<< April 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>
PROFILE
↑メールなどはこちら

<近況>
2014/11/8 更新してないねぇー ねたはあるんだけどね
SELECTED ENTRIES
ARCHIVES
RECENT COMMENTS
LINKS
<< 暗黒神 | main | 類二特別 >>
東京クリスピィ
 
ゲームの世界に登場する呪文を、もし現実世界で使うことができたら?

あつい。暑い。
この夏の暑さは、どうかしている。
アイスクリームよりも早く溶けてしまいそうな脳で、こんなことを考えてみた。
ゲーム少年であれば、誰もが一度はこの夢を抱いたことがあるだろう。
呪文が使えれば、あんなことやこんなことが手軽に実現できてしまうのだ。うひひ。
これは楽しい。そんなことができたら・・・という夢を今から想像してみよう。

さて、呪文といっても色々なゲームの色々な呪文(魔法)があるから、ここではさしあたり、ドラクエの世界で使われているものに限って話を進める。
そうすると、やはりレムオル(姿を消す呪文。なんと透明人間になれる!)、
アバカム(鍵のかかった扉を開けてしまう!)
ピオリム(素早くなれる!)
ルーラ(まあ瞬間移動)
あたりが人気どころになるだろう。あとはホイミ(治癒)あたりが欲しいところだ。
とても暑いこの季節、ヒャド(氷の塊を放つ)なんてのも便利かもしれない。

だがしかし、はやまるなかれ。少し落ち着いて考えよう。
まず押さえておきたいのは、ドラクエ界では誰でもどんな呪文でも使えるわけではない、という点だ。
使えるようになる(可能性のある)呪文は、生まれつき、もしくは職業を決めた時点で決定されている。
その呪文を使うにふさわしい経験をつんで、初めて使用可能になるわけだ。魔法使いがいくら修行を積んだとしても、決してホイミを使うことはできない。
というわけで出鼻をくじくようだが、普通の人では、残念ながらそう簡単にレムオルアバカムピオリムルーラの最強コンボは使えない。
なんだ、せっかく「現実世界で呪文が使えたら?」なんて夢のある話をしてるわりには現実的で面白くないじゃないか。
しかたない。現実なんてそんなもんだ。
夢や空想を語るにしても多少の現実感は必要だ。

そうなると、現実的には、俺程度の器ではせいぜいレベル25(とりあえず年齢イコールレベルということにしよう)くらいでメラを覚える程度で精一杯だろう。
俺の職業は魔法使いや僧侶ではないし、ましてや勇者でもなんでもないただの会社員なのだ。
メラは指先から小さな火の玉を出す呪文だ。もっと上級レベルになれば、メラミ(メラよりずっと大きな火球)やメラゾーマ(メラミよりずっと大きな炎の塊)を操ることができるようになるわけだが、当然ながらそんなものを覚えることは俺にはできないはずだ。
しかしながら、この理論でいけば既に俺はメラが使えるではないか。
なぜなら俺は30歳だ。レベルに換算すれば30だ。
メラでもちょっとうれしいぞ。だって憧れていた呪文が使えるんだもの。


さあ、そんなこんなで、俺は現実世界で呪文が使えるようになっていたわけだが、ようやくここからが本番だ。
この呪文で、あんなことやこんなことを手軽に実現してしまおう。うひひ。

まずはタバコに火をつけてやるのだ。
ライター不要だ。すごいぞ俺!
しかし残念ながら俺は現在タバコを嗜んでいない。既にやめてしまったのだ。
「すいません」
はい?
「ちょっとタバコ吸いたいんですけど火切らしちゃったんで、メラもらえますか?」
ああ、どうぞどうぞ。メラ!
「プハー。ありがとうございます。うーんやっぱタバコは美味い。いやあ最近はどこへ行っても禁煙禁煙で、喫煙者は肩身が狭いですよ。まったく世知辛い世の中になったもんですなあ」
知るか。くそっ。俺はこんなことのためにメラを覚えたんじゃないぞ。
タバコをすいたいのにすいませんなどと声をかけてくるようなやつにメラなんかしなきゃよかった。
MPの無駄だ。
これでは宝の持ち腐れじゃないか。何か他に有効活用はできないものか。

