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<近況>
2014/11/8 更新してないねぇー ねたはあるんだけどね
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無力化
無力化。

いい言葉だ。
戦わずして勝利を得られるわけだ。
圧勝どころの話ではない。素晴らしいではないか。

そんなわけで、俺は常日頃から、戦いの際は正面からぶつかるのではなく、
できるだけ相手を無力化するように心がけている。


シールがあらわれた!

机に貼られてしまったら厄介だ。無理に剥がそうとすると、どうしても跡が残ってしまう。強敵だ。
そこで台紙からシールをめくり、二つ折にするようにして粘着面同士を貼り合わせてやった。
どこにも貼ることができないという、シールにとって最大の屈辱。
いや、粘着部分を余すところなく使用したわけだから、シールにとってはある意味幸せだろう。
これからはただの紙として永遠にこの世を彷徨い続けるが良い。


缶コーヒーがあらわれた!

楽勝だ。
缶切りを使い、缶詰を開ける要領でコーヒーの上蓋を切り取ってやった。
缶飲料最大の特徴であるプルタブを無力化したわけだ。
普段は小さな飲み口からしか窺い知る事の出来ない缶の中身がアホみたいに見えまくっているではないか。
そして中身がみるみるうちに冷めていく。
情けない。これがかつて俺の舌を何度も火傷させた缶コーヒーか。
プルタブよ。貴様、何のためにこの世に生産されたのか。自問自答するが良い。
缶蓋に書かれている、
1.→タブをおこす
2.←タブをもどす
を実行されずに中身を美味しく飲まれることになろうとは思いもしなかったであろう。
しかし武士の情け。介錯くらいはしてやっても良い。
中身を飲み干した後、ただのスチールの板に成り下がった缶蓋のプルタブをフルパワーで開けてやった。


トイレがあらわれた!

バカめ。トイレ戦には定石がある。
うんこをして流さずに出てくるだけでよい。
さあどうだ。
これでもはや貴様はトイレではなくうんこの一部に成り下がったのだ。
このまま放ってく限り、永久に使用されることはないだろう。
さらばだ。勇敢なるトイレよ。
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解消すべきもの
最近、肩凝りが激しい。
グレイトドラゴンが吐く炎よりも激しい。
こんなに凝っていては、とても神奈川県知事になれそうもない。それどころか、相模原市長の座も危ういだろう。
私を次期市長選から蹴落とすなら今がチャンスだといえる。
それにしても、なぜこんなに凝るようになってしまったのだろう。
いくつか可能性を考えてみた。
1.毎日仕事ばかり、仕事しまくり、仕事三昧、仕事パラダイス状態である
2.でも最近仕事が減ってきて残業も少ないから、肩への負担は以前より軽いはずである
3.そういえばここんとこ家に帰るとドラクエ8ばかりしていたなあ
4.それか、毎晩寝ている間に、肩をボンドで固められているのか
5.それとも、毎晩寝ている間に、肩にセメントを注入されている可能性もある
6.それにしても王将の焼きそば(醤油味)と中華飯のコンビは最強である
7.何を言っているんだ麻婆茄子を忘れたのか

6である可能性が高いという結論に達し、
肩が凝っているという事すら忘れることに成功した私は、
会社帰りに最寄の駅近くにある王将に行き、焼きそば(醤油味)と中華飯と餃子を注文し、
腹を十分目まで満たしたが、
そこでふとマッサージ店にでも行ってみようかという気になった。
人間、食欲が満たされると、次は肩凝り解消欲に襲われるらしい。
人体の神秘に感動せざるをえない。

目指すは、お手軽マッサージ店の大手チェーンである、「てもみん」である。
整体や整骨院ほどの本気度ではないが、コンビニに立ち寄る感覚で、
短い時間でも気軽にマッサージが受けられる利便性が好評のようだ。
さきほどの王将から徒歩10秒程という至近距離である。
王将好きの私のために用意されたマッサージ店としか思えないほどの便利さだ。

しかし、お手軽といえど、マッサージ店など初めての体験である。
どういうシステムなのかもよくわからない。
軽い緊張を覚えながら、意を決して「てもみん」のドアを開けた。
店内はやや暗めだ。リラックスできそうな音楽が低い音量で流れている。
受付には女性スタッフがいた。

「いらっしゃいませ」

その女性スタッフは20代中盤といったところか。長い髪を後ろで纏め、背の高い細めの体型、
小顔ではっきり言って美人だ。こんなお姉様にマッサージをしてもらえるのか。
こんなことなら、もっと早く来てみればよかった。

「ええと、初めてなんですけど」
「アラ奇遇ですね。私もなんですよ」
「え。どういうことですか」
「私も今日が初出勤日なんですよ」
「そ、そうですか」
「では何分コースにいたしましょう。初めてでしたら、40分以上がおすすめです」
「(こんな綺麗な人にマッサージをしてもらえるんなら、奮発しよう)じゃあ、ええと、60分で」
「わかりました。ただ今準備をしますので、少々お待ちください」

約7000円を支払った。財布から札が全部なくなってしまったが、まったく後悔していない。
受付をしてくれたお姉様は新人のようだから、
マッサージそのものはあまり期待できそうにないが、
美人だからすべて許せる。
お姉様はにっこりと微笑み、待合コーナーへ案内してくれた。

店内を見回す。
受付をしてくれたお姉様以外にも、女性スタッフの姿が多数見える。
しかも全員若く、綺麗である。目の保養にもなる。
お手軽マッサージ屋と思って侮っていたが、なかなかどうして、
こんなレベルの高い癒し系スポットだとは思わなかった。

施術台、というのだろうか。ベッドはカーテンで仕切られており、
他の客の様子をうかがうことは出来ない。が、
スタッフと客のやりとりする声は聞こえてくる。

「腰のあたりをもう少し重点的にお願いします。ちょい強めで」
「わかりました」

などと客がスタッフに注文をつけたり、

「最近お仕事のほうはどうですか?」
「いやー不況で仕事が減ってねえ。参った参った」

などと、スタッフから客に話しかけていたり、わりと気軽な会話も聞こえてくる。
積極的にコミュニケーションを取ってくれる方針の店のようだ。

これらの様子を総合すると、どうやら店内スタッフはほぼ女性、
客は私のようなサラリーマン男性と若い女性が半々といったところ。
女性客にしてみれば、おなじ年代の女性からマッサージを受けられるので安心できるのだろう。
そして男性客からしてみれば、中年のおっさんに力いっぱいマッサージされるより、
若い女性にしてもらったほうが気持ちよさも倍増するのではないだろうか。
実際、デレデレしたおっさんの声も聞こえてくる。
マッサージのみならず、積極的なコミュニケーションによって、
肩こりや腰の疲れだけでなく、心も癒され、満たされるに違いない。
ここが昔ながらの整体や整骨院などと大きく違う点だろう。

この手の店が繁盛するのも頷ける話だ。
期待は高まる。

「お待たせしました。では今からマッサージを始めますね。こちらへどうぞ」
先ほど受け付けをしてくれたお姉様がやってきて、
空いている仕切りへ案内してくれた。仕切りのカーテンが開いた。
しかし、そこに待っていたのは、
私より明らかに年上の中年男性(パパイヤ鈴木似)だったのである。
お姉様は、さっさと受付へ戻ってしまった。

パパイヤが満面の笑みで言った。
「じゃベッドに横になって」

私は慌てた。
「ちょ、ちょっとまって。まって」

「は?どうしました?」
「あなた、何ですか?」
「いきなり失礼な客だな。俺はマッサージ師に決まってるだろう。あんたの肩の凝りを解消するためにここにいるんじゃないか」
「さっきのお姉様は・・・」
「あの子はまだ新人だ。他のスタッフが手いっぱいになったらやってもらうつもりだが、ちょうどタイミングよく俺が空いたからね」
「何だと」
「ははあ。さてはお客さん、若い女の子にマッサージしてもらえると思って期待してたね?」
「・・・」
「なに、非力な女で、しかも新人がやるより、ベテランの俺がフルパワーでやったほうが絶対いいって。お客さん、むしろ運がいいよ」
「いやだ。こんなオチはドラクエだけでじゅうぶんだ」
「何をわけの分からないことを。ここは風俗店じゃないんだから。あんた変な期待しすぎなんだよ」
「くっ・・・」

