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2014/11/8 更新してないねぇー ねたはあるんだけどね
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誰がためのクエストか
俺は今、とある老人に頼まれてテンツクを退治しているのだが、
ふと疑問を覚えた。
これで良いのか? と。
というのも、このジジイが俺にテンツクを退治させる理由というのが、

「孫にテンツクに似ていると言われてキズついた」
「キズついたワシの心を癒すために、テンツクを10匹退治してくれ」

まったく、なんというくだらない私憤か!
要するに八つ当たりの憂さ晴らしだろう?
孫がテンツクに殺されたとかいうならともかく、
そんな理由で退治されるテンツクが哀れすぎる。
テンツクにしてみれば、ジジイに似ているかどうかなど
まったくもって知ったことじゃない、まさにいい迷惑。
むしろ失礼な話である。
その場の勢いで、ついつい気楽に引き受けてしまったが、
これは果たして正しい選択だったのだろうか。

否。確かにテンツクは魔物だし、
取り立てて容姿が優れているわけでもないが、
だからと言って憂さ晴らしで殺されるいわれもない。
この場合どちらに非があるは、問うてみるまでもないだろう。
仮にテンツクを猫に置き換えてみれば、ジジイの非道ぶりは明白である。

じじいとテンツク。
魔物というなら、むしろこのじじいこそが魔物ではないのか?
エゴの魔物。エゴイスティック・モンスター。

俺はこれまで、平和のためと信じて、正義は我にありと信じて、
(つまりは義憤をもって──)
民家のタンスを漁ったり、壺を破壊するのと変わらない気持ちで、
道端を跋扈する魔獣テンツクをことごとく退治してきたわけだが、
じじいの依頼を受けてからというもの、
一個人の身勝手な私憤を晴らすために罪もないテンツクを痛めつけている、
というもの凄く後ろめたい気分に苛まれている。
そして何より、この依頼の究極に度し難いのは、その実質な意味合いが、
「自分の代わりにトイレに行ってきてくれ」というのと変わらないことだ。
他人にやらせて何の意味がある?
俺がテンツクを退治して、それで本当にじじいの憂さが晴れるのか?
じじいはテンツクが退治される様を確認さえしていないのだぞ?

先ほど、9匹目のテンツクを退治した。
そうして今、非常にやるせない気持ちで、
10匹目のテンツクを退治した。すると、
どこからともなく背徳的なファンファーレが鳴り響き、
報告を受けたじじいは大喜び。
罪もないテンツクが10匹天に召されたことで、
このじじいの憂さは晴れ、俺は褒美に小さなメダルを手に入れた。

小さなメダル。
この結末、その報酬は果たして、大であるのか、小であるのか。
一人の人間のエゴによって、
10匹のテンツクが意味もなく命を奪われた、その結末が……。

無論、大である。
10匹のテンツクが小さなメダル1個と等価であるならば、
テンツクの評価は今まさに「跳ね上がった」。
もはや金と経験値だけの生き物ではない。
まして、このじじいの依頼が一度限りのクエストでないというなら。

またしても孫に「テンツクに似ている」と言われたらしいじじいは、
性懲りもなく「もう一度テンツクを10匹退治してくれ」と言う。
俺は、よしきた! とばかりに、
あっさりこのエゴイスティック・モンスターに魂を売り渡した。

たちまち10匹のテンツクを虐殺する。
大丈夫だ。何も心配ない。
メダルのためならば、テンツク10匹の命も無駄にはならない。
むしろテンツク冥利に尽きるというものだ。
メダルメダルメダル〜。
ほくほく顔でじじいのところに報告に向かうと、
じじいは大喜びで、「へびのぬけがら」をくれた。
は?
小さなメダルは?
念のため、更に10匹のテンツクを虐殺。
しかし、どうやら二回目以降の報酬は「へびのぬけがら」らしい。
何てことだ!
この仕打ちに心底腹を立てた俺は、
自分がすでにエゴのモンスターと化していることに気がついていない。

しかし、テンツク10匹の命が「へびのぬけがら」1個とは。

まあ、妥当なところだろうな。
comments(2)
めくるめく
「それでは始めるとしよう。心の準備はいいかね。ヘイスティングズ君」
「はい。お願いします。先生」
「よし。・・・つまんだ」
「ああっ。先生の親指と人差し指がっ」
「つまんでいるぞ。確かに私は今、紙の端っこを指でつまんでいる」
「先生っ。どうか紙で指を切らないでください。折り目をつけないでください。あせっていはいけません」
「わかっているとも。ではいよいよめくるぞ」
「ついにめくってしまうのですね。めくられてしまうのですね」
「そうだヘイスティングズ君。我々は今、紙をめくろうとしているのだ」
「もう平常心ではいられません。先生、お気を確かに」
「私は大丈夫だが、君は少し落ち着いたほうがいいだろう。深呼吸をしたまえ」
「は・・・はい。・・・ふう。落ち着きました」
「では、もういいかね。私は早くめくりたいのだが」
「申し訳ありません。取り乱してしまいました。お恥ずかしい」
「私は待ちくたびれてしまったよ。君が深呼吸している間も、私は指で紙をつまみ続けていたのだから」
「もう大丈夫です。先生、お願いします」
「ではめくろう。いくぞ」
「ああっ。先生の親指と人差し指がっ。紙をつまんでいる二本の指がっ」
「実に感慨深い。我々は、今まさに紙をめくっているのだな」
「めくっています。めくっていますとも」
「今日は記念すべき日だ。私は自分の指で、この紙をつまんでめくっているのだ」
「た、大変です。先生」
「何事かね。ヘイスティングズ君」
「私は、どちらを見るべきなのでしょう。めくられた紙の裏側か、めくられた紙の下にあるものか」
「好きなほうを見ればよろしい。だが、私の心は既に決まっている」
「先生のお気持ちを教えていただけますか」
「無論、紙の裏側だよ。ヘイスティングズ君。我々が紙をめくるのは、他ならぬ裏側を見る為なのだからね」
「そうでした。さすが先生、こんな時でも落ち着いていられるのですね」
「そうだ。私はいかなる場合でも常に冷静なのだ」
「では、裏側を見ることに専念します。先生、続けてください」
「よかろう。そろそろ裏側が見える頃だ」
「裏側。裏側ぁっ。はあはあ」
「一気に裏返すぞ。よく見ていなさい」
「ええっ。めくるだけでなく、裏返してしまうのですか。先生っ」
「大丈夫だ。安心しなさい。私は失敗しない」
「あああっ。裏返されてゆくっ。紙が。紙がつままれてめくられて裏返されてゆくぅ」
「ヘイスティングズ君。ヘイスティングズ君」
「・・・はっ。先生」
「終わったよ。ヘイスティングズ君」
「私は・・・、気を失っていたのでしょうか」
「どうやらそのようだ。君が失神している間に、紙はすっかり裏返ってしまったよ」
「本当だ。紙が・・・裏返って・・・」
「どうかねヘイスティングズ君。すっかり裏返ってしまった紙を見る気分は」
「いやあ、私としたことが。裏返る瞬間を見そびれてしまいました」
「ヘイスティングズ君。君に重要なことを教えよう」
「はい。なんでしょうか。先生」
「つまみ、めくり、裏返す瞬間が大事なのではないよ。事の本質は、紙の裏側にあるものだ」
「ありがとうございます。先生。さすが私の先生」
「なに。私にかかれば、紙をつまんでめくり、裏返すことなど造作もない事だよ」
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