部に成り下がったのだ。
このまま放ってく限り、永久に使用されることはないだろう。
さらばだ。勇敢なるトイレよ。
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解消すべきもの
最近、肩凝りが激しい。
グレイトドラゴンが吐く炎よりも激しい。
こんなに凝っていては、とても神奈川県知事になれそうもない。それどころか、相模原市長の座も危ういだろう。
私を次期市長選から蹴落とすなら今がチャンスだといえる。
それにしても、なぜこんなに凝るようになってしまったのだろう。
いくつか可能性を考えてみた。
1.毎日仕事ばかり、仕事しまくり、仕事三昧、仕事パラダイス状態である
2.でも最近仕事が減ってきて残業も少ないから、肩への負担は以前より軽いはずである
3.そういえばここんとこ家に帰るとドラクエ8ばかりしていたなあ
4.それか、毎晩寝ている間に、肩をボンドで固められているのか
5.それとも、毎晩寝ている間に、肩にセメントを注入されている可能性もある
6.それにしても王将の焼きそば(醤油味)と中華飯のコンビは最強である
7.何を言っているんだ麻婆茄子を忘れたのか

6である可能性が高いという結論に達し、
肩が凝っているという事すら忘れることに成功した私は、
会社帰りに最寄の駅近くにある王将に行き、焼きそば(醤油味)と中華飯と餃子を注文し、
腹を十分目まで満たしたが、
そこでふとマッサージ店にでも行ってみようかという気になった。
人間、食欲が満たされると、次は肩凝り解消欲に襲われるらしい。
人体の神秘に感動せざるをえない。

目指すは、お手軽マッサージ店の大手チェーンである、「てもみん」である。
整体や整骨院ほどの本気度ではないが、コンビニに立ち寄る感覚で、
短い時間でも気軽にマッサージが受けられる利便性が好評のようだ。
さきほどの王将から徒歩10秒程という至近距離である。
王将好きの私のために用意されたマッサージ店としか思えないほどの便利さだ。

しかし、お手軽といえど、マッサージ店など初めての体験である。
どういうシステムなのかもよくわからない。
軽い緊張を覚えながら、意を決して「てもみん」のドアを開けた。
店内はやや暗めだ。リラックスできそうな音楽が低い音量で流れている。
受付には女性スタッフがいた。

「いらっしゃいませ」

その女性スタッフは20代中盤といったところか。長い髪を後ろで纏め、背の高い細めの体型、
小顔ではっきり言って美人だ。こんなお姉様にマッサージをしてもらえるのか。
こんなことなら、もっと早く来てみればよかった。

「ええと、初めてなんですけど」
「アラ奇遇ですね。私もなんですよ」
「え。どういうことですか」
「私も今日が初出勤日なんですよ」
「そ、そうですか」
「では何分コースにいたしましょう。初めてでしたら、40分以上がおすすめです」
「(こんな綺麗な人にマッサージをしてもらえるんなら、奮発しよう)じゃあ、ええと、60分で」
「わかりました。ただ今準備をしますので、少々お待ちください」

約7000円を支払った。財布から札が全部なくなってしまったが、まったく後悔していない。
受付をしてくれたお姉様は新人のようだから、
マッサージそのものはあまり期待できそうにないが、
美人だからすべて許せる。
お姉様はにっこりと微笑み、待合コーナーへ案内してくれた。

店内を見回す。
受付をしてくれたお姉様以外にも、女性スタッフの姿が多数見える。
しかも全員若く、綺麗である。目の保養にもなる。
お手軽マッサージ屋と思って侮っていたが、なかなかどうして、
こんなレベルの高い癒し系スポットだとは思わなかった。

施術台、というのだろうか。ベッドはカーテンで仕切られており、
他の客の様子をうかがうことは出来ない。が、
スタッフと客のやりとりする声は聞こえてくる。

「腰のあたりをもう少し重点的にお願いします。ちょい強めで」
「わかりました」

などと客がスタッフに注文をつけたり、

「最近お仕事のほうはどうですか?」
「いやー不況で仕事が減ってねえ。参った参った」

などと、スタッフから客に話しかけていたり、わりと気軽な会話も聞こえてくる。
積極的にコミュニケーションを取ってくれる方針の店のようだ。

これらの様子を総合すると、どうやら店内スタッフはほぼ女性、
客は私のようなサラリーマン男性と若い女性が半々といったところ。
女性客にしてみれば、おなじ年代の女性からマッサージを受けられるので安心できるのだろう。
そして男性客からしてみれば、中年のおっさんに力いっぱいマッサージされるより、
若い女性にしてもらったほうが気持ちよさも倍増するのではないだろうか。
実際、デレデレしたおっさんの声も聞こえてくる。
マッサージのみならず、積極的なコミュニケーションによって、
肩こりや腰の疲れだけでなく、心も癒され、満たされるに違いない。
ここが昔ながらの整体や整骨院などと大きく違う点だろう。

