<< June 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>
PROFILE
↑メールなどはこちら

<近況>
2014/11/8 更新してないねぇー ねたはあるんだけどね
SELECTED ENTRIES
ARCHIVES
RECENT COMMENTS
LINKS
<< 国語 | main | ポジティブマン >>
山の手御婦人の憂鬱
「あのう」
「へぃらっしゃい」
「いいですか」
「おっと。珍しくご婦人がいらっしゃったと思ったら、うら若き乙女のようじゃねえですかい」
「ほんとうにいいんですか」
「いいにきまってるじゃないの。うちのおでん屋は来るもの拒まずだ」
「やっぱりやめたほうがいいかしら」
「何言ってんだい。大歓迎だい。ささ、お座んなさい。おでんは何にしやしょう?」
「じゃあ、大根とはんぺんを」
「あいよ。かー。近くでよく見るとべっぴんさんだ。よし、あっしのおごりだ。酒を一杯サービスしちゃおうじゃないの」
「すいません。いただきます」
「たった一人でこんなしがねえ屋台のおでん屋にようこそきておくんなすった。一体全体どういう風の吹きまわしかねえ」
「家へ・・・家へ帰りたくないのです」
「そいつはいけねえ。あんた家出娘かい。まさかとは思うが、酒を飲めない齢じゃねえでしょうな」
「私はもう大人です。娘などという年じゃありません。ましてや家出など。ぐびぐび。・・・お酒、もう一杯くださるかしら」
「そんなら安心だ。いい飲みっぷりだねえ。二杯目からはお勘定つけとくよ」
「ええ。ぐびぐび」
「で、家に帰りたくねえってどういうことだい。あっしでよけりゃわけを聞いてやりやしょう」
「家に帰りたくないというか・・・明日になるのが怖い。もう死んでしまいたい」
「おだやかじゃねえですな。妙齢のご婦人の力になれるかどうか定かじゃねえが、話せばすっきりすることもあるもんですよ」
「そういうものでしょうか」
「おうよ。こちとらおでん屋稼業20年。何人ものサラリーマンの話を聞いては元気付けてきた実績があらあね」
「ここ二ヶ月ほど、朝起きるとですね」
「おっ。始まったね。そう来なくっちゃ」
「ある曲が思い浮かぶのです」
「ふんふん」
「ほら、よくありますでしょう?朝起きて一番最初に聴いた歌とか、なぜか無意識に思い出した歌が、その日一日中頭から離れなくなる事が」
「ああ。たいして好きでもねえ曲なのに無意識に口ずさんじまったりして、こっ恥ずかしくなることが、このあっしにも確かにあるねえ」
「それです。それの症状がひどいんです」
「しどいんですかい」
「ひどいです。ここ二ヶ月、ずっと同じ曲が私の頭を支配しているのですから」
「二ヶ月も、四六時中ですかい」
「はい。一日中、昼夜問わず、少しでも気を抜くとフルコーラスかつエンドレスで頭の中で再生されてしまいます」
「するってえと、今もかい」
「今もです」
「で、何て曲が?」
「島唄です」
「島唄って、ええと」
「BOOMの、島唄です」
「なんというか、また微妙な曲を持ってきたもんだ」
「そう言われましても、私も困ってしまいますが」
「まあでも、気にしないことが一番でさあ。あっしにも似たような経験は山ほどあるってもんだ」
「それだけではないんです」
「と、いうと?」
「PVが、PVが流れるのです」
「PV・・・プロモーションビデオってやつか」
「はい。曲に合わせて、延々と」
「島唄のPVというと、ボーカルのあんちゃん・・・宮沢って奴か?そいつが三線弾いて終始アップで歌い続けてるイメージがあるが、それのことかい?」
「いえ。私オリジナルのなんです」
「ご婦人のオリジナル?」
