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2014/11/8 更新してないねぇー ねたはあるんだけどね
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今日のうずまきコンドミニアム
「ちょいと邪魔するぜ」
「へぃらっしゃい。おっと、こいつぁ珍しい、旦那じゃねぇかい」
「おう、親爺。久しいな」
「いやぁ、本当に久方ぶりだねぇ、旦那。しばらく見ねぇうちにまたずいぶんと渦巻いちまってるみたいだけど、今日はどうしたんだい?」
「どうしたもこうしたもねぇさ。ちょいとバタバタしてるうちにこのザマよ。まあ、細けぇことはいいから、いつもの調子でパパッと頼むァ」
「へい、パパッとね。かしこまりやした。しかし旦那もお人が悪い。あっしも長ェことこの仕事してるが、こんなに渦巻いちまってるのは見たことがねぇよ。もちっと早く来てくれりゃあ世話ァねぇのに、これじゃさすがのあっしも一苦労だ」
「おうおう、それが客に対するもの言いかね。人には事情ってモンがあんだろうが。まったく、ここの親爺ときたら腕はいいくせに愚痴っぽいからいけねぇや」
「へへぇ。こりゃどうも。お褒めの言葉と受け取っときやす」
「馬鹿。何処をどう聞いたらお褒めの言葉になるんだよ」
「いや、腕はいいってのがね。さすが旦那はわかってらっしゃるなと」
「へっ、もういいよ。つまらねぇこと言ってねぇでさっさとやってくんな。俺ァこう見えても忙しいんだ」
「合点承知。だが、どうかすると鼻の奥がビリッとするかもしれねぇから、そんときゃ大声出さずにぐっと堪えてくだせぇよ。こんなトコロで旦那に泣き喚かれたんじゃ、子供がおっかながって商売になりゃしねぇ。それから、あとになってやっぱり元に戻せなんてぇのもナシだ。はい左様ですかと、ほいほい戻せるもんでもねぇんだから」
「ンなこたわァってるよ、いちいち煩ぇ親爺だな。こちとら腹ァ括って来てんだ。泣きもしねぇし、喚きもしねぇ。後悔なんぞするものか。これ以上渦巻いてカカァを泣かせるわけにゃいかねぇんだよ」
「ははあ、するってぇとやっぱり今日は奥さんに丸め込まれて?」
「馬鹿、丸め込まれてってこたぁねぇが……いや、しかし詰まるところはそんなモンか。俺がいつまでもこんなふうじゃ、あいつも気が気じゃねぇんだろうよ」
「へぇ。そりゃまあ、そうでございやしょうな。赤の他人だってンんならいざ知らず、いい歳こいた亭主がこんなに渦巻いてたんじゃ……」
「ンだよ、てめぇが言うなよ。それでオマンマ食ってんだろうが。せっかく来てやったってのに甲斐のねぇ。ちったぁ有り難がれってんだ、この野郎」
「おっと、こいつぁいけねぇ。うっかりだ。もちろん旦那にゃ感謝してるんでごぜぇやすよ。なんだかんだと言ったって、旦那が渦を巻いてくれねぇと、あっしは商売ができなくて困ります」
「おう、素直じゃねぇか。素直な親爺てぇのも調子が狂うが。まあいいさ。娘の入学式も近ぇコトだし、せいぜい恥ずかしくねぇようにしてやってくんな」
「へへっ、そりゃもちろんで。任しておくんなせぇ。しかし娘さんときたか」
「なんでぇ、俺に娘がいちゃ悪ィかよ」
「いやいや、誰も悪ィたぁ言いませんがね。ただ、その娘さんてぇのはやっぱり旦那に似てさぞかし──」
「余計なお世話だ、このタコ。あいにくとウチの娘は母親似でな。てめぇが思ってるより百倍は美人だぞコラ」
「美人?」
