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2014/11/8 更新してないねぇー ねたはあるんだけどね
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R−15
むかし、とても目立たない子がいました。
仮にタカオくんと呼びましょう。
タカオくんは小さい頃から人見知りする性格でしたから、
小学校でも友達があまりできませんでした。
たまに前の席の子に話しかけられても、うまく言葉が出てきません。
休み時間にクラスのみんながドッジボールをしていても、
タカオくんは仲間に入れませんでした。
「入れて」とひとこと言えればいいのですが、
タカオくんにはそれができないのです。
昼休み、誰もいない教室で、
タカオくんはじっとうつむいていることもしばしばでした。
タカオくんはみんなから無視されていることに、
もう気づいていたのです。

そんなタカオくんにも、一人だけ仲のいい友達がいました。
生き物係の曽根山くんです。
曽根山くんはとても優しい男の子で、
タカオくんのことをいつも気にしてくれました。
クラスでタカオくんに話しかけるような子はほとんどいないのに、
そう、担任の先生だってあまり話したがらないのに、
曽根山くんだけはタカオくんによく話しかけてくれました。
あまりうまくしゃべれないタカオくんでしたが、
曽根山くんは、まるで心が読めるみたいに
上手に会話を進めてくれるのです。
タカオくんは曽根山くんが大好きでした。

ある日の放課後のことです。
タカオくんが一人で教室に残っていると、
曽根山くんが入ってきました。
「タカちゃん」
といつものように話しかけてくれた曽根山くんでしたが、
様子がおかしいことにタカオくんはすぐに気がつきました。
曽根山くんは泣いていたのです。
タカオくんは、どうして曽根山くんが泣いているのか
よくわかりませんでしたが、元気を出してほしいと思いました。
けれど、言葉がうまく出てきません。
しばらくすると、曽根山くんは何も言わずに教室を出ていきました。

翌日、タカオくんは曽根山くんがどうして泣いていたのかわかりました。
おはよう、と言って教室に入ってきた曽根山くんに、
誰も挨拶を返さないのです。
曽根山くんは寂しそうにうつむいて、自分の席まで行きました。
隣りに座っていた女の子に、おはようと言うのですが、
女の子は何も言いません。
教室中うろうろしていても、誰も曽根山くんを見てくれません。
曽根山くんが何を話しかけても、そこには誰もいないみたいに、
クラスのみんなは気づかないフリをするのです。
曽根山くんはとぼとぼと教室から出ていってしまうと、
授業が始まるまで戻ってきませんでした。

タカオくんには曽根山くんの気持ちが痛いほどわかりました。
同じような経験があったからです。
最初はみんなふざけて遊んでいるのだと思っていましたが、
それが何日も続くうちに、とても怖くなってきたのです。
何か面白いことをやっても、水をこぼしても、
誰も何も言ってくれません。
壁の隙間に足を挟んで、本当に困っているときでも、
誰も助けてくれないのです。
もしかしたら本当に見えなくなってしまったのかもしれない、
とタカオくんは真剣に考えました。

それが馬鹿な考えだということを教えてくれたのが、
曽根山くんでした。
誰にも相手をしてもらえないタカオくんに、
曽根山くんは優しく話しかけてくれたのです。
今度はその曽根山くんが、
クラスのみんなに無視されています。
タカオくんはいてもたってもいられなくなって、
「どうしてあんなに優しい曽根山くんにそんなことをするの!」
と、みんなを注意してやりたかったのですが、
やっぱりうまく声が出ないのでした。

その日の放課後、タカオくんの目の前に曽根山くんがいました。
曽根山くんは少し鼻をすすっていましたが、
優しくタカオくんに話しかけてくれました。
タカオくんは静かにその声を聞いています。
次の日も、その次の日も、ずっと次の日も、
放課後、教室に誰もいなくなると、
曽根山くんはタカオくんに話しかけます。
曽根山くんはもう泣いていません。
力強い眼差しで、何度も何度も、
まるで小さな子供に教えるように同じ言葉を話します。
タカオくんは曽根山くんが好きでしたから、
同じ話でもいつも真剣に聞いていました。
曽根山くんの話は、とてもとてもすばらしい話なのです。
いつの間にかタカオくんは、
曽根山くんの話すことをすっかり覚えてしまいました。

長い長い四時間目の授業が終わりました。
次は楽しい楽しい給食です。
曽根山くんは、クラスでは全然しゃべらない子になっていました。
その日、給食当番だった曽根山くんは、
熱いカレーのたっぷり入った大きなお鍋を、
一人で抱えるように運んでいました。
お鍋はとても重そうで、曽根山くんの足はフラフラしています。
タカオくんは教室の後ろの方から、曽根山くんをじっと見ていました。
その時です。
教室を走り回っていた体の大きな男の子が、
曽根山くんのすぐ横をかすめました。
驚いた曽根山くんが避けようとして肩をひねると、
カレーのお鍋が隣にあった黒板の角にぶつかってしまったのです。
ガランと大きな音がして、お鍋のフタが床に落ちました。
それを追いかけるみたいにカレーの鍋も転がりました。
汚れた床に、熱いカレーが広がっていきます。
一瞬、騒がしかった教室が卒業式みたいに静かになりました。
こぼれたカレーを見つめていた曽根山くんが顔を上げて、
走っていた男の子の方を見ると、
その子は走って教室から出ていってしまいました。
誰も何も言いません。
曽根山くんは黙って、
掃除道具のしまってあるロッカーに向かって歩き出しました。
こぼれたカレーの前で雑巾を絞っている曽根山くんに、
誰も何も言いません。
ご飯を盛る係りの給食当番の子は、自分の仕事を続けていました。
お皿に半分、きれいにご飯を盛っているのです。
隣りで曽根山くんが床を拭きはじめました。

タカオくんは涙が溢れ出しそうでした。
曽根山くんは今とても悲しいに違いない、
そう思うと体がぶるぶると震えました。
曽根山くんを助けなきゃ、はやく!
みんなを叱らなきゃ、はやく!
タカオくんは、放課後曽根山くんに教わったことを、
そのままみんなに伝えたいと思いました。
そうすれば、みんなにも曽根山くんの優しさが伝わると、
そう思ったのです。
すると、今まで思うように動かなかったタカオくんの口が、
のどの奥からパックリと開きはじめたのです。

静かな教室に、かん高い声が響き渡りました。
クラスのみんながビックリして、教室の後ろの方に注目します。
カバンを入れる長いロッカーの上には、
鉄でできた小さな飼育カゴがありました。
牢獄のような鉄格子をしっかり握って、
小さなハムスターが口をパクパクさせています。

「おまえらカスだ!おまえらカスだ!おまえらカスだ!」
クラスの子供たちが顔を見合わせて驚いています。
何が起こったのか、よくわからないのです。
それでも。
「おまえらカスだ!おまえらカスだ!おまえらカスだ!」
ハムスターの雄叫びは止まりません。
「おまえらカスだ!おまえらカスだ!おまえらカスだ!」
「おまえらカスだ!おまえらカスだ!おまえらカスだ!」
「おまえらカスだ!おまえらカスだ!おまえらカスだ!」

教室が騒がしくなりました。
騒ぎを聞きつけた担任の先生がやって来ます。
入り口の近くにいた女の子が先生に言いました。
「先生!大変、タカちゃんが壊れちゃった!!」

「タカオ式AI搭載H型ロボペットR−15」こと、
ハムスターのタカオくんは、
そのままメディカルセンターへ修理に出され、
管理係の曽根山くんはしばらく仕事がなくなったので、
とても勉強に集中することができました。
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