「ちょっとあなた。ガス台の調子がおかしくて火がつかないんだけど」
ほれきた。
嫁がお困りになられている。
今こそ嫁に俺の力を見せ付けるチャンスだ。威厳を取り戻すチャンスだ。
俺にまかせろ!メラッ!
「はあ?そんなライターみたいな火でチャーハン炒められると思ってんの?もっと強火にしてよ」
無茶言うな。メラの威力ではこんなもんだ。
「使えないわね。さっさとガス台の修理を依頼してちょうだい。まったく、せっかく新しいマンションに引っ越したってのにオール電化にしないからこんなことになんのよ。ガスなんて時代遅れなエネルギー、いつまでも使ってらんないわ。ていうか、この際だからオール電化にしちゃいましょうよ。台所はやっぱIHじゃないとだめよね。それがいいわ。名案じゃない。そうしましょう。私超頭いい。ガス追放。電気万歳。ビバ、オール電化!」

なんということだ。
嫁を満足させるだけの火をつけられなかったばかりか、オール電化の購買欲に火をつけてしまったようだ。
面倒なことになる前に、家を出よう。

そんなこともあって、今の俺の生活圏の周辺では、思ったよりも火を必要とする場面がなかった。
せっかくのメラだ。できれば活用していきたい。そしてさらに、できれば他の呪文も覚えたい。
メラのみでは力不足であることを痛感した俺は、旅に出ることにした。
旅といっても温泉や行楽地にドライブするわけではない。修行の旅である。いわばレベル上げだ。
年齢イコールレベルのままではいつまでたってもいい呪文が覚えられない。
旅して修行積んでレベルを上げていけば、ギラ(炎に似た閃光を放つ呪文)くらいは使えるようになるかもしれない。
いやいや、もう少しがんばって、せめてルーラは手に入れたい。ホイミでもいい。修行あるのみだ。
まずは俺のメラの威力が最大限発揮できる場を探さねば。このメラを足がかりにして修行せねば。
今持っている技を磨くということは、レベルアップの近道であり、第一歩であるのだ。


俺は東京の地に降り立った。
単に人が多ければ俺のメラ(火)を必要とする人も多いだろうと思ったわけだ。ああ。早く世のため人のためにメラを打ちたいものだ。

しかし、いきなりだが俺は東京の地で思い知った。
絶望の淵に立たされている。
現代の東京砂漠では、火がそれほど必要とされていないのだ。

社会というものは、一般的に健全でないと判断されるものは、当然ながら隠蔽されがちな傾向にある。
猥褻物やグロテスクな表現物が分かりやすい例である。
これらは確実に社会に存在しているものではあるが、年齢制限などにより青少年の目に(基本的には)触れることなく、ひっそりと供給されている。
さらに、とくに顕著な例が、死の取り扱いだ。
牛や豚が食肉となる瞬間は誰も知らない。生きていれば、かわいいもの、として過剰にもてはやされるし、肉だけの状態になっていれば、おいしそうなもの、というありきたりの表現でテレビの視聴者に伝えられていく。
その中間の状態が隠されている。
現代では死体は決してテレビで放映されることはない。それは人間だけでなく大きな動物(哺乳類?)であれば基本的には映像として流されることはないはずだ。死は人の目に触れてはならない禁忌なのである。
死とはなんなのか、死んでいる状態とはどういうことか、多くの人は知らないし、また知る術は失われつつある。
社会によって意図的に遠ざけられているといっても過言ではない。
だから人は、きれいなイメージばかりを前面に押し出したような得体の知れない宗教に身を委ねるし、まことしやかに霊や魂の話を操るエンターテイナーは大金を稼ぐ。
科学が発達しきっている現代社会にありながら、宗教や占いの類がなぜなくならないのか、これで理由が(少なくとも一部は)説明がつくのではないか?