「おうよ。俺が言うのもなんだが、ありゃあ相当なモンだ。今はただの味噌っカスだが、あと十年もしてみろ。てめぇが腰抜かすくらいの上玉になるぞ」
「ははぁ。左様ですか。旦那の娘さんがねぇ。なるほどそうか、鳶が鷹を産んだってヤツだ」
「だからてめぇが言うんじゃねぇよ。無礼な親爺だな。だいたいアレだぞてめぇ、ほら、ウチの母ちゃんだってまだまだ捨てたモンじゃねぇんだから、鳶ってこたァ──」
「おいくつなんで?」
「何が? 母ちゃんか?」
「娘さんですよ。入学ってぇと?」
「ああ娘か。娘は今年で六つだよ。四月に小学校に上がるんだ」
「ほう。そりゃあ可愛い盛りだ。きっと目に入れても痛くねぇんだろうねぇ。しかし旦那がそこまで親馬鹿だったとは畏れ入った」
「勝手に畏れ入るんじゃねぇよ、馬鹿。そんなことより、そろそろおっ始めてくれねぇかい。こちとら仕事抜け出して来たもんで時間がねぇんだ」
「へっ。ではさっそく。しかし旦那、正味な話、これだけ渦巻いちまってるのを一発で片付けようってェのは、ちょいとね、なんと言っていいやら」
「なんでぇ、しゃらくせぇ。日に十人は捌く親爺の言葉とも思えねぇな。何か問題でもあるのか」
「いや、問題ってほどのもんじゃねぇが……ただね、あっしももう歳だから」
「何言ってやがる。てめぇは昔から爺ィじゃねぇか。心配しなくたって、これが最後だから二度とあんたに面倒はかけねぇよ」
「最後? 最後とはまたおかしなこと言ったモンだな。旦那とあっしは切っても切れねぇ腐れ縁てぇヤツでしょうに」
「いや、冗談じゃねぇんだ、親爺。俺もそろそろケジメをつけてぇと思っていたし、丁度いい機会だからこれで最後ってコトにさしてもらうぜ。もともと今日はそのつもりで来たんだからよ」
「う、嘘でしょう? じゃあもう二度と渦は巻かねぇとおっしゃるんで?」
「おうよ。そのつもりだ」
「金輪際?」
「だからそのつもりだと言ってるじゃねぇか。しつこい親爺だな。とにかくそういうわけだから、てめぇの世話になるのもこれが最後だ。まァ、だからってワケでもねぇが、今日はせいぜいサービスしてやってくれや」
「そんな。ちょっと待ってくだせぇよ旦那。そりゃあんまりだ。殺生だ。あっしは毎回旦那が渦を巻いて来るのを楽しみに──」
「煩ぇよ。俺ァもう決めたんだ。てめぇもプロなら一々客に突っかかるんじゃねぇ!」
「だ、旦那ぁ……」
「……そりゃあな、俺だってちったあ寂しいとは思うよ。だが、しょうがねぇじゃねぇか。あんただってわかってるはずだ。いつまでもこのままじゃいられねぇ。そういうご時世なんだよ」
「そ、そりゃあまあ、わからねぇでもねぇが……」
「だったらさっさと始めやがれ。俺にゃあもう未練はねぇんだからな」
「やっぱり本気なんですかい、旦那」
「おう」
「……わかった。そうまで言うなら仕方がねぇ。あっしも男だ。これから一世一代の大仕事に取りかかるよ。だが、その前にひとつ言わせておくんなせぇ」
「何だよ。今さら何を言われようと心変わりする気は──」
「こんな商売をしているあっしが言うのもおかしな話だが、あっしはもう長ぇこと旦那に惚れ込んでる。旦那が初めてウチに来て以来、人間ここまで渦を巻けるものかと正直、憧れていたンでさぁ」
「ふん、そいつぁ確かにおかしな話だ。人が渦巻いちまったモンをどうにかするのがてめぇの仕事だろうに、それをよりによって憧れていただと?」
「へぇ。実は小せぇ頃からずっと」
「渦を巻くことにか?」