これから60分、カーテンで仕切られた空間で、あの受付にいた美人のお姉様にみっちりマッサージをしてもらえるとばかり
思っていたのだが、考えが甘かったようだ。
しかし、よりにもよって、パパイヤ鈴木にそっくりのむさくるしいおっさんである。
今世紀最大のがっかり具合を味わった。
約7000円を支払い、財布から札が全部なくなってしまったことを激しく後悔した。

それでも私は、精一杯の抵抗を試みることにした。
いくらカーテンで仕切られているとはいえ、声は店内に筒抜けであるため、私は目と念力でパパイヤに訴えた。

「(頼むパパイヤ!一生のお願いだ。今からでも遅くはない。さっきのお姉様とチェンジしてくれ!)」

するとパパイヤは、私と同じようにアイコンタクトによって私の心に語りかけてきた。
「(まあ、気持ちは分からんでもないがね。でもだめだ。あきらめてベッドに横になりな。60分みっちりフルパワーで肩凝りをほぐしてやるよ)」
「(そこをなんとか!なんなら指名料金払ってもいい)」
「(バカ言うな。ここは風俗やキャバクラとは違うと言っただろう。勘違いもはなはだしい)
「(あ、ちょっと待ってくれ。よく考えたらそんなに肩凝ってなかったようだ。フルパワーだとかえって体によくなさそうだから、非力なお姉さんにしてもらったほうがちょうどいいかも)」
「(大丈夫だ。俺で問題ない。ちゃんと力の加減はできるから安心しろ)」

パパイヤはどうしてもチェンジを許してくれない。
そんな事をしているうちに、別の男性客が店にやってきて、例の受付の新人お姉様がマッサージを担当することになったようなやり取りが、
カーテンの向こう側から聞こえてきた。
さっそく施術が始まったようである。

「すいません私今日初めてなもので。力加減とか弱かったりしたら言ってくださいね。なるべく力入れるようにがんばりますんで」
「ああ、ちょうどいいよ。あー気持ちいいあーそこそこ。それにしてもお姉さん、美人だねー。マッサージも上手だし。いやー肩も凝ってみるもんだ。今日はラッキーだなへへ」
「どうもありがとうございますー」

そんな会話が聞こえてくる。

「(ほれ見ろパパイヤ。お前がモタモタしてるから、お姉様取られてしまったじゃないか)」
「(取られるとか人聞きを悪いことを言うな。あんたのマッサージ担当はこの俺だ。いいからさっさとベッドに寝ろ)」
「(こうなったら意地だ。あのお姉様でなくてもいい。他の女性スタッフと交代してくれ)」
「(駄目だと言ってるだろうが。他のスタッフもみんな施術中だ)」
「(くっ。何で俺だけパパイヤを相手にしなきゃいけないんだ)」
「(そりゃこっちのセリフだ。俺だってお前みたいな野郎よりネーちゃんにマッサージしたいに決まってるだろ)」
「(あっ。本音が出たな。このセクハラマッサージ師め)」
「(こっちは仕事としてやってんだ。文句あるか。だいたい、俺の施術は素晴らしいと評判なんだぞ)」
「(パパイヤの分際で偉そうに。おおかた、ここの女性スタッフ目当てで働いてるんだろう)」
「(俺は自分の資格を生かした仕事をしているだけだ。どこで働こうが俺の勝手だろう。それより俺の事をパパイヤパパイヤ言うな)」
「(ふん。パパイヤに似てるおっさんをパパイヤと言って何が悪い)」
「(うるさい客め。そんなに俺のマッサージがイヤなら帰ってくれ。金は返さんぞ)」
「(それが客に対する口の利き方か。このエロ按摩野郎)」
「(あんたこそ口の利き方に注意したほうがいい。人権侵害すれすれだ)」
「(あっ。見ろ。もう30分経過した。まだ何もしてもらってない)」
「(あんたがゴネるからだろうが。さあ、おとなしくマッサージ受ける気があるなら、早く寝てくれ)」
「(くそう。訴えてやる。寝てやる。おねしょしてやる)」

この争いが不毛であることを認めた私は、すべてをあきらめ、
仕方なくパパイヤ鈴木に身を預けた。
たまたま綺麗なお姉様が受付をしていたために舞い上がってしまったが、
本来の目的は肩凝り解消だ。
パパイヤの言うとおり、男のパワーで揉み解してもらったほうが、
より凝りを解消できるだろう。

「どこが凝ってるの?」
「・・・肩」
「どれどれ。あー凝ってるねえお客さん。こりゃいかんよ」
「・・・そうすか。・・・あーそこが気持ちいい」
「ここね。はいはい。あんちゃん、最近仕事のほうはどうよ?」
「・・・まあ、この不況ですからね。なかなか・・・」

結局、私とパパイヤは、マッサージの傍ら、
日本経済の先行きや雇用問題、内閣批判といった熱い議論を交わした。
肩はじゅうぶんにほぐれたが、心のどこかにしこりの残る体験であった。
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青春時代
「私、行かないことにしたわ」

女性はそう言うと、足を組み換えながら煙草に火を点けた。
天井に向けて吐き出す煙。

「でも、誤解しないで。あのリーダーのことが気に入らないわけじゃないの」

「・・・・・・」

女性の目の前に座っている男は、俯いたままだ。
何かに耐えているように見える。

「ああいった気質は、リーダーとしてなくてはならないものだわ。
私がナンバー2に甘んじているのも、あの強引さが足りないせいだと思ってる」

「・・・・・・」

「ただね。今回の合宿、実りのあるものになるとは、どうしても思えないの。メンバー個々の動きが、まだばらばら。到底合わせられるレベルになってないわ」

女性は前髪を掻き上げ、頭を小さく左右に振る。
再び煙草の煙を天井に向けて吐き出す。

「ねえ新人クン。君が見たってわかるでしょう。リーダーが何をそんなに急いでいるのかわからない。私がリーダーの座を脅かしているとでも考えているのかしら。人気を集めようと躍起になって、挙句の果てに今回のような強引な合宿計画。ちょっとおかしくなってるんじゃないかしら。あの子」

「そ・・・そうでしょうか・・・」

ずっと無言だった、新人クンと呼ばれた男がようやく口を開いた。
一瞬だけ、女性の顔を見た。そしてまた俯いてしまう。
女性の大きく開いた胸元に、目のやりどことがなくて困っているのか、ただ女性を目の前にして緊張しているだけなのか。

「だから私は行かないことに決めたの。さっきも言ったけど、あの子のことが嫌いなわけじゃない。ただナンバー2である私が行かないことで、あの子が少しでも頭を冷やしてくれたら・・・って、そう思ってる」

「ぼ・・・僕はその」

「いいの。私に合わせなくても。新人クン、あなたは行きなさい。憎まれ役は私一人で結構。君にはなにか大きなものを掴んで帰ってきてほしいの」

「・・・・・・」

「ほら、そんなに黙らないで。私がいなくたって、君なら大丈夫よ。君には才能があるわ。努力や根性だけでは追いつけないほどの、天賦の才能があると私は見てるの。だから君はこんなつまらないことで私とあの子のごたごたに巻き込みたくない」

「・・・・・・はあ」

「私の夢は、このサークルを日本一、いえ、世界一の劇団にする事。今回の件も、サークルにとって次のステップに進むための試練なのよ。新人クン、私の夢に手を貸して頂戴」

「え・・・・・・」

女性は従業員を呼び止める。

「すいません。同じものをもう一杯いただける?」

顔から体型から朝青龍にそっくりのその女性は、空になった大ジョッキを高々と掲げ、餃子の王将橋本駅店の店員におかわりを告げた。

僕はその様子を、向かいの席から、笑いを必死にこらえながら眺めていた。回鍋肉が吹き出しそうだった。
なぜ可笑しかったのかは、よくわからない。
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手・クリフ PART1
右手の親指は、左手の親指のことが嫌いで仕方がない。
利き手でも無いくせに親を名乗るのはいかがなものか、いったいどういう神経をしているのか、まったく親の顔が見てみたいものである、と常日頃から考えている。親と名のつくものは人体にひとつだけ存在していれば良い。そしてその資格があるのは利き手たる右手の親指、すなわち自分のみであると信じて疑わない。左手の指揮権を掌握し、命令系統を一本化することが当面の野望である。