「はい。曲とは無関係のPVが、私の頭の中でぐるぐる、ぐるぐると流れ続けるのです」
「いよいよ面白くなってきたねえ。よし、腰据えて聞くことにして、あっしも酒を付き合おうじゃないの。どんな映像なんだい?」
「お話しても良いのですが・・・。ぐびぐび」
「何かまずいことでもあるんですかい?」
「いえ。恥ずかしくて・・・」
「嫌なら構わねえよ。ご婦人が話したがらねえ話を無理矢理聞くほどあっしも野暮天じゃねえや」
「いえ。大丈夫です。イントロの部分でもぐらが登場します」
「もぐら」
「ええ。すごく背が高いんです。・・・お酒、おかわりを。あとつみれとちくわ」
「あいよ。・・・背が高ぇもぐら?イメェジが沸きにくいねえ」
「背が高いと言ったら背が高いんです。何せ二足歩行してるんですから。普通に道を歩いてるんです」
「どれくらい背が高ぇんですかい?」
「そうですね。正確にはわかりませんが、180〜190cm程でしょうか」
「人間並み、いやそれ以上じゃねえですかい」
「そうですね」
「そんなもぐらが、島唄のイントロに乗って二本足で歩き出す映像が、お前さん、いやご婦人の頭の中で流れる、と。こういうわけだぁね」
「ええ。そのもぐら、やがてバッティングセンターに入ります」
「島唄で言うと、イントロが終わって歌い出しのあたりですかい?でえごの花が咲き、ってところかい」
「そうですね。バッティングセンターで、やおらマイ・バットを取り出して、300円支払って、そして・・・」
「そして・・・?何が始まるってんだ」
「打ち始めるのです」
「わはは。まあ、そりゃ打ちまさぁな。バッティングセンターにバット持参で来て、お金払ったなら、たとえもぐらでも、そりゃ打ちまさぁな」
「でも、もぐらなんですよ」
「バット持って打ちに来てるんだもんねえ。据え膳打たぬはなんとやらだ」
「少し違うような」
「おっといけねえ。据え球か?いやいや球は据えてねえな。それにしてもお嬢さん、変なこと想像してるもんだぁね」
「想像なんてしてません。勝手に、勝手にそんな映像が浮かんでしまうんです。そんなシュールな事、考えようとしても思いつきません」
「こいつは失礼。あっしとしたことが、取り乱させちまって申し訳ねえ。で、それで終わりですかい」
「終わりなもんですか」
「続きがあるんですかい」
「だってフルコーラス終わるまで、映像もずっとあるんですよ」
「じゃあ続きを聞こうじゃないの」
「そのもぐらですが、持参してきたのはバットだけではなくて、グローブも持ってきたのです」
「グローブ?するってえと、打つと同時に捕るわけですかい?その変態もぐらの野郎」
「いえ、そのグローブではなくて、バッティンググローブです。バット握るときに滑り止めにするためにはめるグローブです」
「本格的だねえ。やる気満々もいいとこじゃないですかい」
「でしょう?その本格的スタイルで、松坂の球を打ち返すのです」
「松坂?松坂ってえと、あの有名な日本人メジャーリーグピッチャーの松坂かい」
「ええ」
「バッティングセンターに、なんだって松坂がいるんだい」
「私が知るわけないでしょう。とにかく松坂が投げてるんです」
「でも相手が松坂じゃあ、いくら背の高い二足歩行の変態もぐらといえど、相手が悪いや。打つのは容易じゃないでしょうに」
「問題はそこでしょうか。でも、打つんです。内角低めに切れ込んでくるスライダーを、いとも簡単に流し打ちするんです」
「松坂が投げる内角のスライダーを流し打ち?そのもぐら、生意気にも左打席かい」
「そうです。もうイチローばりに快音を響かせて打つんです。流し打ちで。右手一本で」
「まったく、てぇしたもぐらがいたもんだ」
「まだ続きます。唄がサビに入る頃、松坂が」
「松坂が?」
「急にパソコンを始めるんです」