この手の店が繁盛するのも頷ける話だ。
期待は高まる。

「お待たせしました。では今からマッサージを始めますね。こちらへどうぞ」
先ほど受け付けをしてくれたお姉様がやってきて、
空いている仕切りへ案内してくれた。仕切りのカーテンが開いた。
しかし、そこに待っていたのは、
私より明らかに年上の中年男性(パパイヤ鈴木似)だったのである。
お姉様は、さっさと受付へ戻ってしまった。

パパイヤが満面の笑みで言った。
「じゃベッドに横になって」

私は慌てた。
「ちょ、ちょっとまって。まって」

「は?どうしました?」
「あなた、何ですか?」
「いきなり失礼な客だな。俺はマッサージ師に決まってるだろう。あんたの肩の凝りを解消するためにここにいるんじゃないか」
「さっきのお姉様は・・・」
「あの子はまだ新人だ。他のスタッフが手いっぱいになったらやってもらうつもりだが、ちょうどタイミングよく俺が空いたからね」
「何だと」
「ははあ。さてはお客さん、若い女の子にマッサージしてもらえると思って期待してたね?」
「・・・」
「なに、非力な女で、しかも新人がやるより、ベテランの俺がフルパワーでやったほうが絶対いいって。お客さん、むしろ運がいいよ」
「いやだ。こんなオチはドラクエだけでじゅうぶんだ」
「何をわけの分からないことを。ここは風俗店じゃないんだから。あんた変な期待しすぎなんだよ」
「くっ・・・」

これから60分、カーテンで仕切られた空間で、あの受付にいた美人のお姉様にみっちりマッサージをしてもらえるとばかり
思っていたのだが、考えが甘かったようだ。
しかし、よりにもよって、パパイヤ鈴木にそっくりのむさくるしいおっさんである。
今世紀最大のがっかり具合を味わった。
約7000円を支払い、財布から札が全部なくなってしまったことを激しく後悔した。

それでも私は、精一杯の抵抗を試みることにした。
いくらカーテンで仕切られているとはいえ、声は店内に筒抜けであるため、私は目と念力でパパイヤに訴えた。

「(頼むパパイヤ!一生のお願いだ。今からでも遅くはない。さっきのお姉様とチェンジしてくれ!)」

するとパパイヤは、私と同じようにアイコンタクトによって私の心に語りかけてきた。
「(まあ、気持ちは分からんでもないがね。でもだめだ。あきらめてベッドに横になりな。60分みっちりフルパワーで肩凝りをほぐしてやるよ)」
「(そこをなんとか!なんなら指名料金払ってもいい)」
「(バカ言うな。ここは風俗やキャバクラとは違うと言っただろう。勘違いもはなはだしい)
「(あ、ちょっと待ってくれ。よく考えたらそんなに肩凝ってなかったようだ。フルパワーだとかえって体によくなさそうだから、非力なお姉さんにしてもらったほうがちょうどいいかも)」
「(大丈夫だ。俺で問題ない。ちゃんと力の加減はできるから安心しろ)」

パパイヤはどうしてもチェンジを許してくれない。
そんな事をしているうちに、別の男性客が店にやってきて、例の受付の新人お姉様がマッサージを担当することになったようなやり取りが、
カーテンの向こう側から聞こえてきた。
さっそく施術が始まったようである。

「すいません私今日初めてなもので。力加減とか弱かったりしたら言ってくださいね。なるべく力入れるようにがんばりますんで」
「ああ、ちょうどいいよ。あー気持ちいいあーそこそこ。それにしてもお姉さん、美人だねー。マッサージも上手だし。いやー肩も凝ってみるもんだ。今日はラッキーだなへへ」
「どうもありがとうございますー」

