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2014/11/8 更新してないねぇー ねたはあるんだけどね
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手・クリフ PART1
右手の親指は、左手の親指のことが嫌いで仕方がない。
利き手でも無いくせに親を名乗るのはいかがなものか、いったいどういう神経をしているのか、まったく親の顔が見てみたいものである、と常日頃から考えている。親と名のつくものは人体にひとつだけ存在していれば良い。そしてその資格があるのは利き手たる右手の親指、すなわち自分のみであると信じて疑わない。左手の指揮権を掌握し、命令系統を一本化することが当面の野望である。

一方、普段は温厚な左手の親指も、右手の親指の事を快く思っていない。たかが利き手であるという理由だけで、両手を統括しようとする右手の親指に対して遺憾であるとのコメントを最近発表したばかりである。
右手も左手も能力的には同等であるから、右の事は右手、左のことは左手で分割統治するという従来通りのやり方で良いではないか、という考えである。そのため、右手親指の存在を否定するつもりはないが、右手親指の横暴ぶりをこれ以上看過することはできないと考えている。
仮に右手が左手に対し武力をもって制圧せんと乗り込んできても、簡単にひれ伏すつもりはなく、また右手に劣らぬほどの戦力も有している。

そんな緊張状態が続く中、ある夜、右手が奇襲攻撃に出た。ついに開戦である。
右手軍の小指分隊は密かに爪を伸ばし、攻撃力を最大限に高めていた。そして一気に左手の陣に突入したのである。左手は突然の攻撃に慌てふためき、思いもよらぬ右手小指の強力な攻撃になすすべも無く、一夜にして主力である中指を失ってしまった。

左手軍は緊急会議を開いた。
「してやられた。右手小指の奴め、ひよっこと思って侮っていたようだ。戦いは好まんが、こちらからも攻勢に出なければいかんな」
左手親指は怒り心頭であった。主力を失いはしたが、優秀な部下は揃っている。右手が一度の勝利に浮かれている隙を突いて反撃し、一気に戦争の主導権を握ろうというのだ。
これに対し、反発したのは人指し指である。知勇兼備の良将と称えられ、左手軍のみならず右手軍からもその有能ぶりを賞賛する者がいるほどだ。
「なりません。中指を欠いた今、正面からぶつかっては勝てる見込がございません。ましてや右手はこちらの主力を叩いたということで、士気が上がっておりましょう。今一度、お考え直しを」
ではどうするのだ――と親指が口を開きかけたとき、小指が前に出た。
「私に策がございます。初戦における右手軍の戦功第一は小指とのこと。我ら左手軍にも小指あり、というところを見せつけてやろうかと思います」

翌朝、左手軍の小指小隊は右手軍の駐屯地である右脇腹の目の前に陣取り、右手軍を困惑させた。

「あれだけの少数で我らの前にのこのこ現れるなど、死にに来たようなもの。私にお任せを。数分で片付けてまいります」
そう言ったのはまだ若い右手薬指であるが、血気に逸るきらいがある。右手の参謀である人差し指が諫めた。
「いや、何か策があるに違いない。そうでなければ我らの前に堂々と姿をみせるはずがない」
これには、普段であれば猪突猛進するはずの右手大将・親指も同意見であった。
「そうだな。今は様子を見ておいたほうがいいだろう。何も無いようならば、あんな左手小指の若造など叩くことはたやすいからな」
そう言われて一度は引き下がったものの、初戦で後輩の右手小指に活躍の場を取られ、功を焦っていた右手薬指は、上層部の命令を無視し、自身の全戦力を持って左手小指の陣に正面からぶつかっていった。

しかし、当然ながらそれは罠であった。
右手薬指隊が左手小指の小隊と爪を交えようかというその時、両脇から伏兵が出現したのである。
両翼を指揮するのは左手小指の分隊である第一関節と第二関節。
合わせて三方向から包囲殲滅する作戦であった。
その左手小指の作戦を知った右手薬指は、すかさず薬指全軍に伝令を出す。
「動揺するな!一隊の数では我々のほうが勝っている。各個撃破すればよい。中央突破の後、左に展開して第二関節分隊を叩く!」
右手薬指の判断は素早く、また的確であったため、薬指隊の動揺もすぐに収まる――かに見えたが、その一瞬の隙を突いて左手小指が攻勢に出た。
「今だ!例の武器を持って、一気に包囲して殲滅せよ!」
何と、左手小指の爪には、鼻糞がつけられていたのである。

「鼻糞だと!? やられた!小指の分際で小癪な真似を」
右手薬指は吼えたが、その時既に遅しであった。
左手小指の目論見通り、圧倒的な鼻糞の攻撃力をもって、意気消沈した右手薬指を包囲することに成功した。

慌てたのは右手軍上層部である。
「薬指めが!様子を見ておれと言ったのに、むざむざやられに行きおって!」
「ですが親指様。このまま黙って見ているわけにも行きません。救援の命令を」
「やむをえん。中指、主力部隊を率いて急ぎ薬指の救援に駆けつけよ」
「はっ」

