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2014/11/8 更新してないねぇー ねたはあるんだけどね
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聖戦

ハンバーガーなどと云う下衆な喰物を出して小銭を稼ぎ続ける舶来のチェーン店。
端金で雇われたレジ担当店員の小娘の耳障りな声と不快なイントネェション。

「いらっしゃいませこんにちは。ご注文お決まりでしたらお伺いいたしまーす」

毎度毎度、この先制攻撃にしてやられる俺であるが、今日こそは屈する事無く立ち向かう決意である。
大体、俺はこの台詞が大嫌いだ。
注文が決まって居るからこそレジに並ぶのである。決まって居ないのに並ぶ阿呆が
何処にいると云うのだ。
何より先ず、料金先払というシステムからして気に喰わない。
これから喰おうとして居る物が出来上がっても居ない内から金を払わねばならぬのが許し難い。
だから、
店のペェスに乗せられぬ様、台本通りの接客が出来ぬ様、店員の出鼻を抉いてやるつもりだ。
世の中マニュアル通りに行かない事を、この目の前の小娘に思い知らせてやるのだ。

「ご注文お決まりでしたらお伺いいたしますが」

短気な小娘が、同じ言葉を発して来た。まるでロボットの様である。
そうか。そんなに注文を聞きたいか。
では云ってやろう。

「いえ、まだ決まってません」

云ってやった。小娘の目を真直ぐ見て、云ってやった。
どうだ。
真逆、全く注文が決まっていない客が、のこのことレジの前に現れるとは思って居ないだろう。
俺はメニューには一瞥たりともくれず、小娘から視線を外さない。徹底抗戦だ。
さあ如何する小娘。俺は未だ注文を決めて居ないのだ。
そしてそう簡単に注文を決める積りは無い。然も俺の後ろは大行列ときた。

「かしこまりました。では、横にずれてお決めになってください。こちらのメニューをどうぞ。お次のお客様、お待たせいたしました。いらっしゃいませこんにちは。ご注文お決まりでしたらお伺いいたしまーす」

何と。
この俺を差し置いて次の客の対応を始めてしまったではないか。予想外の展開である。
一人だけレジから横にずれた処でメニューを見させられる屈辱!
他の客からの冷やかな目線!
「何あの客」
「行列並んでおいて注文決まってないだなんて、莫迦じゃないの」
「決まってなくたって、その場でさっさと適当に注文出来るでしょ普通」
「一人のくせに」
そんな声が聞こえてくる様だ。実際聞こえていたかも知れぬ。

しかし、逆にこれはチャンスである。
次の客もが、もし「いえ、まだ決まってません」と云ったなら、流石にこの小娘も動転するに違いあるまい。
最終的に、この行列に並んでいる客全員が、「いえ、まだ決まってません」と云えば、パニックに陥ること疑い無かろう。
さあ、次の客よ!
「いえ、まだ決まってません」と云うのだ!
マニュアル通りの接客しか出来無いこの小娘に正義の鉄槌をくれてやろうではないか!

だが俺の期待も虚しく、全く空気の読めない次の客は、
「持ち帰りで。テリヤキバーガーセットと、チーズバーガーセット。飲み物はコーラとホットコーヒー。コーヒーはミルクと砂糖無しでいいです。あと単品でアップルパイ」


俺は失望した。
店員のみならず、客までもが、英語を流暢に喋るが如くマニュアル通りの注文をする様を見て、俺はこの上無い絶望感を味わった。
嗚呼。マニュアル頼りの日本社会の縮図、此処に在り。
嘆かわしい。
然もこの客は、すらすらと注文を云い終える事が出来て満足したのか、誇らしげな表情すら湛えているではないか。
日本男児の尊厳も地に落ちた物だ。
支払が終了し、下衆な喰物が次次と袋に詰め込まれて行く。
「お待たせいたしました。こちらがテリヤキバーガーセットとチーズバーガーセット、アップルパイになりまーす。お気を付けてお持ちくださーい。ありがとうございまーす」
何の滞りも無く一人分の接客が完了してしまった。

ふん。
こちらが○○になりまーす、とは何だ。なりまーすとは。
今迄は何だったと云うのだ。
腹立たしい事この上無い。
しかし、真の怒りはこの後訪れる。

「お次のお客様、お待たせいたしました。いらっしゃいませこんにちは。ご注文お決まりでしたらお伺いいたしまーす」

何と、この俺を無視して、次の客の接客が始まったではないか。
店員から忘れ去られてしまったか?
其れとも嫌がらせをした俺への報復の積りか。
何れにせよ、どうやら俺は今客観的に見て
『ハンバーガー屋のレジ横で、只突っ立って居るだけの変な男』
と云う事に成っている。
これほど人で溢れている店の中だと云うのに、この孤独感は何だ。
俺の存在が、丸々無視されて居る様な孤独感だ。
だが、負けて堪るか。
独りで戦い抜いてやる。


・・・都合20分程、俺は注文も決めず、只只レジ横で立ち尽くした。
レジに元々並んで居た客は全て捌けた。昼飯時のピークも過ぎた様だ。

それでも俺はレジ横に立って居る。
店員の小娘も、レジの処に立っているが、決して俺と目を合わせようとしないし、
微動だにしない。徹底的に俺を無視する積りらしい。
俺と店員との戦いは、どうやら長期戦へと縺れ込んでいる様である。

しかし、これでは埒が明かぬ。
仕方無く、俺は口を開いた。
「あのう。ポテトひとつ」

小娘のスイッチが入った。
『何よ。まともな言葉が喋れるんじゃないこの男。気色悪』
とでも言いたげではあったが、兎に角俺への接客は再開された。
真の戦いはこれからだ。

「かしこまりました。サイズは如何なさいますか?」
「S」
「店内でお召し上がりですか?」
「はい」
「かしこまりました。以上でよろしいですかー。150円になりまーす」

店員の小娘は、俺に対してマニュアル通りの接客をこなし、
ほんの数秒で、あっさりと俺の目の前にポテトが運ばれてきた。

結局、俺は負けたのだ。
大企業のシステムに飼い慣らされた消費者という檻から抜け出す事は出来無かったのだ。

俺はレジ前に立った儘、その場で飲み物も無しで一気にポテトを喰う事にした。
失われる水分。下品な塩辛さに悲鳴を上げる舌。
其れでも無理矢理ポテトを全部喉に押し込んだ。
俺はトレイを片付けもせず、無言でその場から立ち去り、直ぐ店を出た。
ささやかな抗議の積りだった。
振り返りはしない。

今頃店内では、俺という男の莫迦さ加減について店員同士が盛り上がって居るに違い無い。
しかし、それでも構わぬ。
負けたとは云え、俺は俺である事を貫き通したのだ。
後悔などしていない。
だが、もう二度と、この店に足を踏み入れる事は無いだろう。
流れる涙の味が、普段よりも少し塩辛い気がした。
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