<< May 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
PROFILE
↑メールなどはこちら

<近況>
2014/11/8 更新してないねぇー ねたはあるんだけどね
SELECTED ENTRIES
ARCHIVES
RECENT COMMENTS
LINKS
<< 春は各駅停車に乗せられて | main | ある日、パパとふたりで語り合ったさ。 >>
永遠にせせらぎつづけるのか
相変わらず成果が上がらない外回りの営業に嫌気が差し、
小さな公園のベンチに座ってタバコを吹かしていたときのことだ。

その少女は公園の真ん中に立ち、じっと空を見上げていた。
タバコが2本、灰になったくらいだから、
10分以上は同じ姿勢のまま、立ちつづけていたことになる。

俺はその様子を、ずっと見ていた。

少女は時々、手のひらを上に向けてかざしたり、
満足そうな顔で頷いたりしている。
ときおり、困ったような顔も見せる。

なぜそんな気になったのか、自分でもよくわからないし、
普段の自分からは想像もできないのだが、

その少女に声を掛けてみた。

今から思えば、おずおずした大の大人が、
まだ中学生くらいの少女(そういえば、平日なのに制服姿ではなかったが)
に声を掛けるなんて、不審者以外の何者でもなかっただろう。

少女が振り返って私を見た。
そのとたん、それまで止んでいた風が突然吹いてきた。
若い女性らしく、長い、さらさらな黒髪が風に流される。

「ごめんなさい。春の風さんが、警戒してるみたい」
「春の風?」
「ちょっとまっててくださいね」

少女は空に手をかざした。

「今からこの方とお話するから、怒らないで待ってて」

嘘のように、風が止んだ。

「春の足音が、まだ聞こえてこないから、心配になって聞いてみたんです」

危険な匂いがする。

俺は訊いてみた。

「で、その・・・、春さん?は、なんて言ってるの?」
「ごきげんななめ」
「え?」
「まだだよ、って、そう言われました」
「そ・・・そうなんだ。困ったね」

どういう言葉でこの少女と話したらいいか、わからない。
行ってはいけない世界に足を踏み入れてしまったか。

少し、おもしろそうだ・・・と思ってしまったのがいけなかった。
後から思えば、この時、素直にこの場から逃げておけばよかった。

「どうして、ごきげんななめなんだろう」
そう言ってみた。

すると、少女は信じられないことを言った。

「お話ししてみますか?」
「・・・?」

少女の両手が、俺の右手を握った。
年甲斐もなく、少し緊張してしまう。

すると、また風が吹いてきた。
今度の風は穏やかで、少し暖かい。

少女と目が合う。

突然、声が聞こえた。

「どうも。おれ、春」

あわてて、周りを見回してみる。
寂れたこの公園には、俺と少女以外に誰もいない。
しかし、今確かに声が聞こえたのだ。

少女を見る。
にっこり笑って、頷きを返してくれた。
たぶん、この少女にも同じ声が聞こえているのだろう。
手は握ったままだ。

「何か用?」

再び、春の声だ。
俺は慌てた。声に出して話せば良いのだろうか。
とりあえず、何か言ってみなければ。

「あの、今年の冬は寒かったから、みんな首を長くして
春を待っているよ。どうしてごきげんななめなのかい?」

とても自分の言葉とは思えない。

「あのさ、春の足音っていう言われ方がイヤなんだよね」
「は?」
「おれ、足なんてねぇもん」
「そりゃ・・・そうだ」
「なんかさあ、足音って言われたらヒタヒタってにじり寄ってくる感じじゃん。モンスターみたいじゃね?」
「でも、みんないい意味で言ってるんだとおもうけど」
「だからそんな紋切り型の表現で言われたくないのね。ぶっちゃけ、飽きた」
「え・・・ええと、じゃあなんて言えばいいんだろう」
「そこを考えるのがあんたの仕事だろう」

困った展開になった。どうしたらよいのだ。

「春が近づいてきた、じゃあだめかな」
「そんなの普通すぎ。だめ」
「じゃあ、春の匂いがし始めた・・・だめか」
「それ、いいね。採用」
「え?」
「これからは、そろそろおれの出番だぞってときは、春の匂いがし始めた、って言ってくれよな。じゃ」

意味がわからない。

「すごい!春さん、ごきげん直っちゃったみたい」
少女がはしゃいでいる。
公園の真ん中で、手を握りながら小躍りする冴えない営業マンと少女。
彼女の心の底から嬉しそうな笑顔。
状況が飲み込めないまま、とりあえずおれも笑顔をつくってみた。ぎこちない表情だったことだろう。

そういえば、心なしか暖かくなってきたようだ。

「あなたに、この力をあげますね。私ではみんなの悩みをうまく解決してあげられないの。これからは、私に代わって、あなたがいろんな人の悩みを聞いてあげてください」

そう言って、少女は駆け足で公園を去っていった。

何がなんだかわからない。


仕事のしすぎで疲れているのかもしれない。
もう面倒なので会社へは戻らず、家へ帰ることにした。



それからだ。
いろんな、わけのわからないやつが俺の頭に話し掛けてくるように
なったのは。



家で本を読んでいると、突然話し掛けられた。
もちろん、部屋には俺一人だ。

小川「おいお前!俺も頼むわ。俺小川」

小川?だれだお前?

小川「小川だよ。せせらぎでおなじみの」

・・・俺は本当に「あっちの」世界に入り込んでしまったのだろうか。
あの小娘。新手の宗教か?