一方、普段は温厚な左手の親指も、右手の親指の事を快く思っていない。たかが利き手であるという理由だけで、両手を統括しようとする右手の親指に対して遺憾であるとのコメントを最近発表したばかりである。
右手も左手も能力的には同等であるから、右の事は右手、左のことは左手で分割統治するという従来通りのやり方で良いではないか、という考えである。そのため、右手親指の存在を否定するつもりはないが、右手親指の横暴ぶりをこれ以上看過することはできないと考えている。
仮に右手が左手に対し武力をもって制圧せんと乗り込んできても、簡単にひれ伏すつもりはなく、また右手に劣らぬほどの戦力も有している。

そんな緊張状態が続く中、ある夜、右手が奇襲攻撃に出た。ついに開戦である。
右手軍の小指分隊は密かに爪を伸ばし、攻撃力を最大限に高めていた。そして一気に左手の陣に突入したのである。左手は突然の攻撃に慌てふためき、思いもよらぬ右手小指の強力な攻撃になすすべも無く、一夜にして主力である中指を失ってしまった。

左手軍は緊急会議を開いた。
「してやられた。右手小指の奴め、ひよっこと思って侮っていたようだ。戦いは好まんが、こちらからも攻勢に出なければいかんな」
左手親指は怒り心頭であった。主力を失いはしたが、優秀な部下は揃っている。右手が一度の勝利に浮かれている隙を突いて反撃し、一気に戦争の主導権を握ろうというのだ。
これに対し、反発したのは人指し指である。知勇兼備の良将と称えられ、左手軍のみならず右手軍からもその有能ぶりを賞賛する者がいるほどだ。
「なりません。中指を欠いた今、正面からぶつかっては勝てる見込がございません。ましてや右手はこちらの主力を叩いたということで、士気が上がっておりましょう。今一度、お考え直しを」
ではどうするのだ――と親指が口を開きかけたとき、小指が前に出た。
「私に策がございます。初戦における右手軍の戦功第一は小指とのこと。我ら左手軍にも小指あり、というところを見せつけてやろうかと思います」

翌朝、左手軍の小指小隊は右手軍の駐屯地である右脇腹の目の前に陣取り、右手軍を困惑させた。

「あれだけの少数で我らの前にのこのこ現れるなど、死にに来たようなもの。私にお任せを。数分で片付けてまいります」
そう言ったのはまだ若い右手薬指であるが、血気に逸るきらいがある。右手の参謀である人差し指が諫めた。
「いや、何か策があるに違いない。そうでなければ我らの前に堂々と姿をみせるはずがない」
これには、普段であれば猪突猛進するはずの右手大将・親指も同意見であった。
「そうだな。今は様子を見ておいたほうがいいだろう。何も無いようならば、あんな左手小指の若造など叩くことはたやすいからな」
そう言われて一度は引き下がったものの、初戦で後輩の右手小指に活躍の場を取られ、功を焦っていた右手薬指は、上層部の命令を無視し、自身の全戦力を持って左手小指の陣に正面からぶつかっていった。

しかし、当然ながらそれは罠であった。
右手薬指隊が左手小指の小隊と爪を交えようかというその時、両脇から伏兵が出現したのである。
両翼を指揮するのは左手小指の分隊である第一関節と第二関節。
合わせて三方向から包囲殲滅する作戦であった。
その左手小指の作戦を知った右手薬指は、すかさず薬指全軍に伝令を出す。
「動揺するな!一隊の数では我々のほうが勝っている。各個撃破すればよい。中央突破の後、左に展開して第二関節分隊を叩く!」
右手薬指の判断は素早く、また的確であったため、薬指隊の動揺もすぐに収まる――かに見えたが、その一瞬の隙を突いて左手小指が攻勢に出た。
「今だ!例の武器を持って、一気に包囲して殲滅せよ!」
何と、左手小指の爪には、鼻糞がつけられていたのである。

「鼻糞だと!? やられた!小指の分際で小癪な真似を」
右手薬指は吼えたが、その時既に遅しであった。
左手小指の目論見通り、圧倒的な鼻糞の攻撃力をもって、意気消沈した右手薬指を包囲することに成功した。

慌てたのは右手軍上層部である。
「薬指めが!様子を見ておれと言ったのに、むざむざやられに行きおって!」
「ですが親指様。このまま黙って見ているわけにも行きません。救援の命令を」
「やむをえん。中指、主力部隊を率いて急ぎ薬指の救援に駆けつけよ」
「はっ」

ところが、右手中指が戦場の右脇腹に到着した頃には、すでに敵将・左手小指の姿はなかった。戦いに勝利し、悠々と引き上げていった後だったのである。右手薬指隊は、指揮官を含め全滅である。

次代の担い手である右手薬指を失った右手軍の損失は大きかった。
それだけでなく、左手軍が鼻を味方につけていることがわかり、右手軍は大きく動揺していた。鼻から供給される鼻糞の威力の凄まじさを、身をもって知らされたのである。
「初戦と今回の戦いで、ほぼ痛み分けの格好です。これで、しばらくは左手軍にも動きはないでしょう。私はこれより同盟交渉に行ってまいります」
「どこと同盟するというのだ、人差し指よ」
「もちろん・・・鼻糞ごときの攻撃など、ものともしない、例のところです」
「・・・わかった。できれば奴の力を借りずに勝ちたかったものだが、仕方あるまい」

左手軍も、この勝利の大きさを感じていた。
「鼻糞の威力は素晴らしい。小指よ。よくやった。これで軽々しく敵が攻勢に出ることはないだろう」
「はっ。ありがとうございます」
左手大将・親指をはじめ、左手軍は、もとより安定志向である。鼻糞がある限り、右手軍が攻め込んでくることは考えにくい。このまま膠着状態に陥れば、停戦協定を結び、この無益な戦いに終止符を打つつもりであった。

しかし、数日後、右手軍の全軍が進軍してきたとの情報が入った。最終決戦の構えのようだ。
左手親指は耳を疑った。
「血迷ったか右手親指め。こちらには鼻糞があるのだぞ」
「敵は全兵力をもって向かってきます。こちらも全軍、出撃せねばならないでしょう」
左手人指し指が言う。薬指と小指が頷く。
「そのようだ。こちらも全戦力をもって迎え撃つ。本意ではないが、この争いを終結させるには、我々左手が勝利し、右手を支配下に加えてしまう以外にあるまい」

こうして、腹部中央にて、右手と左手の全軍が対峙することになったのである。
右手軍は右乳首に本陣を構え、胸部から腹部にかけて上半身の右側全体に兵を展開している。前線の指揮官は中指である。
対する左手軍は、左乳首に本陣を置き、前線に薬指を配置した。
兵力はほぼ互角、指揮官の差では右手が若干有利。だが左手には強力な攻撃力を誇る鼻糞がついており、総合的に見ると左手有利である。

いよいよ決戦が始まった。
戦いは激しく、双方とも被害が少なくない。
右手は主力部隊である中指が健在であり、左手の鼻糞攻撃を凌ぎつつ、効果的にダメージを与えていた。また、小指も、持ち前の長い爪を生かして戦場を縦横無尽に駆け回っていった。

左手は薬指が前線の指揮を執っているが、経験不足のためか鼻糞攻撃が生かせない。小指も策がはまれば強いところを見せるのだが、乱戦には弱く、状況判断が素早くできずにいる。
戦闘開始からしばらくは、右手が優位に戦いを進めていた。

見かねた左手人指し指が、本陣から前線に兵を進めることとなった。左手軍は、もはや人指し指の武勇と知略のみが頼みの綱である。
人差し指は混乱状態に陥っている薬指と小指をまとめあげ、隊列を立て直すことに成功した。

これにより、左手軍の鼻糞攻撃が的確に右手軍にダメージを与えるようになった。

戦闘開始から数時間。
左手軍が右手軍を圧倒し始めた。

「中指から連絡が入りました。前線が押され気味とのことです」
右手人差し指が、なにやら不敵な笑みを浮かべながら、右手親指に報告した。
「そうか。では、いよいよだな。あれを投入しろ」

前線の上空に、不審な影が現れた。
右手軍の中指が叫ぶ。
「最強の援軍が来たぞ!我々の勝利は近い!」
一方、左手軍の兵には動揺が走っていた。
「人指し指殿!なんでしょうか、あれは?」
前線の指揮権を左手人指し指に譲った左手薬指が尋ねる。
「あれは・・・。まずいことになった」
左手人指し指の表情が曇る。
「敵なのでしょうか?」
小指も心配そうな面持ちである。
「私の記憶が確かならば、あれは・・・口だ」
「口!?伝説の猛獣と言われている、あの、口ですか?右手軍はあんなものを味方につけたとでもいうのですか!?」
薬指が言い終わらないうちに、左手軍の兵士の叫び声が聞こえてきた。
口が右手の援軍としてやってきたのだ。