「ピッチャーの仕事を放棄してですかい?」
「・・・まあバッティングセンターのピッチャー役ですし、一回300円なので、せいぜい30球程度投げればいいわけですから・・・」
「もぐらは?肝心要のもぐらのもぐ公はどうしちまったんだい」
「いません。その頃には、主役は松坂に変わっています」
「そうかい。じゃあひと仕事終えた松坂が、その場で一人でパソコンを始める、って寸法か」
「ええ。ピッチャーマウンドに座り込んで、DELLのノートパソコンを広げてプログラミングを始めるのです」
「プログラミングですかい。あっしは横文字は苦手でさあ」
「少し専門的な話になるので、詳細は省きますが、たぶんJAVA、というかJSPでwebアプリの開発を試みているのです」
「よくわからんが、そりゃ滑稽な場面なんだろうねえ」
「ええ。『くそっうまく動かねぇよ』などといって帽子を叩きつけたりします。そうこうするうちに、島唄の1番が終わります」
「もぐらと松坂で1番まるごと使っちまうわけでさあね」
「そうです。ぐびぐび」
「で、2番に続く、と」
「はい。2番は、再びもぐらが登場します。お酒おかわりを。あとこんにゃくとこんぶ」
「あいよ。またもぐら野郎の登場ですかい。小生意気な」
「そういわれても、そうなんですもの」
「もぐらとか松坂とかパソコンとか、イメェジが沸きにくくてしょうがねえや」
「あの、もうお話しないほうがいいですか?」
「とんでもねえ。乗りかかった船だ。最後まで聞きやしょう。で、もぐらのもぐ公、今度は何始めるんだい?」
「ハワイのビーチにいます」
「バカンスを満喫してるわけかい。ワイハーってやつかい」
「はい。サマーベッド?ビーチベッドというのでしょうか。あれに寝っころがって、サングラスをかけて」
「さっきから生意気なもぐらだねえ。小憎らしいったらないねえ」
「手を頭の後ろに組んで、足を組んで、傍らにはトロピカルなジュースが」
「ビーチの基本スタイルじゃねえですか。あっしもそんなことしてみてえもんだ」
「・・・そのジュースの入れ物がですね」
「あれでしょうや?木の実を割ったようなやつ。ココナッツといったかな。あれに入れてるんでしょう。ひん曲がったストロー付きで」
「いえ。ヘルメットです。ヘルメットを裏返して、その中にトロピカルなジュースが入っているのです」
「ヘルメットですかい。そいつはまた大容量な入れモンときたもんだ」
「容量の問題ではないような」
「それにつけても、また何だってヘルメットなんだい。どういった了見だい」
「まあ、たぶんもぐらですから・・・」
「なるほど。もぐらだから穴を掘る。穴掘るにはヘルメット着用が義務でさあね。安全第一だ」
「一番身近というか、手っ取り早く入れ物を調達したというか、とにかくそんな感じでしょうね」
「もぐらにサングラスにヘルメットとくりゃあ、ギャグマンガにありがちなお決まりのセットだもんねえ」
「ギャグマンガ・・・そうですね・・・。ぐびぐび」
「それにしても、屋台やっててこんなに愉快な話を聞いたなぁ初めてだ。ちょっとタバコ吸わしてもらうよ」
「どうぞ。じゃあお酒もう一杯と、あと巾着としらたきと厚揚げ」
「あいよ。・・・プハー。タバコも酒もうめぇや。よし続きを聞かしておくんなさい」
「はい。もぐら、そのまま寝てしまいます」
「何だ寝ちまうのかい。盛り上がってきたってのに。それじゃあ映像に動きが無いねえ」
「そうですね。そのまま2番のサビまで来てしまいます」
「その、サビに来るとどうなるんで?」
「すっかり焼きすぎたのでしょうか。もぐら、全身真っ黒になってしまうのです」
「もぐらったら元から黒いでしょうや。真っ黒ったって、そんなに変わるもんでもねえとお見受けしやすがね」