小川「俺っていつもせせらいでばっかりなのね。ほかにいい言われかたないかなあって思ってさ」

知らん。
小川といえばせせらぐものと相場が決まってるからなあ。
難しいんじゃないか?

小川「そんな。春の野郎にはいいアドバイスしてたじゃないか」

でもさ、逆にいいことなんじゃないのか?小川=せせらぐってイメージ。

小川「いくら俺が小川だからってさ、いつまでもさらさらと流れてると思ったら大間違いだよ?ひとたび雨が降れば濁流にだってなるわけよ。ナヨナヨしたイメージを払拭したいわけ」

一気にまくし立てられた。

いや、さらさら流れとけよ。お前はせせらぐまんまのほうが絶対いいって。
ていうかせせらぐの代わりにさらさら流れるでいいじゃん。

小川「そうかなあ。そこまで言うなら仕方ないのかなあ。もっとかっこいい言われ方がよかったんだけどなあ」

仕方ないね。小川なんだもの。あきらめときな。

小川「わかった。じゃあね」

ハイさようなら。


俺・・・本当にどうかなってしまったのだろうか。
春といい小川といい、実体はどこにもなく、俺の脳に直接話しかけてくる。
そして俺の考えていることを、声に出さないうちに読み取るらしい。
とても気持ちが悪い。

謳歌「俺も俺も!謳歌っていうんだけど」

謳歌ぁ?何の用だ。俺はいつから人生相談所になったんだ。
・・・今日の昼からか。

謳歌「俺さ、いっつも青春なんだよね」

たしかに。青春を謳歌するってよく言うな。

謳歌「たまには他のものも謳歌したいわけよ」

そうか?この世の春とか人生とか、けっこういろいろ謳歌するものあるんじゃないの?

謳歌「でもぶっちゃけさ、それって全部同じ意味なんだよね。この世の春といえば青春の意味だし、人生を謳歌するって言えばその中に青春も含まれるし」

また難儀なこと言うなあ。
でもお前基本的になにか間違ってる気がするぞ。

謳歌「そんなことないっしょ。君が代でもグリーングリーンでもいいよ。たまには違うものを謳歌したい。ああしたい」

お前、それ完全に間違ってるって!自分の意味履き違えてるぞ!
春っていわば概念みたいなもんじゃん。小川はものの名前だよね。そいつらのイメージを変えるのは結構だけどさ、お前ちょっと役割違うから。

謳歌「は?俺だって名詞だよ?何言ってんの?」

いやそうだけど、お前バカだろ。
例えば青春が俺の所来て、「もう謳歌したくねえよ」って言ってくるなら
わかる。だがお前は謳歌だ。される側だ。
せせらぎが、小川以外の物をせせらがしたいって言ってるようなもんだぞ。

謳歌「わかんねえよ。もっと日本語しゃべれ」

お前態度でかいな。
俺の所に来るのは筋違いだっての。青春と話し合えよ。

青春「何?呼んだ?」

うわ、来ちゃったよ。
青春、お前からも謳歌に何か言ってやってくれる?

青春「俺、もう謳歌しねえ」

謳歌「え?まじかよ。じゃあ他のやつが謳歌してくれるのか?」

青春「それはないな。俺が抜けたら、お前を使うのは人生だけになっちまうな」

謳歌「そんなのやだよ。俺ますます出番なくなっちゃうじゃん」

青春「さっきお前青春ばっかでイヤだって言ってたし」

謳歌「悪かった。俺が謝る。もう浮気しねえから」

青春「わかったなら帰るぞ」

謳歌「はいっ!」

青春「ほら、あの夕日に向かって走れ!」

謳歌「はいっ!!!」

さすが青春。さわやかなヤツだ。
実体がないくせにどうやって走るのか知らんが。
それに、もう夜だけどな。


烙印「俺も俺も!」

また変なヤツが来たなあ。だいたい想像がつくぞ。

烙印「俺、たまには失格以外の烙印を押してぇよ」

やっぱりな。無理無理。お前は永久に失格の烙印を押しつづけるの!
だいたい失格するものに押すのが烙印なんだから。他のもんに押したらかわいそうだろうが。

烙印「まあそうだよな。俺もうすうす気づいてたんだけどさ」

帰れ帰れ。俺だってヒマじゃないんだ。


真夜中になってもずっとこの調子だ。
このあとも、「小鳥」がやってきて、もうさえずりたくない、
もっと猛々しく鳴くようすを表す言葉を考えてくれとか、
「星」が来て、俺はまばたいてるつもりはない、
そもそも俺に目なんかない、光ってるだけだ、どうにかしろとか
無理難題を押し付けてくるようになった。

このままでは、気が狂いそうだ。


・・・明日、あの公園に行こう。
そして、この能力を、誰か知らない人に押し付けるしかない。
なるべく、あの少女のように不思議系人間のふりをするのがいいだろう。
誰かに話し掛けられたら両手を握ってやる。たぶんそうすればこの能力はそいつに移るはずだ。
変質者と間違えられてもいい。そしたら職務質問に来た警官に、この能力をくれてやるまでだ。

それにしても、あの小娘には、してやられた。

くそっ。

今日はもう寝よう。

くゆらす「あの、寝てるとこ申し訳ない。ここに来れば相談に乗ってくれるときいたもんで。タバコ以外にくゆらしてくれるヤツっていないかな?」

知らん。お前は一生タバコの煙をくゆらし続けてろ。
comments(0)










このページの先頭へ