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2014/11/8 更新してないねぇー ねたはあるんだけどね
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Lemmingology#1:The Another Side of Life
「全爆弾作動開始。あと5分で爆発します。取り消しできません」
俺はあせった。予定より、だいぶ速いじゃないか。
もう少し余裕があると思っていたのだが、このままでは急がないと
爆発に巻き込まれて死んでしまう。
もうこんな所にいたくはない。
薄暗い、この回廊から、早く脱出しなければ。
死ぬのは嫌だ。
俺は左足を庇いながら出口へ向かって走り始めた。
今回の任務は壮絶だった。
100人体制で突撃したこの洞窟だったが、もう50人以上の仲間を失っているはずだ。
残りの仲間は無事に脱出できたのだろうか。
いや、そんなことを考えている時間はない。
出口のある方向は分かっている。
東だ。ひたすら東に向かえば、出口がある。
簡単に助かることができる。
しかし、そうもいかなかった。
走れば、2.3分で辿り着ける距離なのだが、俺自身、左足に大怪我を負っていたし、そのうえ名前も知らぬ女を背負って走っているのだ。

女は、この回廊の、比較的地盤の緩い所で倒れていた。
逃げ遅れてくずれた岩盤の破片でも直撃したのか、女は意識を失ってはいるが、命に別状はないようだ。
ほとんど生命反応のなくなった、この回廊で、生存者に出会えるとは思ってもいなかった。
この女も、俺同様、相当な訓練を積んだ、一流のマイナーであることは間違いない。
体つきが違うし、なにより、腕のマーキングを見れば一目瞭然だ。
しかし、訓練と経験を積んでいる以上、いつ死んでも良いとこの女も思っているのだろうし、俺だってそうだ。
死を恐れていては、こんな仕事などできないのだ。
だが、今の俺は、どうしたわけか、この女を背負って、ここから脱出しようとしている。
他人を犠牲にしてでも生き延びる。倒れた者は起こさない。傷ついた者も、助けない。
それがこの仕事の掟。
他人を助けるなどという教育は一切受けていないし、そんな余裕のある仕事でもない。常に死と隣りあわせなのだから。
しかし、今、確かに俺は、プログラムされていない行動をとっている。
このまま無事に脱出したところで、俺は非難を浴びるに決まっている。
ルール違反で、この女もろとも殺されてしまうかもしれないが・・・。

「あと4分。出口に近い生存者は、急いで脱出してください」
このままいけば、間に合うはずだ。
しかし、疲労と、大量の出血で、俺の意識は朦朧としていた。
立ち止まる。膝から崩れ落ちた。
少し、休まねば。1分。いや、30秒でいい。休もう。
女を背から下ろし、地面に寝かせる。
息を整える。大丈夫だ。ここまで来れば・・・。

ふいに、女が意識を取り戻した。
「う・・・」
俺は少し、ほっとした。
しかし、この女は、俺に助けられたことを知って、どう思うのだろうか。
「目を覚ましたか。爆発まであと4分もない。立てるか」
俺は、つとめて冷静に言った。
「助けてくれたの・・・?あなたが?」
女は、上半身を起こしながらそう言った。
頭を振る。一刻も早く調子を取り戻したいようだ。
驚いた。女は、とても若かったのだ。子供のような小さな顔つきだ。
この仕事には不向きな、長い黒髪が、乱れている。
「でも、俺はもうだめかもしれないがな」
俺は血が溢れつづける右足の太腿を見ながら、そう言った。
女は、髪を掻き揚げ、額に手をやりながら、俺を見た。
睨まれているようだった。
黒く、大きな瞳だった。
しばらく、無言だった。
「その額の傷・・・」
つぶやくような、小さな声だったので、俺にはよく聞き取ることができなかった。
「どうした?今、何と言った?」
しかし女は無視して俺を睨みつづけた。
いや、俺の、額のあたりを、じっと見ているようだ。
俺のこの額の傷がどうかしたのだろうか。
「ここは?」
ふいに俺から目をそらし、今度は明瞭な発音で女は訊いてきた。
自分が助かったことに礼を言うでもなく、助けたことを非難するでもなかった。
甘すぎるとか、そんなことでよくこの仕事がやってこれたなどと言われる覚悟はしていたのだが。