「まあ、元が黒いのはそのとおりなんですが、焦げているというったほうが良いでしょうか。体から煙出してますし」
「ブハッ。そりゃドリフのコントばりじゃねえですかい。チョーさんもびっくりだ」
「ああそうですね。体毛がちりちりになってますし」
「いい気味だねえ。もぐらの分際でいい気になってっからそういう目に遭うってこった」
「で、自分の変わり果てた姿を見て飛び上がって、サマーベッドを降りて、砂の上に立って、砂が熱くてまた飛び上がって、慌てて逃げていきます。途中でカニに足の指を挟まれます」
「いよいよもってギャグマンガだねえ」
「はい。両手挙げて、足はぐるぐるしてて、道路標識の「すべりやすい」みたいな轍を残して逃げていきます」
「こいつは下手な落語より滑稽だ。で、それで2番は終わりかい」
「はい」
「そんならもうラストだあね」
「はい。やはりもぐらが出てくるのですが」
「やっぱしそう来たか。今度は何だい?」
「画面、いえ画面などありませんが、その、映像の中央を歩いています。左に向かって」
「最初に登場したときとおんなじだ」
「うーん。詳しく言うと、もぐらは足踏みしてるだけで、背景が動いているというか」
「読めた。三流アニメのエンディングテーマみたいなもんじゃねえですかい」
「そうですそうです。スタッフロール的なものが流れるんです。スタッフなんていないのに」
「じゃあ、何て書いてあるんだい」
「いえ、ぼやけてて読めません」
「そうかい。残念だねえ」
「それから曲が終わるまで、もぐら、歩きます。たまに転んだり空き缶が飛んできたりします」
「いよいよもって三流ギャグアニメのエンディングだねえ。でも、曲は島唄だってんだからおかしいったらないね」
「そして、曲が終わります」
「ようやくかい。長かったねえ」
「ですが、映像はそのままで、また曲が最初から始まって、そのもぐら、やがてバッティングセンターに・・・」
「あちゃー。もう一周始まっちまうのかい」
「ですから、エンドレスと申し上げたでしょう」
「そういうオチかい。今の話が本物なら、こりゃあんたみたいなご婦人でなくても、二ヶ月ずっと頭ん中流れてたら参っちまうねえ」
「ああ。もう嫌。死んでしまいたい。これが飲まずにいられますか。ぐびぐび」
「待ちねえ。まあ確かに嫌だってのも痛えほどわかるが、別段気にしなけりゃいずれ忘れるでしょうや。それまでの辛抱だ」
「あなたみたいな屋台の親爺に私の気持ちなど分からないでしょう。お酒、おかわり」
「む。そう言われちまっちゃあ返す言葉もねえですがね。どうしようもねえってもんでしょうよ」
「とにかく、お酒をのんで忘れるしかないんです。ぐびぐび」
「ご婦人。そんなに飲んだら体に悪ィよ。ほどほどにしときな」
「うるさい親爺ね。屋台の分際で偉そうに。私は客です。はいおかわり。早く注ぎなさい。ひっく」
「ご婦人。旦那さんか親御さんが心配してねえんですかい」
「ぐびぐび。ぷはー。あなたなんかに話すんじゃなかったわ。はいお勘定。ではもう一軒、別のところで飲み直しますので」
「お待ちなさいって。そんな千鳥足じゃあどの店も入れてくれねえよ」
「ういー、ひっく」
「こいつはまた難儀なお客に来られちまったもんだ。どうしたもんかねえ。ああ寝ちまった」
「ぐーぐー」
「もぐら、ねぇ・・・」
comments(1)
I’ve been wondering about the similar point personally lately. Grateful to see an individual on the same wavelength! Nice article.
| Kirk | 2014/07/06 1:19 AM |










このページの先頭へ