口は左手軍の頼みの綱である鼻糞を次々と食べていった。
兵も続々と飲み込まれていく。
戦局は、あっという間に右手優位に傾いていった。

「見ろ!人指し指よ!口が左手軍の兵と鼻糞をどんどん食べているぞ!我々の勝利は決定的だ!」
「口は思った以上の働きのようです。思惑通りですな」
右手親指と人指し指は、勝利を確信した。

左手軍の被害は甚大であった。果敢にも口に立ち向かっていった薬指と小指が相次いで口に食べられ、人差し指は命からがら本陣に逃げ帰ってきた。もはや戦いにならない。
「我が軍は、もう戦える者があまり残っておりません。親指様、ここは潔く降伏すべきです」
「・・・。それしかないのか。俺は右手親指の下につく事に耐えられんよ。降伏はできん。ここで死なせてくれ」
「なりません。親指様には生きながらえて、再起を図っていただかなくてはならないのです」
「いや。もう決めたことだ。俺は戦場である、この腹部で死ぬ。人指し指よ、お前ほどの能力であれば右手の人指し指以上に重宝されるはずだ。食うに困ることはあるまい。お前は生きろ」
「そんな・・・。・・・はっ。そういえば、この場所は・・・」
「どうした?人指し指よ」
「我々が戦場にしたこの場所、ここは胸部及び腹部です。おなかです」
「それがどうしたと・・・。む、もしや・・・?」
「そうです。あれを試してみる価値はあるでしょう」

左手軍の残兵たちが、一斉に下腹部に向かって後退を始めた。左乳首に置いた本陣も引き払い、全軍が一隊となって下腹部に集まる形となった。
「愚かな。降伏すればよいものを。あれ以上後退したら陰部に棲むと言われる悪魔にやられてしまうではないか」
右手中指と右手小指が顔を見合わせる。
陰部は禁断の地である。そこには正体不明の悪魔が棲んでおり、足を踏み入れた者で戻ってきた者はいないと言われている土地であった。
「よし!兵たちよ!押せ押せ!このまま陰部に放り込んでしまえ!」
小指が声を荒げる。

しかし、その瞬間、予想だにしなかった事態が発生した。
右手の兵ほほぼすべてが、突然消えうせてしまったのである。
中指は混乱した。
「何事だ!何があった!誰か報告せよ」
「中指殿!連絡が入りました」
「おお小指。説明してくれ」
「臍です。臍のブラックホールに、兵がすべて飲み込まれてしまった模様」
「臍だと・・・!しまった!油断した!左手軍め、臍を掘り当てたか!」
「状況は、一転して我々の窮地です。早く本陣に戻り、親指様と人指し指様の指示を仰がなければ」
「おのれ左手の奴らめ。もう少しで俺の手柄があげられたところだというのに」

右手中指は、残存兵の隊列を立て直し、退却を試みた。
しかし、それは叶わなかった。
左手軍が掘り当てた臍から発掘した臍のゴマ爆弾により、右手中指と小指は下腹部に散ることとなったのである。
鼻糞は平気で食べていた口も、臍のゴマを口に入れられるや否や、「げえっ」と声を発してどこかへ消え去っていった。

「どうやら作戦成功のようです、左手親指様。臍のゴマの力で、口をも退散させることができました」
「そのようだな。しかし、臍のブラックホールがあれほどまでの威力であったとは・・・」
「感心している暇はありません。一転して我々有利です。敵は戦意を失っています」
「そうだな。よし!反撃開始だ!」

勢いを取り戻した左手軍は、生き残ったわずかな兵を従え、一気に右親指が本陣を構えている右乳首に乗り込んだ。
最後の乱戦であったが、結果、右手軍は壊滅。右手軍の生き残りは、親指と人指し指のみとなったのである。
右手と左手の親指と人指し指。双方の大将と参謀が、相見えることになった。

「観念するのだな、右手親指よ。もはやこれまでだ。これで心を入れ替えて、今までどおり右手と左手の分割統治とする事を約束しろ。そうすれば許してやってもいい」
「ふ。ふははは。ふはははははは」
「どうした。何がおかしい」
「甘い。甘いな左手親指よ。俺が観念するだと?貴様、誰に向かってそんな口を聞いている」
「・・・。昔のお前は、こうではなかったんだがな。降伏する気が無いのなら仕方ない。この場で介錯してやろう」
「ふん。貴様なんぞに殺されてたまるか。おい人差し指」
「はい親指様」
右手の人指し指が、懐から何かを取り出した。

「ああっ左手親指様!」
「どうした左手人差し指」
「奴ら、自害するつもりです。止めなければ」

しかし、既に遅かった。
右手人差し指が取り出した箱には、腋臭が詰まっており、その匂いを嗅いだ右手親指と右手人差し指は、その場で絶命したのである。

「なんということを・・・」
「左手親指様。ともかくこれで、戦いはおわりました。失ったものが大きすぎる戦いでしたが、悲しみに暮れている暇はありません。これからは左手親指様が、左手のみならず右手をも再興し、昔のような10本の指を復活させなければならないという使命があります」
「わかっているとも。人指し指よ。これからも俺に力を貸してくれ」
「もちろんでございます」


こうして、左手を掌握せんとする右手の野望は潰えた。
その後は、今回の戦役で空いてしまった8本分の指の地位を、生き残った兵の中から指名した上で、左手親指と人指し指が中心となり、両手合計10本指がよく働き、かつての繁栄を取り戻したそうである。

しかし、その数年後。
すっかり平和になった両手を狙うものがいた。
左足を制圧し、支配下に加えた右足である。


・・・Part2へ続く
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巻頭インタビュー
単なる社会現象にとどまらないのか。
2009年に入っても類二旋風は続いている。
今月、いよいよ自身初となるベストアルバム「Luiji the Best 〜Greatest Hits〜」が発売となる。
シングル曲はもちろん、アルバム未収録曲をはじめ、未発表曲や未完成曲、さらには未作成曲まで全て網羅した704枚組の豪華盤だ。
そこで巻頭特集として、本誌スタッフが類二へのインタビューを試みた。
本作にかける彼の意気込みを、たっぷりと語っていただいた。

―――相変わらず絶好調のようですね。

類二「そうですね。おかげさまで、まだがんばらせていただいています(笑)」

―――9526thシングル「足の匂いは薔薇のように」が650004.1万枚を突破しました。この曲は、どのようにして作られたのですか?

類二「久しぶりにポップなのをつくってみよう、と思ったんです。そこで、友達に電話をかけてみたら、突然"もしもし"というフレーズが頭に浮かびました。いいフレーズだなと思ったので、そこから詞を付け加えていって、結局3.2μ秒くらいで出来上がっちゃいました(笑)」

―――そんなに早く出来上がってしまうんですね!

類二「まあ、いつもこんな感じですよ(笑)曲はわりと早く作れるほうです。小さい頃からそうでした」

―――小さい頃から?最初に曲を作ったのはいつごろなんでしょうか。

類二「確か、0歳のときだったと思います。とてもいい出来で、産まれた直後にもかかわらず大泣きしてしまって、涙が止まらなかったことを憶えています」

―――さて、デビュー1ヶ月記念ということで、いよいよベストアルバムが発売されるわけですが。

類二「引退するまでベストアルバムは出さないつもりだったんですけどね(笑) 、どうしても出して欲しいという要望があったものですから(笑)」

―――デビュー曲にして代表曲「止まらないマグロ」や音楽史に残るバラードの名曲「張飛」などはもちろん、アルバム未収録曲からは傑作「チュパカプラのぼやき」など、盛りだくさんの内容ですね。選曲はどのようになさったのですか?

類二「全部入れました(笑)」

―――ところで、ベストアルバムのタイトルを見て思ったんですが、あなたの名前の綴りは"Luiji"ではなくて"Luigi"では?