「ここはKブロックの第3回廊だ。出口まで、あと・・・」
「走って1.2分てとこね。なんだ。もう脱出できたも同然じゃない」
女は立ち上がった。体力も十分回復したようだ。
「ああ。だが・・。」
俺は左足を見た。止血を試みてはいるのだが、血は勢いよく流れつづけている。この左足、もう使い物にならないだろう。
爆発するのが先か。出血多量で死ぬのが先か。
「俺はもうだめだ。お嬢ちゃん。あんた早く脱出しな」
「あと3分です」
「なに言ってるの。あと少しじゃない。がんばりなさいよ」
大人のようなしゃべり方をする女だ。
「いや、もう本当に動けないんだ。それに・・・」
「それに?」
「爆弾がどこに仕掛けてあるのか分からないんだろう?このあたりは崩れ落ちずにすむかもしれない。出口も近いことだし、タイムオーバーになっても、もしかしたら無事でいられるかもしれない」
女は、なぜかため息をついた。
「あなた、ばか?奴がそんな中途半端なことするわけないでしょう? 出口を残して全部消し飛ばすつもりに決まってるじゃない」

そんなことはわかっているのだ。

「おい。こんな話をする暇があったら、とっとといかないか。せっかく助けてやったのに、無駄にする気か」
「でも・・・。」
「さあ早くいけ。他人を犠牲にしてでも自分は生き残る。それが俺たちのルール、掟だろう?」
「掟・・・」
女はそれでもしばらく逡巡していたようだったが、やがて、俺の前にひざまづき、自分の服を破り包帯代わりにし、俺の左足の止血を試みた。
「無駄なことを・・・」
「あなた、こんな止血の方法しか知らないで、よく今までやってこれたわね」
俺は笑った。久しぶりだった。
「まさかそんなことで叱られるとは思わなかったな。あのな、俺だってこの世界に入って40年のベテランだぜ」
女は無視し、止血の応急処置を終わらせた。
「これで血はある程度止まったわ。立てる?」
「ああ、なんとかな」
俺は立ち上がった。まだ痛むし、大量の血液が失われたおかげで体の自由がきかないが、がまんできないほどではなくなった。
少しだけ、生きる気力が沸いてきた。
「これでおあいこね」

お互い、一度づつ命を救われた格好になったわけだ。
礼を言う必要はないだろう。
「いくぞ嬢ちゃん。本当にもう時間がない」
「あと2分で、爆発します」
「それはこっちの台詞。これ以上足手まといになるようだったら、今度こそ本当に置いてくから」
「いい心がけだ」
俺と女は再び走り出した。
今度は背中に重いものがない分、多少楽だ。だが、出口まで辿り着けるだろうか。
満身創痍のこの俺の体が、言うことを聞いてくれるだろうか。
女が俺の後ろをついてくる。
「それと、私にはレミっていう名前があるの。お嬢ちゃんなんて絶対呼ばないで」
レミと名乗った女は、走りながら言った。
「そいつは失礼。生き残ったらそう呼んでやろう」