ところが、右手中指が戦場の右脇腹に到着した頃には、すでに敵将・左手小指の姿はなかった。戦いに勝利し、悠々と引き上げていった後だったのである。右手薬指隊は、指揮官を含め全滅である。

次代の担い手である右手薬指を失った右手軍の損失は大きかった。
それだけでなく、左手軍が鼻を味方につけていることがわかり、右手軍は大きく動揺していた。鼻から供給される鼻糞の威力の凄まじさを、身をもって知らされたのである。
「初戦と今回の戦いで、ほぼ痛み分けの格好です。これで、しばらくは左手軍にも動きはないでしょう。私はこれより同盟交渉に行ってまいります」
「どこと同盟するというのだ、人差し指よ」
「もちろん・・・鼻糞ごときの攻撃など、ものともしない、例のところです」
「・・・わかった。できれば奴の力を借りずに勝ちたかったものだが、仕方あるまい」

左手軍も、この勝利の大きさを感じていた。
「鼻糞の威力は素晴らしい。小指よ。よくやった。これで軽々しく敵が攻勢に出ることはないだろう」
「はっ。ありがとうございます」
左手大将・親指をはじめ、左手軍は、もとより安定志向である。鼻糞がある限り、右手軍が攻め込んでくることは考えにくい。このまま膠着状態に陥れば、停戦協定を結び、この無益な戦いに終止符を打つつもりであった。

しかし、数日後、右手軍の全軍が進軍してきたとの情報が入った。最終決戦の構えのようだ。
左手親指は耳を疑った。
「血迷ったか右手親指め。こちらには鼻糞があるのだぞ」
「敵は全兵力をもって向かってきます。こちらも全軍、出撃せねばならないでしょう」
左手人指し指が言う。薬指と小指が頷く。
「そのようだ。こちらも全戦力をもって迎え撃つ。本意ではないが、この争いを終結させるには、我々左手が勝利し、右手を支配下に加えてしまう以外にあるまい」

こうして、腹部中央にて、右手と左手の全軍が対峙することになったのである。
右手軍は右乳首に本陣を構え、胸部から腹部にかけて上半身の右側全体に兵を展開している。前線の指揮官は中指である。
対する左手軍は、左乳首に本陣を置き、前線に薬指を配置した。
兵力はほぼ互角、指揮官の差では右手が若干有利。だが左手には強力な攻撃力を誇る鼻糞がついており、総合的に見ると左手有利である。

いよいよ決戦が始まった。
戦いは激しく、双方とも被害が少なくない。
右手は主力部隊である中指が健在であり、左手の鼻糞攻撃を凌ぎつつ、効果的にダメージを与えていた。また、小指も、持ち前の長い爪を生かして戦場を縦横無尽に駆け回っていった。

左手は薬指が前線の指揮を執っているが、経験不足のためか鼻糞攻撃が生かせない。小指も策がはまれば強いところを見せるのだが、乱戦には弱く、状況判断が素早くできずにいる。
戦闘開始からしばらくは、右手が優位に戦いを進めていた。

見かねた左手人指し指が、本陣から前線に兵を進めることとなった。左手軍は、もはや人指し指の武勇と知略のみが頼みの綱である。
人差し指は混乱状態に陥っている薬指と小指をまとめあげ、隊列を立て直すことに成功した。

これにより、左手軍の鼻糞攻撃が的確に右手軍にダメージを与えるようになった。

戦闘開始から数時間。
左手軍が右手軍を圧倒し始めた。

「中指から連絡が入りました。前線が押され気味とのことです」
右手人差し指が、なにやら不敵な笑みを浮かべながら、右手親指に報告した。
「そうか。では、いよいよだな。あれを投入しろ」

前線の上空に、不審な影が現れた。
右手軍の中指が叫ぶ。
「最強の援軍が来たぞ!我々の勝利は近い!」
一方、左手軍の兵には動揺が走っていた。
「人指し指殿!なんでしょうか、あれは?」
前線の指揮権を左手人指し指に譲った左手薬指が尋ねる。
「あれは・・・。まずいことになった」
左手人指し指の表情が曇る。
「敵なのでしょうか?」
小指も心配そうな面持ちである。
「私の記憶が確かならば、あれは・・・口だ」
「口!?伝説の猛獣と言われている、あの、口ですか?右手軍はあんなものを味方につけたとでもいうのですか!?」
薬指が言い終わらないうちに、左手軍の兵士の叫び声が聞こえてきた。
口が右手の援軍としてやってきたのだ。

口は左手軍の頼みの綱である鼻糞を次々と食べていった。
兵も続々と飲み込まれていく。
戦局は、あっという間に右手優位に傾いていった。

「見ろ!人指し指よ!口が左手軍の兵と鼻糞をどんどん食べているぞ!我々の勝利は決定的だ!」
「口は思った以上の働きのようです。思惑通りですな」
右手親指と人指し指は、勝利を確信した。