類二「気付いてしまったか・・・。だが、もう遅い」

―――アルバム発売後は、いよいよ全国ツアーですね。
   ベストアルバムを引っ提げて、東京ドーム811daysを皮切りに、3日間で全国53390箇所を周る、初めての本格的なツアーですが。

類二「相当気合入ってますよ(笑)全国のファンに会えるのがたのしみです(笑)」

―――ありがとうございました(泣)
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Pollyanna
ナンバーワンよりオンリーワンだ。
一番になるより唯一になりたい。
などとほざいている輩を見ると腹が立つ。

考えてもみるがいい。
ナンバーワンとは文字通り一番であり、筆頭であり、最上位だ。
ハーゴン様然り、バラモス様然り、クロオビナンバーワン然り。
あまねく存在の頂点に君臨するものがナンバーワンなのであり、
ナンバーワンともなれば、
『ナンバーワンとそれ以外』というように世界を乱暴に二分することだってできる。
いや、『たった一個人が、それ以外の世界のすべてと等価値である』
という状況こそ、まさにナンバーワンの意味合いなのだ。
それほどまでにナンバーワンとは絶対的、唯一無二の存在である。
ナンバーワンがオンリーワンを内包することなど言うまでもない。

対するにオンリーワンとは何か。クロオビオンリーワンか。
安易に答えるならば、『唯一』。
であるが、『Only』はそれだけで、『唯一』を意味する。
ならば、『One』とは何だ。
ナンバーワンのワンはいい。No.1のoneだからだ。
しかし、オンリーワンのワンはいったい何のoneだというのだ。
直訳したら『唯一の一』ではないか。
そんなに一人になりたいのか。
無論、そんなモノに大した意味などありはしない。
むしろ意味不明になるのも当然といえる。
何故なら、オンリーワンなどという英語はなく、
所詮は和製英語にすぎないからだ。
正しくはワン・アンド・オンリーという。

これだけでもすっかりオンリーワンの化けの皮も剥がれようかというものだが、
より明確にナンバーワンとの力の差を示すためにも、
もう少し具体的な例を挙げて考えてみるがよい。

オンリーワンとはつまり、唯一でありさえすればよいわけであるから、、、

ここに腕が一本の人間がいたとする。
隻腕の男。
もちろん、これは唯一ではないにせよ一生のうちに出会う確率はそうそう高くもないだろうから、
一般的な日本人の視点に立ってみれば、ほとんど唯一の存在に近いといってよさそうである。

が、しかし。
果たして本当にそうだろうか。
もう少し考察を進めてみる。


ここに腕が一本の人間がいたとする。


そこに腕が二本の人間が現れたとする。
そこへ腕が三本の人間が現れたとする。
更にそこへ腕が四本の人間が現れ、
五本の人間も現れ、
六本の人間も現れ、
七本の人間も現れ……
と、続々と現れ続けて最終的に67億本くらい腕の生えた人間が現れ、
どうやらその67億人が世界の総人口であるらしいことが判明する。
するとこの人々はそれぞれに数の違った腕を生やしているわけだから、
間違いなく、それぞれが唯一無二であるということになる。
しかし、実際こうなってしまった場合、いったいどの人間が特別なのか。
確かに、みんなが特別で、みんなが唯一で、
それって本当に素晴らしいことだよね! という気もするが、
でもやっぱり腕が一万本生えてる人と一万一本生えてる人の差なんてよく分からないし、
そんな腕ばっか生えてる人間なんて気持ち悪い。
だいたい、どうやって生活するんだよ。
まあ、限界はせいぜいアシュラマンの6本、といったところだろう。
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逡巡の日々
「生き馬の目を抜く」ってあるじゃないですか。
ほら、「東京は生き馬の目を抜く大都会だ」みたいな。
あれって、ちょっとひどいと思いません?
この間、私、牧場でのんびり草とかはんだりしてたんですけどね、
そしたら家族連れが来るわけですよ。
お父さんとお母さんと五歳くらいのお嬢さんと、きっと観光客でしょうね。
「わー、お馬さんだぁー」
なんて、そんな嬉しそうな顔して駆け寄ってこられたら、
私としてもあんまりぞんざいにはできないじゃないですか。
ホントは子供とかあんまり好きじゃないんですけどね、
一応、今はそれで生活してるわけだし。
「立派なお馬さんだねー」
「かっこいいー」
とか言いながら背中さすられたら、そりゃ満更でもありませんよ。
こう見えても私、昔は競走馬でしたから、
立ち姿にはちょっと自信があるんです。
お父さんは競馬のこと詳しいのか、
「サラブレッドは速く走るためだけに生まれてきたんだよ」
なんて説明してるし、お母さんは「おめめがかわいいねー」なんて言ってるし。
娘さんなんか、もう目をキラキラ輝かせて私を見上げてるわけですよ。
よーし、それならって私も気張っちゃって。
せっかくだからサービスしてあげようと思って、
ちょっと鼻面差し出したのが間違いでしたね。
「ほぁちゃぁッ!!」
って、いきなりですよ。いきなり。
もう、びっくりしたなんてもんじゃありませんよー。
いったい何が起こったのかと思いましたね。
気がついたらお父さんが高々と右手を掲げてて、
「どうだ、生き馬の目を抜いてやったぞ!」
とか勝ち誇ってるワケです。抜いた私の目を摘み上げて。
いやー、あれには参りましたね、実際。
要するに、最初のほのぼのとした雰囲気は全部演技だったってことでしょ。
あのお父さん、最初からそのつもりで私に近づいて来たんですよ。
娘とかお母さんもグルだった。
お母さんの「おめめがわかいいねー」っていうのは伏線だったんです。
そりゃ、私もすっかり油断してましたから、
不意打ちで目ン玉刳り抜かれちゃっても文句は言えません。
「うおおおーっ、抜いてやった、抜いてやったぞー!」
ますます声を張り上げるお父さんはさぞかし得意だったでしょうね。
してやったりと内心ほくそ笑んでいたに違いありません。
もっとも、あの喜びようからすると、
生き馬の目を抜くのは今回が初めてだったのかもしれませんが。
いや、きっとそうです。
あのお父さん、普段は人の良い係長か何かで、
いつもいつも抜かれてばかりいた人なんです。
じっくり温めてきた企画を、あっさり他の人に取られちゃったり。
だから家族の前で良いとこ見せようとして、頑張った。
まあ、それなら仕方ないかって、私は諦めました。
結局、してやられたのは私の方だし。
せっかく悦に浸っているところに水を差すのもどうかなって。
でも、でもですよ。
ちょっと待ってください。
そのとき、ふっと激しい怒りが込み上げてきて堪らなくなったんです。
だって、そうでしょう。
何を今更って思われるかもしれませんけど、
いったい、馬の目なんか抜いてどうしようっていうんです?
私がどうしても納得できないのは、そのあたりなんです。
煮るんですか? 焼くんですか? 食べるんですか?
そんなことしないでしょう。
まったく、人間というのは恐ろしいです。
誰も彼もが生き馬の目を抜くことばかり考えている。
大人も子供も男も女も、
寝ても覚めても生き馬の目を抜くことしか考えていない。
もしもあなたが私のような馬を哀れと思うのなら、
どうかお願いですから、抜かれる方の身にもなってください。
それでも生き馬の目を抜きたいですか?
いやいや、生き馬の目を抜いてるヒマがあったら、
他人を出し抜く方法でも考えていた方がよっぽど有意義ってものですよ。
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はさまれる者再び
「ちょっと、なに暗い顔してるのよ、コタニ。何かヤなことでもあった?」
「あ、ミヤ……うん、ちょっとね。ヤなことっていうか、その……」
「なになに、もしかしてまだあのこと気にしてんの?
 あんたってば、ホント心配性だねー。
 そんなの気にすることないって前にも言ったじゃん。
 どうせみんな気づいてないんだから、あんたもさっさと忘れちゃえばいいのよ」
「うん、それはそうなんだけど、でも……」
「なによー。あんなの別にどってことないでしょ? どうでもいいよ、ホント」
「ど、どうでもよくないよ。ミヤはそうかもしれないけど、私は違うもん。
 だって私、ずーっとずーっと、プリズニャンだと思ってたのに、
 チョッキンガーだったんだよ?
 チョッキンガーだったのに全然気づいてなくて、コタニだからコタニャ!
 とか言ってみんなの前で大はしゃぎしちゃって……私、もう立ち直れないよ」
「あ、ああ。あれは確かに、ちょっと痛々しかったわね」
「ちなみにコタニャっていうのは、三匹目のプリズニャンの名前なんだけどね」
「うん。それは知ってる。でも別にいいじゃん。
 ほら、チョッキンガーだってモンスターはモンスターなんだし、
 プリズニャンと全然違うってことは──」
「全然違うよ!
 しましまキャットとか、ベロニャーゴですらないんだよ?
 どうしてチョッキンガーなの? あり得ないよ、そんなの!」
「そ、それは、まあ、ショックなのはわかるけど……」
「ミヤだって知ってるでしょ?
 他にもかわいいモンスターはいっぱいいるんだよ?
 ファーラットとかモコモコじゅうとかケダモンとか。
 なのに、どうしてよりによってチョッキンガー?
 あんなの全然モンスターじゃないよ。ただの甲殻類だよ……」
「た、ただのってことはないと思うけど……
 でもまあ、確かに甲殻類は甲殻類だよね。エビとか、カニとか──」
「エビならエビラの方がまだよかった。
 カニだってガニラスなら最高だよ。カッコイイもん。
 マッドロブスターとか、地獄のはさみなら最強でしょ?
 でも、チョッキンガーって何? なに、あのカニの化け物。
 何であいつはあんなふてぶてしい顔をしているのよ!」
「それは化け物なんだから仕方ないんじゃ──」
「そもそもあんなの仲間にすらならないじゃない。
 仲間にすらならないヤツが、何を偉そうに靴とか履いてるのよッ!」
「ちょ、ちょっとコタニ。落ち着きなって。
 それを言ったら、ケダモンだって仲間にはならないでしょ?
 エビラもガニラスもマッドロブスターも、海系はほとんど──」
「わかってるよ、そんなこと!
 なにも私はしびれくらげにして欲しいって言ってるんじゃないの。
 そんな高望みができないことくらい、ちゃんとわきまえてる。
 でも、だったらそこはせめてネーレウスでしょう?」
「ネ、ネーレウスって……ちょっとあんた、なに言ってんの?
 まさか、ネーレウスの方がチョッキンガーよりも上だとでも?」
「それはそうだよ。決まってるじゃない。
 ネーレウスはルーラもザオリクも使えるんだから。
 ミヤ、もしかしてネレウス舐めてる?」
「え? べ、別に舐めてはいないけど……でもあれ、ジジイ系だよ?
 もりじじいとかと一緒なんだよ?」
「だから何だっていうのよ。
 もりじじいだって、まほうじじいだって、
 チョッキンガーよりは遥かにマシだよ!」
「は、遥かにってあんた……」
「チョッキンガーに比べたらベロゴンロードの方が全然いい。
 ミヤだってそう思うでしょ?」
「ガメゴンじゃなくて?」
「ベロゴンロード。
 知ってる? ロードって君主とか首領って意味なんだって。
 それってちょっとすごくない? 私は憧れちゃうなー」
「君主は君主でも所詮はベロゴンの君主だけどね。
 キングはキングでもボンバーキングみたいなものだと思うよ」
「ボンバーキングって何よ。
 それを言うならキングばくだん岩でしょう?
 きっとメガンテの威力も半端じゃないよ」
「キングばくだん岩って何よ。
 そんな、キングスライムみたいに言わないでよ。
 あんなの8匹も一画面に納まるわけないじゃない。
 せいぜい5匹が良いところよ」
「それもそうね。私が間違ってた。それは謝るわ。
 でもとにかく私、チョッキンガーだけは嫌なの!
 何があっても絶対にチョッキンガーだけは嫌なのぉーッ!!」
「でも、あんたチョッキンガーだし」
「…………」
「あ、ごめん。別に私、そういうつもりで言ったんじゃ──」
「…………」
「じょ、冗談だって、冗談! コタニ?
 お願いだからそんな泣きそうな顔しないで。
 ほら、大丈夫だよ。元気だしなって。
 チョッキンガーでもコタニはコタニなんだから、何も気にすることない。
 それにまだ誰も気づいてないんだし、平気平気!」
「……チョキチョキ」
「な、なに? 何のつもり?」
「チョッキン、チョッキン……」
「ちょ、ちょっと、コタニ──?」
「……あのね、もしも次回作とかでチョッキンガーが仲間になったら、
 話すコマンドでどんなふうにお喋りするのかなーと思って。チョキチョキ」
「ちょ、ちょっと、よしなよ。マジ哀しいよ、そういうの」
「チョッキンガーはアワを吹いている!」
「だからよしなって!
 次回作もなにも7にしか登場してないじゃない。チョッキンガー。
 絶対みんな忘れてるって。どう考えたって望み薄だよ。
 変に期待しても、あとで辛い思いをするのはあんたなんだから……」
「キンガーはホイミを唱えた。
 ミヤのキズが回復した」
「……もう良いよ、コタニ。
 確かにそんな名前で出てきそうな気もするけどさ、虚しすぎるよ。
 あんたの顔見てたら、何だかこっちまで泣きたくなってきた……」
「なんと チョッキンガーが おきあがり
 なかまに なりたそうに こちらをみている!
 なかまに してあげますか?」
「…………」
「…………」
「………いいえ」