俺たちは走った。ひたすら走った。俺が先頭を走り、あとからレミがついてくる。
出口まではもうすぐだ。辿り着くことさえできれば、絶対に助かる。
あの出口は、全く別の場所に通じている。
ここの大爆発も、出口の向こう側までは及ばないはずだ。
全力で。
出口まで。
生き残ることしか考えていなかった。
だが。
ひとつだけ、どうしても気になることがあった。
俺は振り向かずに叫んだ。
「お嬢ちゃん!ついてきてるか?」
今の俺の状態では、声を出すのも精一杯だったのだが。
「遅すぎるくらいよ。名前で呼んでって言ったでしょう」
俺は無視して続けた。
「お前さんはなんでこんな仕事してるんだ」
返事は返ってこなかった。
「おい!」
「うるさいわね。このペースじゃ、出口まで行けないかもよ。本当に爆発に巻き込まれて死ぬわよ私達」
「そのときは、あきらめるさ」
「ばかなことを言わないで。話してやるから、もっと速く走りなさい」
ふと、この女が、俺が今までに出会った誰かに似ているような気がし始めた。
そうだ。確か前にも、似たような性格の女がいた。今はどこでどうしているだろうか。
俺はよっぽど、きつい性格の女に縁があると見える。
それにしても・・・。
さっき休んだばかりなのに、早くも息が上がってしまった。
出口まで、体力がもたないかもしれない。そう思い始めたその時。
光が見えてきた。あとは直線だ。もう少し。ここまで来れば。
俺の体よ、持ってくれ・・・。
「私、父を探しているの」
レミが喋りはじめた。彼女とて体力の限界が近いはずだ。
一生懸命走りながら呼吸の合間に言葉を発する。
「母が教えてくれた。私とあなたを捨てて逃げたあの男は、今もろくでもない仕事をしているのよって・・・」

「残り1分を切りました。生存者は急いで脱出してください」
俺の体は、限界を遥かに超えていたようだ。
手足の感覚が完全になくなった。
滑り込むように、俺は倒れた。
「ちょっと!大丈夫?」
あわててレミが抱きかかえ、俺の体をあお向けにしてくれる。
「・・・俺にかまうなって。さあ、いい子だからお嬢ちゃん。あんただけでも生き残ってくれ」
「私、決めていたの」
俺の言葉など全然聞こえていないかのように、レミは言った。
「貧乏で、その日に食べるものだってない時もあったのに、女手ひとつで私を育ててくれて、愛した人に捨てられても、また帰ってきてくれることだけを祈って、気丈に生きていた母のために」
いつのまにかレミは涙を流していた。
「あやまらせたかった。父を突き出して、ごめんなさいって、一言でいいから、・・・絶対見つけ出してやるって、決めてたの・・・」
「おい。お前の母親は・・・」
「死んだわ。私がこの仕事の試験に合格してすぐ。ひどい熱病で・・・。もう少したてば、私がいっぱいお金をかせいで、薬を買ってあげられたのに。おいしいものを食べさせてあげられたのに」
「そうか。マリーがそんなことを」
「うなされていたわ。ヴィッグス、って。愛した人の名前を叫んで。母は、待ってたのよ。最後の最後まで、私の父が、母の愛した人が、現れて、助けてくれるって、信じたまま」
最後はもう、言葉になっていなかった。
「そうか。俺の名前も、ヴィッグスというんだ。こんなときになんだが、偶然はあるものだな」
「母は言ってたわ。その人は額に大きな傷があるって。十字の傷が・・・」

レミの言った通りの傷が、確かに俺の額にある。
「それに、あなた、私の母の名前を知っているのね」
「男の勘ってやつだ。さあもういいだろう」
「いいわけないでしょう。母は死ぬまであなたを愛していたけど、私は憎かった。母をぼろぼろにしてしまった父ヴィッグスが、憎く思えてしょうがなかった」
「お前はやることが残ってる。マリーの墓に、こう言うんだ。ヴィッグスは、お前の憎んできた父親は、こんなくだらない仕事を続けていたが、一日だって残してきた家族の事を忘れたことはなかったとな。そうすれば少しは気も晴れるだろう。俺は今でも、お前たちの前から逃げ出したのは、すまないと思っている。それだけは分かってくれ」
再び、俺の左足から血があふれてきた。二重の止血帯も、何の役目も果たさなくなった。

