<< September 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>
PROFILE
↑メールなどはこちら

<近況>
2014/11/8 更新してないねぇー ねたはあるんだけどね
SELECTED ENTRIES
ARCHIVES
RECENT COMMENTS
LINKS
<< R−15 | main | 愛は光の果てに >>
CANNED THE EARTH
むかしむかし、缶詰の三兄弟がいました。
兄弟といっても、本当の兄弟ではありません。
製造された工場も違いましたし、
今の場所に納められた経緯も違います。
それでも三人は、出会ったときから
お互いを認めあう仲のいい関係でした。

一番上の兄はパイナップルの缶詰です。
パイナップルは子供に大人気ですが、
ちょっと貴重品なので、大きなイベントがないと開けてもられません。
真ん中の兄は小豆の缶詰です。
お汁粉には最適なのですが、
お正月くらいしか開けてもらえるチャンスがありません。
一番下の弟の缶詰にはラベルがありませんでした。
だから、なんの缶詰なのかわからないのです。
なんの缶詰かわからないので、いつ開けてもらえるのか
さっぱりわかりません。
一番下の弟は、それをいつも気にしていました。
弟が悩んでいると、二人の兄はいつも言ってくれました。
「何が入っているかわからないなんて、ちょっとステキじゃないか」
「お前にはね、きっと夢が入っているんだ。僕らの希望だよ」
二人の兄にそういわれると、弟はなんだかとても嬉しくなります。
何が入っているかわからないことが、誇らしくさえ思えるのです。

いけ好かない感じのシーチキンの缶詰たちが、
ときどきやってきました。
シーチキン缶は一度にたくさん、兄弟にところに入ってきて、
ギャアギャア騒いだあと、すぐに出ていきます。
シーチキン缶は人気があって、そのせいか態度がとても横柄です。
缶切りを使わなくても開けられるからかもしれません。
だからとにかく、しまわれている期間が短いわけです。
一番下の弟は、シーチキン缶たちによくいじめられました。
何が入っているかわからないなんて、気味が悪い。
シーチキン缶たちは、そう言うのです。
そんなとき、兄の缶詰たちは顔を真っ赤にして怒り出します。
「コイツはお前たちとは違う!すごい奴なんだぞ!」
「大量生産された奴らが偉そうなことを言うな、この子は特別なんだよ!」
一番下の弟は何も言えませんが、
二人の兄が守ってくれるので、シーチキン缶なんて全然怖くありません。
退屈だけれど、幸せな日々でした。
一番下の弟はこんな日がずっと続けばいいと思っていました。

ところが、そういうときに限ってよくないことは起こるものです。
一番上の、パイナップルの缶詰の賞味期限が近づいてきたのです。
缶詰は保存食ですが、それでも一応賞味期限があります。
賞味期限が過ぎたって、すぐに食べられなくなるわけではないのですが、
どういうわけかそれを過ぎた缶詰は、すぐに捨てられてしまいます。
一番上の兄の様子が少しおかしくなりました。
夜が来て一日が終わる頃になると、急に無口になるのです。
昼間は意味のないことをずっと話して楽しそうにしているのに、
夜になると弟たちが話しかけても耳に入っていないように、
静かに目を閉じてしまうのです。
そんなとき、二番目の兄は何も言わずに黙っています。
仕方がないので一番下の弟も何も言わずに黙っています。

一番上の兄の賞味期限があと数日に迫った日のことです。
暗かった辺りが急に明るくなりました。扉が開いたのです。
すぅっと、きれいな指が入ってきたと思うと、
それがごそごそと動いて、一番上の兄の缶詰を掴みました。
高く持ち上げられた兄は満面の笑みを浮かべて、
「元気でな」と言うと、そのままどこかへ運ばれていきました。
残された二人の耳に声が届きます。
「あらぁ、これちょっと古くなっちゃったわねぇ」
「ママァ、これ変なニオイぃ」
「そんなことないでしょう・・・クンクン。クンクン。
・・・あ〜、ん〜と、やっぱりやめておこうか」

二人きりになった兄弟は、しばらく何も話しませんでした。
捨てられる前に開けてもらえた一番上の兄は、幸せなはずでした。
だから弟は尋ねました。「お兄ちゃんは幸せだったんでしょう?」
残された兄がひとこと応えます。「そうだね」
どれくらいの月日が経ったでしょう。
二番目の兄は弟にいろいろなことを教えてくれました。
シーチキン缶の数を数えて、簡単な計算も教えてくれました。
二番目の兄はとても頭がよかったので、弟はとても尊敬していました。
「缶詰が勉強なんかしたってしょうがないと思うだろう?
だけど、いつか知識は僕らを助けてくれるよ」
二番目の兄はきっとテンサイなんだと、弟は思いました。