「チョッキンガーは さみしそうに さっていった」
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地球の将来について考える
 
私たちの星、地球──。
この青く美しい星は今、危機に瀕しています。
大気汚染、水質汚染、酸性雨、オゾン層の破壊、温暖化、海面上昇、
森林伐採、砂漠化、生態系の破壊……
これらの環境問題はすべて、
他でもない私たち自身の手によって引き起こされたものです。
とりわけ温暖化は差し迫った問題で、このまま温暖化が進めば、
今世紀の終わり頃には温度が6℃上がり、
海面も80cm上昇すると言われています。
そうなれば、世界中の大半の海岸が消滅し、
農作物だけでなく、生態系にも甚大な被害を及ぼします。
さて、いま死に瀕している地球に対して、
私たち一人一人にできることとはいったい何でしょうか。
今日は地球に生まれたひとつの命として、
この母なる星の将来について、少し皆さんと一緒に考えてみたいと思います。


《街頭インタビュー in 八王子》


Q1.地球温暖化についてどう思いますか?

A.「え、何これ? インタビュー?
  俺、今ちょっと忙しいんだけど……
  なに、答えなきゃ駄目なの?
  3分くらい? マジで?
  これってテレビ? ああ、雑誌? けっこうメジャーなやつ?
  うそ、ほんとに?
  ふーん、じゃあちょっとだけ。ちょっとだけだよ、マジ俺忙しいから」


 (では、あらためて──)

Q1.地球温暖化についてどう思いますか?

A.「あー、アレねー、温暖化ねー。流行ってるよねー、何か。
  どうだろう。
  なんつーかさあー、やっぱさあー、
  みんなちょっと意識低すぎるんじゃね?
  結局、他人事っつーの?
  エコとか言ってもただの流行りだし。
  どうせそのうち飽きちゃうでしょ。
  え? 飽きない?
  そうかなー。それならいいけどさー。でもみんな意識低いから。
  いやまあね、そりゃなかにはいるよ、意識高いヤツも。
  ほらあれ、なんだっけ、エコバッグ?
  持ってる人いるでしょ、スーパーとかで。
  偉いよねー、ああいう人って。
  マイ箸とかペットボトルのリサイクルとか……知ってる?
  けっこう色々あるんだよ、ああいうの。
  でもそういうことしてるのって、結局一部じゃん。
  一部じゃ無理だよー、
  ああいうのってさ、やっぱみんなでやんないと意味ないわけ。
  ゴミ拾いとかもそうだけどさ、
  メシ食うのと同じくらいの気持ちで、フツーにやんないと。
  まあ、要は意識カイカクだよね、意識カイカク。
  もっと普段から地球のこと考えるようにしないと。
  そうそう。
  地球に優しくってやつ。あれスゲーいい言葉。
  でも言ってるだけのヤツ多すぎ。
  じっさい頭くるんだよねー。
  もっと優しくしろっつーの。
  え? 俺?
  俺はしてないよ、そんなの。できるわけないじゃん。
  だって俺、地球だよ?
  いや、ムリムリムリムリ。
  だから、優しくされる側なんだって。



Q2.地球を守るために、あなたには何ができると思いますか?