そして、俺は理解した。東京の地に降り立ち、街を見回して瞬時に理解した。都会には火が存在しないのである。死の概念と同様、火が人目から避けられている!
街頭はもちろんすべて電気である。焚き火はおろかごみの焼却も条例でほぼ禁止されている。
タバコに至っても、歩きタバコを禁止している自治体は増加の一途を辿っている。喫煙所など、もはやアンダーグラウンドな場所なのだ。
社会から火の概念が消えつつある。限られた場所で、限られた者のみが取り扱う、単なる危険物の一種とされている。
これは問題ではないか?
昔の俺達は、平気で火遊びをしたし、花火の打ち合いなどをしてきたはずだ。それが単に危険だ、などという理由で排除されてしまってよいのか?
外だけではない。家庭内でも、オール電化の波は、文明から火という存在を消滅せんとする勢いで押し寄せているではないか。オール電化を叫んでいた嫁も、確実に蝕まれているのだ。
ああ。それはあたかも風の谷を飲み込まんとする腐海の王蟲の如く。
だれかこの勢いを止めることのできる勇者は現れないのか・・・!
しかし残念なことに現代社会にはナウシカもユパ様もいない。
人類史上最大の発見である火。我々がいったいどれだけ火の恩恵に預かってきたか、忘れたのか?
こんなことでは今に天罰が下るのではないか?
火を絶やすということは、それはすなわち、文明が絶えることを意味するのではないか?
地球人類の文明の証である火を絶やしてはいけない!

火!火!火!
火はどこへ消えた?
俺は必死で探した。
炎はどこで燃えさかっているのだ?
道行く人々に声をかけ回った。
火いりませんか?炎すぐに出しますよ!小さいですけど!
メラいかがですか?安くしときます!
しかし、俺の声に耳を傾けるものはいない。
結果、俺は東京の地で、人々から放火魔と罵られ、テロリストと蔑まれ、危険分子と疎まれた。

なんということだ。
せっかくメラが使えるようになったというのに。
小さな火を、ほんの少し自由に扱えるというだけで、なぜ俺は社会から排除されなければならないのか。
こんなことならヒャドが使えるようになればよかった。
ヒャドによって放たれる氷の塊は、大東京に敷き詰められたアスファルトが生み出す都会特有の灼熱地獄に一時の清涼を与える存在として役に立てたかもしれない。
しかしそんなことを言っても始まらない。
所詮メラしか使えない、下級の人間だ。


結局何もできず、俺は東京を去る決意をした。
田舎まで行かなくても、郊外であれば火はまだ必要とされているはずだ。
最悪、火力発電所がある。
メラの炎に魅せられた哀れな男の末路。
さらば東京。
「あのう、すいません」
誰だ。俺のような都会から排除された人間に何の用だ。
「メラ、ひとつもらえませんか?」

見ると、薄汚れた制服姿の少女が俺を見上げていた。中学生だろうか。都会の子らしい、よく整っていてさっぱりとした顔つきだ。
今日もうだるような暑さのはずだが、彼女の周りだけさわやかな風が吹いているようだ。
俺は首を振る。
いけない。いけないよお嬢ちゃん。
この都会では未成年の女の子が火を扱ってはいけないんだ。とっても危険だから、見せられないよ。
そう言ったのだが、少女は俺の目をみたまま、動こうとしなかった。
やがて、目に涙を浮かべながら、少女は語りだした。
「どうしても燃やして欲しい家があるんです。それが存在する限り、私にまとわりつく憑き物が落とせないの」