「へぇ。その通りでごぜぇます。あっしの父親も母親も、それは見事に渦を巻いておりやしたから。あっしもいつかはそうなるモンだとばかり……しかしね、旦那。人にゃあ持って生まれた器量ってモンがある。旦那は何の気無しに渦を巻いてたのかもしれねぇが、あっしには逆立ちしたってできねぇことだった」
「おいおい、そんなことはあるめぇ。こんなモン、大したことねぇだろ。ちょいとこの辺を捩ってだな──」
「そうじゃあねぇんだ。旦那。確かにちょいと渦を巻くくらいなら、そこいらの若造にだってできる。今の若い連中は人目も憚らずに堂々と道端で渦巻いちまって、きっとファッションか何かと勘違いしているんでしょうねぇ。実際ウチに来る客の大半もそういう連中でさぁ。しかし、若ぇ頃のあっしが求めていたのはそんな紛い物じゃあねぇ。あっしは本物になりたかった。本物になってこそ意味があるんでしょうに。だが、あっしごときの力は遠く及ばず。何の因果かこうして他人様の巻いた渦をどうにかする方の仕事に就いちまった。まったく皮肉なモンでさぁね」
「それで、あんた俺が本物だとでも言うのかよ」
「もちろん旦那は本物でさぁ。さっきも言ったが、あっしはこんなに渦巻いちまっているのを見たことがねぇ。ウチの父親だってここまではならなかったんだから、実際、こいつは只事じゃありやせんぜ」
「そうかよ。そんなにかよ。しかし、このまま放っておくわけにもいかねぇから、こうして親爺の世話になりに来たんだぜ、俺は。くれてやれるモンならくれてやりてぇところだが──」
「心中お察しいたしやす。確かに、ここまでくると持て余すのも仕方ねぇとは思いますよ。奥さんが心配するのももっともだし、小さい娘さんには合わせる顔がねぇでしょう。しかしね、旦那。これだけは覚えておいてほしい。旦那がどうにかしちまいてぇと思ってるそいつは、実は何物にも代え難ぇ宝なんだ。そりゃあ今どうにかしちまうのは簡単だが、もう少し、ほんのもう少しだけ我慢すりゃあもっともっととんでもねぇコトになってくるかもしれねぇ。あっしはそれが見てみてぇ!」
「み、見てみてぇって、おめぇ……」
「旦那は見てみてぇとは思いませんかい?」
「いや、俺ァ別に……」
「何もやらねぇとは言ってねぇ。あっしも男だ。一度やると言ったからにはきっちり仕事はさしてもらいやす。しかし、せめてあと十日、いや、一週間でいい。もし本当にこれが最後と言うなら旦那、どうかあと一週間だけでも待ってもらえねぇだろうか。勝手なことを言ってるのは重々承知だが、あっしは旦那に一生の夢を託してぇんだ!」
「…………」
「頼む旦那、この通り!」
「…………」
「旦那!」
「……そうかよ。そんなにかよ」
「だ、旦那?」
「……負けたよ。親爺の熱意にゃ完敗だ」
「え? それじゃ」
「おう。俺も男だ。一週間と言わず、二年でも三年でも待ってやる。こうなったら限界まで挑戦してやろうじゃねぇか。カカァのたわごとなんぞ気にするこたぁねぇ。それでいいな?」
「だ、旦那ぁ〜!!」
「よせよせ、抱きつくんじゃねぇよ。大事な渦が台無しになる」
「ああ、やっぱり旦那は本物だ。あっしは、あっしは──」
「おいおい、いい歳こいた親爺が泣くんじゃねぇよ。みっともねぇ。ほれ、いいからこいつを取っときな。今日の分だ。ツリはいらねぇからよ」
「旦那ぁ〜〜」
「なぁに、男なら渦を巻け。そういうことさ」
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