そんな会話が聞こえてくる。

「(ほれ見ろパパイヤ。お前がモタモタしてるから、お姉様取られてしまったじゃないか)」
「(取られるとか人聞きを悪いことを言うな。あんたのマッサージ担当はこの俺だ。いいからさっさとベッドに寝ろ)」
「(こうなったら意地だ。あのお姉様でなくてもいい。他の女性スタッフと交代してくれ)」
「(駄目だと言ってるだろうが。他のスタッフもみんな施術中だ)」
「(くっ。何で俺だけパパイヤを相手にしなきゃいけないんだ)」
「(そりゃこっちのセリフだ。俺だってお前みたいな野郎よりネーちゃんにマッサージしたいに決まってるだろ)」
「(あっ。本音が出たな。このセクハラマッサージ師め)」
「(こっちは仕事としてやってんだ。文句あるか。だいたい、俺の施術は素晴らしいと評判なんだぞ)」
「(パパイヤの分際で偉そうに。おおかた、ここの女性スタッフ目当てで働いてるんだろう)」
「(俺は自分の資格を生かした仕事をしているだけだ。どこで働こうが俺の勝手だろう。それより俺の事をパパイヤパパイヤ言うな)」
「(ふん。パパイヤに似てるおっさんをパパイヤと言って何が悪い)」
「(うるさい客め。そんなに俺のマッサージがイヤなら帰ってくれ。金は返さんぞ)」
「(それが客に対する口の利き方か。このエロ按摩野郎)」
「(あんたこそ口の利き方に注意したほうがいい。人権侵害すれすれだ)」
「(あっ。見ろ。もう30分経過した。まだ何もしてもらってない)」
「(あんたがゴネるからだろうが。さあ、おとなしくマッサージ受ける気があるなら、早く寝てくれ)」
「(くそう。訴えてやる。寝てやる。おねしょしてやる)」

この争いが不毛であることを認めた私は、すべてをあきらめ、
仕方なくパパイヤ鈴木に身を預けた。
たまたま綺麗なお姉様が受付をしていたために舞い上がってしまったが、
本来の目的は肩凝り解消だ。
パパイヤの言うとおり、男のパワーで揉み解してもらったほうが、
より凝りを解消できるだろう。

「どこが凝ってるの?」
「・・・肩」
「どれどれ。あー凝ってるねえお客さん。こりゃいかんよ」
「・・・そうすか。・・・あーそこが気持ちいい」
「ここね。はいはい。あんちゃん、最近仕事のほうはどうよ?」
「・・・まあ、この不況ですからね。なかなか・・・」

結局、私とパパイヤは、マッサージの傍ら、
日本経済の先行きや雇用問題、内閣批判といった熱い議論を交わした。
肩はじゅうぶんにほぐれたが、心のどこかにしこりの残る体験であった。
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青春時代
「私、行かないことにしたわ」

女性はそう言うと、足を組み換えながら煙草に火を点けた。
天井に向けて吐き出す煙。

「でも、誤解しないで。あのリーダーのことが気に入らないわけじゃないの」

「・・・・・・」

女性の目の前に座っている男は、俯いたままだ。
何かに耐えているように見える。

「ああいった気質は、リーダーとしてなくてはならないものだわ。
私がナンバー2に甘んじているのも、あの強引さが足りないせいだと思ってる」

「・・・・・・」

「ただね。今回の合宿、実りのあるものになるとは、どうしても思えないの。メンバー個々の動きが、まだばらばら。到底合わせられるレベルになってないわ」

女性は前髪を掻き上げ、頭を小さく左右に振る。
再び煙草の煙を天井に向けて吐き出す。

「ねえ新人クン。君が見たってわかるでしょう。リーダーが何をそんなに急いでいるのかわからない。私がリーダーの座を脅かしているとでも考えているのかしら。人気を集めようと躍起になって、挙句の果てに今回のような強引な合宿計画。ちょっとおかしくなってるんじゃないかしら。あの子」

「そ・・・そうでしょうか・・・」

ずっと無言だった、新人クンと呼ばれた男がようやく口を開いた。
一瞬だけ、女性の顔を見た。そしてまた俯いてしまう。
女性の大きく開いた胸元に、目のやりどことがなくて困っているのか、ただ女性を目の前にして緊張しているだけなのか。

「だから私は行かないことに決めたの。さっきも言ったけど、あの子のことが嫌いなわけじゃない。ただナンバー2である私が行かないことで、あの子が少しでも頭を冷やしてくれたら・・・って、そう思ってる」

「ぼ・・・僕はその」

「いいの。私に合わせなくても。新人クン、あなたは行きなさい。憎まれ役は私一人で結構。君にはなにか大きなものを掴んで帰ってきてほしいの」

「・・・・・・」

「ほら、そんなに黙らないで。私がいなくたって、君なら大丈夫よ。君には才能があるわ。努力や根性だけでは追いつけないほどの、天賦の才能があると私は見てるの。だから君はこんなつまらないことで私とあの子のごたごたに巻き込みたくない」

「・・・・・・はあ」

「私の夢は、このサークルを日本一、いえ、世界一の劇団にする事。今回の件も、サークルにとって次のステップに進むための試練なのよ。新人クン、私の夢に手を貸して頂戴」

「え・・・・・・」

女性は従業員を呼び止める。

「すいません。同じものをもう一杯いただける?」

顔から体型から朝青龍にそっくりのその女性は、空になった大ジョッキを高々と掲げ、餃子の王将橋本駅店の店員におかわりを告げた。

僕はその様子を、向かいの席から、笑いを必死にこらえながら眺めていた。回鍋肉が吹き出しそうだった。
なぜ可笑しかったのかは、よくわからない。
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