地球「だからさー、マジインタビューとか意味わかんないだけど。
   どうして俺に聞くかなー、そういうことを。
   まあ強いて言うなら、俺には自転しかできないと思うよ。
   いや、マジで。
   だからもっと優しくしてチョ」

??「ちょっと、何甘ったれたこと言ってんのよ、あんた!」

地球「な、何だよ、急に出てきてびっくりするじゃんかよ」

??「あのねぇ、あんた、
   自分がどれだけ恵まれてるか、わかってないでしょう」

地球「はぁ? 何それ、俺なんか全然恵まれてないじゃん。
   むしろ危機だよ、危機。
   よくわかんないけど、何かすげぇヤバイことになってるから、
   地球に優しくしましょう、ってことになってんでしょ。
   ていうかさ、何お前。誰?」

??「まったく、呆れたオコチャマね、あんた。
   私は火星だけどさ、私がどれだけ不毛か、あんた知らないでしょ。
   もう不毛すぎて、誰も火星に優しくなんて言ってくれないんだよ?
   そりゃ火星に優しくしても見返りなんてないだろうけどさ、
   でも、少しくらいの優しさを見せてくれたっていいじゃない。
   それが人情ってものじゃない。
   それなのに、みんな地球地球って……
   あんただけチヤホヤされすぎなのよ!」

地球「だ、だって、それはしょーがねーじゃん。俺、一応母なる星だし……」

火星「そういうことを平気で言っちゃうところがオコチャマだって言うのよ。
   あんた、そもそも母なる星の自覚なんてないでしょう?
   何か知らないうちに草とか勝手に生えてきて、
   気づいたらちょっと栄えた感じになってるだけじゃない。
   それ、別にあんたが生やしたわけじゃないんだからね」

地球「え、そうなの?」

火星「ほーら、やっぱり。
   そうよ、そうに決まってる。
   たまたまそこに水や土があったら、草とか色々生えてきたのよ。
   そういうのは星の能力とは別問題。
   だいたい、私にだって土と水くらいあるのよ。
   母なる星になれる要素はちゃんと秘めているの。
   ただ、ちょっと寒くて水が全部凍ってるっていうだけで、
   あんたとの差なんて全然ないんだから!」

地球「ちょ、ちょっと待てよ。何でそんなに怒ってんだよ。
   意味わかんねーよ。
   今は地球温暖化のことを話してんだろ?」

火星「ふん、何が温暖化よ。
   こっちは平均温度約−55℃よ。
   最低−133℃から最高27℃、一日の温度差は実に100℃以上もある。
   ……ふふ。
   自分で言うのもなんだけど、ともて生物の住めた星じゃないわね……」

地球「な、なんだよ、なんで急にブルーになってんだよ」

??「ははは、それは文字通り、
   彼女が熱しやすく冷めやすい性質の星だからだよ。
   火星の大気はそのほとんどがCO2からできているが、
   にもかかわらず、地球のような温暖化は生じていない。
   むしろ火星は寒冷化した極寒の惑星だ。何故だと思う?」

地球「知らねーよ。何だよ、お前、誰だよ。
   いきなり出てきて説明がましいヤツだな」

??「ふふふ、私は明けの明星、あるいは宵の明星、
   美の星、またの名をヴィーナス」

地球「ああ、金星ね」

金星「そう、金星だ。またの名をヴィーナスという。
   何やら地球が温暖化で困っていると聞いたものだから、
   こうしてわざわざ駆けつけた次第だ」

地球「駆けつけるなよ。呼んでねーし」

金星「かく言う私も、その大気のほとんどはCO2からできている」

地球「人の話を聞け、おい」

金星「しかし、私の地表の温度は平均400℃。
   火星とは逆に温暖化した灼熱の惑星というわけだ。
   大気の主成分に同じCO2を持ちながらこの違い。
   いったい何故だと思う?」

地球「だから知らねーよ。
   ていうかお前、温暖化っていうレベルじゃねぇぞ、それ」

金星「ふふふ、
   どうやら君は温暖化の原因を単純にCO2の増加と考えているようだが、
   果たしてそれはどうだろうな?
   私と火星との違いからもわかるように、
   ほぼCO2で満たされた大気であっても、灼熱と極寒、
   そこには天と地ほどの差が生じてしまう。
   何故だかわかるかね?」

地球「わかんねー。是非とも教えて頂きてー」

金星「ふはははッ!
   そうだろう、そうだろう。
   その答えはまさに、神のみぞ知る、といったところだからな!」

地球「お前、答え知らねーじゃねーか!」

火星「ふん、何よ馬鹿馬鹿しい。
   黙って聞いていればとんだお笑いぐさね。
   400℃くらいで何が灼熱の惑星よ。
   思い違いもいいところ。
   ちゃんちゃら可笑しくって反吐が出るわ。
   灼熱の星といえば、その表面温度6000℃、
   中心部に至っては15000℃を誇る太陽に勝るものはないでしょうに」

金星「うっ、ううむ。それはまさに文字通り、桁が違うな」

地球「って、馬鹿! 馬鹿だろ、お前ら。
   太陽は惑星じゃない、恒星だ。
   そもそも俺たちとは違う種類の星なんだよ!
   温暖化どうのって問題に引っ張り出すな」

火星「何を言うの? 馬鹿はむしろあんたの方よ。
   太陽こそ、温暖化の最大の要因でしょうが。
   見なさい、太陽があんなにギラギラ輝くものだから、
   一番近くを回っている水星は大変なことになっているのよ?」

水星「……うぅ、……熱い、熱い、ですぅ」

金星「まあ、彼女の場合、大気がほとんどないだけに、
   表面温度は私とたいして変わらないがね」

火星「表面温度の問題じゃないでしょう!
   これは気持ちの問題よ。
   とにかく水星は太陽に一番近い惑星なの。
   体感温度はあんたの千倍は熱いに決まっているわ」

金星「何を馬鹿な。
   私の千倍熱かったら40万℃にもなってしまうではないか。
   太陽の60倍だぞ? そんな惑星などあるわけがない」

水星「……もう……ダメ……わたし、死んで、しまい……ますぅ」

地球「おいおい、水星弱ってんなぁ。大丈夫か?」

金星「何も心配する必要はないぞ、地球よ。
   確かに昼間は450℃にまで達する灼熱地獄の水星だが、
   夜になれば一転、-180℃にまで冷却されるのだからな」

地球「ふうん、そうなのか。
   それはそれで大変そうだけどな。まあいいや。
   とにかく、問題は太陽ってことか?
   太陽のせいで温暖化が進んで、それで人間が困っていると」

火星「そうね。
   何もかも太陽のせい。
   太陽が眩しすぎるから殺人事件も起こる。
   太陽さえなかったら、温暖化なんてまるで問題にならないはずよ」

地球「いや、まあ、そりゃそうなんだろうけどさ。
   でも、だったらやっぱりどうにもできねーじゃんかよ。
   もう太陽にギラギラ輝くのをやめてもらうしかねー」

太陽「す、すまねぇっス。自分、不器用なもんで」

地球「おいおい太陽来ちゃったよ。ヤバクね? これヤバクね?」

太陽「ほんと、すまねっス。自分、調節とか、あんまし上手くできねぇから……」

火星「あら太陽さん、ごきげんよう。
   でも、あなたが気を揉む必要なんて何もないのよ。
   むしろあなたにはもっとギラギラ輝いてもらわなくちゃ。
   そうすれば太陽系もすっかり温かくなって、
   私の表面温度も上昇するかもしれない。
   そうすれば地下の氷が溶けて、きっと草とかもたくさん生えてきて──。
   そうよ、それがいいわ。
   そうなさい、今すぐに!
   そうして地球は水星のようにカラカラに干涸らびるがいいのよ!」

地球「ひ、干涸らびるがいいって……おい、何勝手なこと言ってんだよ!
   そんなの許されるワケねーだろ。人類が許さねーよ。
   だいたいなぁ、お前はさっきから自分のことばっかり──」

金星「まあまあ、落ち着きなさい、二人とも。
   ここで我々が啀み合っても地球温暖化が止められるものではない。
   そもそも温暖化を阻止するために太陽をどうにかしようというのは
   あまりにも極端な発想だ。
   子供の発想だよ、それは。
   仮にも惑星である我々が口にするべき事柄ではない。
   そんな夢物語よりも、
   今はもっと身近にできることを探すべきではないのか?」

太陽「す、すまねぇっス。
   なんか自分、すっかりみんなに迷惑かけちまってるみてぇで……」

水星「……そ、そんなこと、ない、です。
   ……た、太陽さん、……わたし、
   だい、だい、じょうぶ……です、から……」

地球「とても大丈夫そうには見えねーけどな。
   ていうか、もういいから、お前ら帰れよ。
   太陽がどうにもできないんだったらしょうがねーし、
   とりあえず温暖化のことはこっちでどうにかしとくから」