左手軍の被害は甚大であった。果敢にも口に立ち向かっていった薬指と小指が相次いで口に食べられ、人差し指は命からがら本陣に逃げ帰ってきた。もはや戦いにならない。
「我が軍は、もう戦える者があまり残っておりません。親指様、ここは潔く降伏すべきです」
「・・・。それしかないのか。俺は右手親指の下につく事に耐えられんよ。降伏はできん。ここで死なせてくれ」
「なりません。親指様には生きながらえて、再起を図っていただかなくてはならないのです」
「いや。もう決めたことだ。俺は戦場である、この腹部で死ぬ。人指し指よ、お前ほどの能力であれば右手の人指し指以上に重宝されるはずだ。食うに困ることはあるまい。お前は生きろ」
「そんな・・・。・・・はっ。そういえば、この場所は・・・」
「どうした?人指し指よ」
「我々が戦場にしたこの場所、ここは胸部及び腹部です。おなかです」
「それがどうしたと・・・。む、もしや・・・?」
「そうです。あれを試してみる価値はあるでしょう」

左手軍の残兵たちが、一斉に下腹部に向かって後退を始めた。左乳首に置いた本陣も引き払い、全軍が一隊となって下腹部に集まる形となった。
「愚かな。降伏すればよいものを。あれ以上後退したら陰部に棲むと言われる悪魔にやられてしまうではないか」
右手中指と右手小指が顔を見合わせる。
陰部は禁断の地である。そこには正体不明の悪魔が棲んでおり、足を踏み入れた者で戻ってきた者はいないと言われている土地であった。
「よし!兵たちよ!押せ押せ!このまま陰部に放り込んでしまえ!」
小指が声を荒げる。

しかし、その瞬間、予想だにしなかった事態が発生した。
右手の兵ほほぼすべてが、突然消えうせてしまったのである。
中指は混乱した。
「何事だ!何があった!誰か報告せよ」
「中指殿!連絡が入りました」
「おお小指。説明してくれ」
「臍です。臍のブラックホールに、兵がすべて飲み込まれてしまった模様」
「臍だと・・・!しまった!油断した!左手軍め、臍を掘り当てたか!」
「状況は、一転して我々の窮地です。早く本陣に戻り、親指様と人指し指様の指示を仰がなければ」
「おのれ左手の奴らめ。もう少しで俺の手柄があげられたところだというのに」

右手中指は、残存兵の隊列を立て直し、退却を試みた。
しかし、それは叶わなかった。
左手軍が掘り当てた臍から発掘した臍のゴマ爆弾により、右手中指と小指は下腹部に散ることとなったのである。
鼻糞は平気で食べていた口も、臍のゴマを口に入れられるや否や、「げえっ」と声を発してどこかへ消え去っていった。

「どうやら作戦成功のようです、左手親指様。臍のゴマの力で、口をも退散させることができました」
「そのようだな。しかし、臍のブラックホールがあれほどまでの威力であったとは・・・」
「感心している暇はありません。一転して我々有利です。敵は戦意を失っています」
「そうだな。よし!反撃開始だ!」

勢いを取り戻した左手軍は、生き残ったわずかな兵を従え、一気に右親指が本陣を構えている右乳首に乗り込んだ。
最後の乱戦であったが、結果、右手軍は壊滅。右手軍の生き残りは、親指と人指し指のみとなったのである。
右手と左手の親指と人指し指。双方の大将と参謀が、相見えることになった。

「観念するのだな、右手親指よ。もはやこれまでだ。これで心を入れ替えて、今までどおり右手と左手の分割統治とする事を約束しろ。そうすれば許してやってもいい」
「ふ。ふははは。ふはははははは」
「どうした。何がおかしい」
「甘い。甘いな左手親指よ。俺が観念するだと?貴様、誰に向かってそんな口を聞いている」
「・・・。昔のお前は、こうではなかったんだがな。降伏する気が無いのなら仕方ない。この場で介錯してやろう」
「ふん。貴様なんぞに殺されてたまるか。おい人差し指」
「はい親指様」
右手の人指し指が、懐から何かを取り出した。

「ああっ左手親指様!」
「どうした左手人差し指」
「奴ら、自害するつもりです。止めなければ」

しかし、既に遅かった。
右手人差し指が取り出した箱には、腋臭が詰まっており、その匂いを嗅いだ右手親指と右手人差し指は、その場で絶命したのである。

「なんということを・・・」
「左手親指様。ともかくこれで、戦いはおわりました。失ったものが大きすぎる戦いでしたが、悲しみに暮れている暇はありません。これからは左手親指様が、左手のみならず右手をも再興し、昔のような10本の指を復活させなければならないという使命があります」
「わかっているとも。人指し指よ。これからも俺に力を貸してくれ」
「もちろんでございます」


こうして、左手を掌握せんとする右手の野望は潰えた。
その後は、今回の戦役で空いてしまった8本分の指の地位を、生き残った兵の中から指名した上で、左手親指と人指し指が中心となり、両手合計10本指がよく働き、かつての繁栄を取り戻したそうである。

しかし、その数年後。
すっかり平和になった両手を狙うものがいた。
左足を制圧し、支配下に加えた右足である。


・・・Part2へ続く
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