辺りが明るくなりました。またシーチキン缶が出ていくのだと、
弟が思っていると、小さな手が、にゅうっと奥に入って
二番目の兄の缶詰を掴んで持ち上げました。
兄はにこりと微笑んで「さようなら」と言うと、
そのままどこかへ運ばれていきました。
残された弟の耳に声が届きます。
「ママァ、これも開けていいでしょ?」
「もう、しょうがないわねぇ。そんなに端から開けちゃって」
「だって、パパの缶切りすごいんだよ、もっと開けたいよぉ」
「母さん、いいじゃないか、うちの社の新商品なんだ。
子供にでも簡単に開けられるほど使いやすいってことだよ。
ん?そうだ、いいな、それキャッチに使おう、うん、いいぞ」
「もう、パパったら。コレ、ちゃんと全部食べてくださいよ」
「ああ?そんなマメの缶詰食えないよ。捨てちゃえばいいだろう?」

一人きりになった一番下の弟は、ずっと黙っていました。
周りの缶詰たちが、誰も話を聞いてくれないからです。
何も考えずに黙っていると、
せっかく兄たちが教えてくれたことも忘れてしまいそうでした。
シーチキン缶たちは相変わらず、
ラベルのない缶詰のことを気味悪がります。
弟はもう慣れっこになっていたので、それをさほど気にしませんでした。
すると反応の薄い弟に飽きてしまったのか、
シーチキン缶たちもあまり興味を示さなくなりました。
ところがある日、弟は新入りのシーチキン缶に話しかけられました。
「あんた、何が入ってるかわかんないんだって?
カッコイイじゃん。そーゆーのって、なんかさ、いいよね」
背筋がゾクゾクするくらい、透き通った声でした。
見ると、きれいなシーチキン缶のお姉さんでした。
弟は最初戸惑ってしまいましたが、
すぐにそのシーチキン缶が好きになりました。
気持ちがうきうきして、もう缶がバクハツしてしまいそうです。
缶切りがなくても開けられるそのスタイルが、
素晴らしくスタイリッシュに見えたのものです。
でも、そのお姉さんの缶詰もすぐに出ていってしまいました。
シーチキン缶はとても人気があるのです。

ネコ缶やクジラ缶やウマ缶や、いろいろな缶詰が
入ってきては出ていきました。
兄弟たちより前からいた長老の缶詰も、
ずいぶん前に出ていきましたが、
ラベルのない弟の缶詰はまだ残っていました。
もうずっと、外にも出ていません。
気の遠くなるくらいの時間が過ぎていました。
最後にやってきたのはどの缶詰だったのでしょう。
それも分からないくらいに、
まわりの缶詰たちはボロボロになっていました。
いつだったか、どういうわけか天井から臭い水が染みてきて、
他の缶詰たちの体に穴を開けてしまったのです。
中身はみんな腐ってしまって、ひどいにおいが漂っていました。

そのにおいもパリパリに乾いてしまったころ、
ラベルのない缶詰は遠くに懐かしい、生き物の声を聞きました。
なぜかくぐもっていましたが、それは間違いなく生き物の声でした。
声は次第に近づいてきます。

「おい、見ろ、位置的に何かの貯蔵庫じゃないのか、これ」
「貯蔵庫跡だろ。どうせ何も残ってないさ。
あの戦争のあとだ、みんな酸性雨にやられちまってる」
「そりゃあそうかもしれんが、探してみないことには・・・
クソッ、ひどいなこれは」
「ああ、ひどいもんだ。地球にはもう赤い砂しかない。
まったく人間というのはどうしようもない生物だったらしいな」
「おや?おい、見ろよ、これ溶けてないぞ」
「なんだって、本当か?すごい、なんだコレ?おい、見せてくれ。
・・・はーん、なるほど、スゴイ。ちゃんとコーティングしてあるんだ。
こんな技術、人間にあったのか?」
「さあね。しかし、すごい発見だ。失われた人類の英知だよ」
「で、何なんだ、コレ?」
「わかるわけないだろ。文字らしきものが何もない。
ラベルでも貼ってあればよかったんだが・・・風化したんだろう」
「振るとカラカラいう、何か入ってるな。開けてみようか?」
「だめだ、貴重な旧世界の資料だぞ。下手なことして壊れたらどうする。
これからちゃんと調査して、それが何のか突き止めなきゃならないんだ。
密封して、しっかり保管するべきだ」

弟の缶詰はひょろ長い銀色の手につまみ上げられると、
密封され、しっかり保管されて、ずっとずっと遠くへ運ばれました。
そこでさまざまな機械に入れられたり、
妙なケースに入れられたりしましたが、
結局フタは開けられませんでした。
それでも、銀色の服を着た小さな人たちは、
弟をとても大切にしてくれたので、嫌な気分ではありませんでした。

火星にある地球博物館。

今や失われた地球の文明にふれようと、博物館は大盛況です。
数少ない展示資料の中に、背の低い金属製の円柱があります。
それは最近見つかった地球の貴重な資料で、博物館の目玉です。
未だかつて発見されたことのなかった完全な資料。
新発見の地球の資料に老若男女問わず興味津々。
いったい何が見つかったのかと大騒ぎです。
人混みの奥、ガラスケースに貼られたラベルの表示には、
大きな文字でこう書かれていました。

『地球の缶詰』
comments(2)
泣けます!
| パカロニ | 2010/12/24 11:18 PM |
俺も数年ぶりに読み返してみて泣いた
| 類二 | 2011/01/12 8:07 PM |










このページの先頭へ