よくある話だ。
両親を事故で亡くし、呆然としていたところ、遠縁の親類と名乗る男が現れ、わけがわからぬまま、為す術もなく引き取られた。
男の住む家は小さい。今にも崩れ落ちそうな木造の家だ。そこのさらに小さな一部屋を与えられた。
そして遺産相続の手続きをするという名目で、彼女のものであるはずの遺産を全部奪われてしまった。
家や土地などの不動産をはじめ、彼女の父が事業で成功した財産の一切合財だ。
男は自分の家を建て替えるようなことはしなかった。ギャンブルと酒のためだけに、たった数ヶ月でその金を全部食い潰したという。
学校以外、男の承諾なしでは外出することも許されず、満足な食事も与えられない。服がないので夏休みだというのに制服のままだ。
その家を燃やしてしまい、過去を一掃し、人生をやり直したい。それがその少女の願いだった。
「結局、よく調べてみたら親類でもなんでもなく、父の遺産目当てに近づいた、赤の他人だったんです。だから・・・」

俺は少女のためにメラを使った。
たった一発、指先から発せられた小さな炎が、一軒の家と、そこで暮らしていた一人の男の命を消滅させた。
呪文によって発せられた炎だから、証拠は一切残らないはずだ。
湿度が高い真夏の明け方だったが、昔ながらの小さな木造住宅は、さっくりとよく燃えた。あっという間だった。
ためらいはなかったし、悔悟の念もなかった。
ただ、都会といえど、まだまだこのような木造の住宅は残っているものなのだな、と感じた。
火も死体も、人の目に触れてはならないものだ。
火は周囲に引火する前に素早く消し止められ、男の死体は警察によって瞬時にいずこかへ運ばれていった。
どちらも、見事な速さだった。

これからどうするつもりなのか、少女に尋ねようと思ったが、やめておいた。
まだ若い。がんばって人生をやり直したらいい。
「あの・・・」
立ち去ろうとした俺の背中に、少女が声をかける。
「お礼をしたいんですけど、いくら払えばいいですか?お金はないんですが、その・・・」
ばかなことを言っちゃいけない。礼なんかいらないよ。
元気に生きてくれれば、それでいい。お父さんやお母さんの分まで、しっかりと生きるんだ。
俺は振り返らなかった。
もはや帰るところがないのは、俺も同じだ。
俺のほうこそ、少女を見習って強く生きていかなければならない。


夏。
お盆。
本来であれば、家に帰ってくる、ずっと昔に死んだご先祖様。

少女に教えてもらった、彼女の父と母が眠る墓。
彼らの場合は、帰る家がもうないから、お盆ではあるがお墓に線香を手向けても問題ないだろう。
線香に火をつける。
こんなところで、メラの呪文が始めて自分の役に立った。
死と火は、ここでも隣り合わせだ。遠ざけられているはずのもの同士が並んでいる。

社会が自らの意思で何かを排除しようとすれば、それに乗じて利益を得る人間がかならず存在する。
宗教家、もしくは霊や魂を商売道具にしたタレント達に見習って、
俺もこのメラで一稼ぎするとするか。
もう少し、この東京と向かい合って生きてみよう。やはりこの都会のどこかで火は必要とされている。
その人のために使っていこう。
俺は都会に生きるメラゴースト。
死という概念に取り囲まれたこの墓地から、小さな決意の意味を込めて、すっかり陽の昇った東京の空に向かって一発放ってみる。
メラ!
しかしそれは、小さな火の玉などではなく、もっともっと大きな火球となって打ち上げられ、そしてすぐに、シャボン玉のように音もなく消えた。
ああ・・・。
どうやら俺はレベルアップしていたらしい。
しかし覚えた呪文はルーラやレムオルのような便利なものではなく・・・。
ちっ。せめて、ヒャドがよかったな。
火の呪文ばかり。
あついじゃないか。夏だというのに。
comments(3)
>俺は都会に生きるメラゴースト。

不覚にも感動した

凄い想像力ですね。
| スネ夫 | 2008/09/15 10:52 PM |
今読み返してみたら泣いた
| 類二 | 2008/09/18 12:12 AM |
When the human body emits lipid, or even excess fat, coming from its excess fat merchants an activity called lipolysis happens. Thinking about definition of lipolysis is “fat splitting” so when that occurs fat are separated into glycerol and efas.
| Madelyn | 2014/03/31 4:47 AM |










このページの先頭へ