「あと30秒」
「ばかなこと言わないで!」
レミの顔は怒りに震えていた。
「今さら、何を言うの?母が、どれだけ苦労して私を育ててくれたか、あなたが再び現れるのをどれだけ待っていたか、分かっているの?顔も覚えていないあなたのことを、私はどれだけ憎んでいたか・・・」
「おい。いいから早く・・・」
「それにね、お墓なんてないわよ。そんなお金あるわけないでしょう?死んでしまった母の体、どうしようもなかったから、教会の前に置いてきたのよ。寒い冬の夜だったわ。母が、かわいそうでならなかった」
「わ、悪かった。悪かったから。お前だけは生きてくれ。頼む。レミ。今ならまだ間に合う。さあ走るんだ。出口はすぐそこじゃないか」
本当に、出口まで、もうあと数10メートルの距離なのだ。
涙目のまま、レミは俺を睨んだ。
そして言った。
「さようなら」
「あ・・・ああ」
「助けてくれて、ありがとう」
レミは立ち上がった。
そして、一度、涙を拭い、再び一人で走り出した。

俺の目がかすんできた。レミの後姿をしっかりと見られないのが残念だったが、きっと、俺が昔愛したことのある、あの女と同じ後姿なのだろう。

その時だった。
「あと10秒。急いでください」
レミが走り始めて、まだ10歩も進んでいなかった。
彼女の足下の地面が突然割れ、巨大なトラバサミが出現したのだ。
普通のトラバサミではなかった。
この巨大な罠が持つ二つの刃は、獲物の足首ではなく、胸のあたりを貫くように作られていたのだ。対人間用の、殺戮のための罠、いや兵器だ。

あっと思う暇もなかった。
巨大なモンスターにでも噛まれたかのように、レミの体は
両側から挟まれてしまった。
まさに一瞬の出来事だった。
レミの体に食いついたトラバサミは、一瞬の間をおいたあと、彼女の体を放し、再び地面に潜っていった。
彼女は、倒れなかった。よろよろと、俺に向かって、歩いてきた。
ばかやろう・・・。
方向が逆じゃないか・・・。
レミは、倒れたままの俺の所に辿り着く前に、がっくりとひざをついて、そして、うつ伏せに倒れた。
彼女は一言も発しなかった。
胸に受けた無数の傷はどれも深い。致命傷なのは明らかだった。
真っ赤な血が、彼女の小さな体に似合わない。
レミは、たぶん死んだのだ。

うかつだった。
ふだんの俺ならば、あの程度の初歩的な罠など簡単に見破ることができたのだが。
「あと5秒。ボンバーの個別カウンタ作動開始します」
俺が手を伸ばしても、届かなかった。
歩けばほんの数歩の距離なのに、レミの体がものすごく遠く感じられる。
最後に、抱きしめてやりたかったが、あきらめるより仕方がない。
ただ、俺の左足から溢れる血と、レミの胸から流れ出る血が、
その距離を縮めてくれているようだった。

そしてその時、ふいに、自分の体が熱くなり始めていることに気が付いた。
俺の頭の上で、カウンタが回っている。
「4」
なるほど。そういうことか。
爆弾が、どこに仕掛けられているのか、分からなかったが・・・、
まさか、俺自身が爆弾にさせられていたとは・・・。
「3」
俺は、いつも欠かさず身に付けていたウイスキーのミニボトルを取り出した。
突然の娘の出現に、感慨にふける時間もなかったか。
レミ。そしてマリー。すまなかった。

「2」
俺の体が破裂すれば、レミの体も粉々に吹き飛んでしまうだろう。
それだけが、残念でならなかった。

「1」
でも、仕方ない。
かわいい俺の娘に・・・乾杯。

「ハルマゲドン完了。生存者全員自爆。ミッション終了。ノルマ30%。脱出率36%。ミッションクリア。次のステージへ進みます」
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