??「おいこら、地球!
   せっかく集まってくれた皆さんに向かって
   そんな言い方は失礼だろう。
   お前の問題は俺たちみんなの問題でもあるんだ。
   ちなみに俺は木星だが。
   あと、土星ほか残りの方々にも来て頂いたからな」

天王星「あ、どうも。天王星です」

海王星「海王星だよーん」

土星「…………」

火星「まあ! さすが木星。気が利くわね」

金星「まさに文字通り、手間が省けたというものだね」

天王星「あのー、私、観光がてらなんですけど、かまわないですか?
    何しろ地球は始めてなもので」

木星「ええ、ええ、かまいませんとも!
   せっかくですから、存分に地球を満喫していってください」

天王星「いやー、そうですかー。
    そう言って頂けると有り難いなぁ」

地球「ああもう! うっとうしい!
   どうしてこうも次から次へと集まってくるんだよ。
   ほっとけよ。木星が地球に用なんかないだろ」

木星「いや、あるね。
   何しろ俺とお前は兄弟みたいなものなのだから」

地球「うそつけ。お前はガス惑星だろうが。このガス!
   その他諸々の連中も、外様はみんなガス惑星なんだよ」

天王星「そうです。私、ガス惑星です」

海王星「僕もガスだよ。木星と土星もガス惑星。
    主成分は水素とかメタンとかヘリウムとかいろいろだよ」

地球「そうだろうが。
   だから兄弟とか軽々しく言うな。
   お前らは兄弟かもしれんが、
   俺とお前らとじゃまるっきり違うんだ。
   わかったなら帰れ、帰れ、このスットコドッコイ!」

火星「お黙りなさい、地球!
   みんなあんたに一言もの申したくて集まってきたのよ。
   私だって常々思っていたことはたくさんある。
   この際だから、はっきり言わせてもらうけど──」

月「きゃー、なになにー、みんな集まっておもしろそー。
  私も混ぜて混ぜて〜」

火星「しゃしゃり出るな、衛星ごときがッ!」

月「やっだーなーにーこのひとコワイ〜
  ちょーカンジ悪いんですけど〜」



Q3.地球に未来はありますか?


火星「ないわね。まったくない。
   将来性ゼロの、能なしの、
   ちびのくたばりぞこないよ、地球なんて星は」

金星「ははは、ずいぶんはっきり言うものだな。
   しかし、地球に未来がないのだとすると、
   我々のような不毛の惑星は目も当てられないぞ?」

火星「ふん、そんなことは百も承知よ。
   悔しいけど地球には他の星にないものがたくさんある。
   草とかいろいろね。それは認めるわ。
   でも、少なくとも、今のままじゃ地球はろくな星にならない。
   それはもう、絶対に間違いのないことなのよ」

金星「ほう。というと、つまり?」

火星「地球に優しく、っていうのが、まずダメよね。
   私はむしろ厳しくするべきだと思う。
   だってそうでしょう?
   甘やかされて育った子供が、立派な大人になれるわけがない」

金星「ふむ。なるほど、一理ある」

木星「そうだよな、地球はちょっと甘やかされすぎだよな」

火星「それにね、優しくというなら、
   もっと優しくするべき相手が他にいるでしょう?」

木星「他に? 他にって……ああッ、あの御方のことか!」

火星「そうよ、あれほど気高く美しかったあの御方が、
   ちょっと他より小さいというだけで
   惑星の仲間から除外されてしまって……」

金星「──プルートゥ。
   冥王星。
   かつて冥府の王とおそれられたあの御方も、
   今や太陽系の遥か片隅でブツクサぼやくばかりだという……」

(冥王星「……ふぅ、この世はよォ〜」)

火星「ああッ! 聞こえたわ。今はっきりと聞こえた。
   あの御方のひどくもの寂しげな、ぼやきが──!!」

金星「確かに、あの御方の扱いに比べると、
   地球の甘やかされぶりというのは、目に余るものがあるな」

火星「そうでしょうとも。
   何かにつけて、地球が、地球が! ……もうウンザリだわ。
   それに地球は優しくされるいっぽうで、
   人類には全然優しくしてあげてないじゃない。
   やれ地震だの、洪水だのといって、
   いつも異常気象で人類を苦しめてばかりいる」

木星「なるほど。言われてみればその通りだ。
   せっかく人間たちが木を植えても、
   地球のヤツはそれをみんなハリケーンで吹き飛ばしちまうんだからな。
   おい地球!
   お前いったいどういうつもりだ!?」

地球「…………」

金星「どうした、何故黙っている?」

地球「あのさぁ、お前ら、なんか間違ってるぞ。
   異常気象起こしてるの、俺じゃねーから。
   環境悪化させてるの人間だから。
   あいつらが悪さするから、酸性雨が降ったり、
   空気が汚れたりして俺がおかしくなっちまってるんじゃねーの?」

木星「おいなんだ、きさま、その態度は。
   まさか自分は無関係だとでも言うつもりか?」

地球「いや、無関係とは言わないけどさ。
   でもある意味、不可抗力の部分はあるわけよ。
   ていうかぶっちゃけ、
   俺、温暖化してもあんまカンケーねーしな」

木星「な──」

地球「だってさぁ、
   俺が生まれた頃なんてもっと大変なことになってたんだぜ?
   マグマとかドロドロでハンパねー熱さだったし。
   それに比べたら今の温暖化なんて大したことないっしょ。
   つーか、温暖化で困ってるのって人間だけで、
   俺、実はそんなに困ってねー、なんてね」

一同「…………」
  「…………」
  「…………」

(冥王星「あ〜、ゲーム買いて〜」)

地球「え? 何? 俺何かまずいこと言った?」

火星「サイテーね」

木星「最低だな」

金星「地球よ、君は今、言ってはならないことを言ってしまったのだ。
   自分は困らないから地上のことなどどうでもいい、
   というのでは、用を足した後に手を洗わない輩と一緒ではないか。
   君は愛という言葉を知らないのか?」

地球「は? 何? ちょ、マジ意味わかんねーんだけど?」

木星「もうよそう。
   こんなヤツのために、俺たちが頭を抱えるなんて馬鹿げてる」

火星「そうね、ここまで馬鹿だとは思わなかった。
   もう救いようがない。完全に見損なったわ」

地球「ちょ、ちょっと待てよ! なんだよそれ、ふざけんなよ!
   てめーらだけ好き勝手言っておいて、
   俺がちょっと本音言ったら──」

火星「甘ったれるんじゃないわよ!
   私たちがどういう気持ちであんたのことを見守っていたか、
   あんたは少しでも考えてみたことがあるの!?」

地球「ど、どういう気持ちでって、そんなの……」

火星「そりゃあんたはね、
   何もしなくたってチヤホヤされてるんだから気づかないでしょうよ。
   水もある、土もある、酸素もある、
   他の惑星とじゃ比較にならないバランスの良さよ。
   でも──!
   私だって、本当は育みたいのよッ、草とかいろいろ!」

水星「……は……はぐ、はぐ……はぐくみ、たい、ですぅ……」

地球「すっ、水星? ……まだいたのか」

金星「そうだ、地球よ。
   本当は我々だって育みたいのだ。
   育んで育んで、育み抜いて、
   そうしてゆくゆくは優しくしてもらいたい」

木星「でも、極寒の惑星や、灼熱の惑星、ましてガス惑星なんかじゃ、
   とてもお前のように育むことなんてできやしない」

火星「そうよ。正直に言うわ。
   私はあんたが羨ましい。
   草とかいっぱい育んで、牛とかいっぱい歩き回らせて……
   ……育ませてよ……私にももっと、育ませてよッ!」

地球「か、火星──」

金星「わかったかい、地球。
   君は素晴らしいものを育んだ。
   それは命だ。
   人類は愚かにも、今まで母であるお前を傷つけ続けてきたが、
   今はようやくその愚かさに気づいて、エコバッグを持つなどしている。
   実は自分たちのことなど、
   地球はまったく気にしていないことにも気づいているが、
   それでも地球に優しくと言ってくれているのだ。
   健気なものじゃないか。
   地球よ、それでもお前はまだ、
   人類なんてどうでもいい、と言うことができるのかね?」

地球「……い、言えねぇ。俺には言えねぇ、そんなこと……」

木星「そうだろうとも。
   よくやくわかってくれたようだな、地球。
   兄は嬉しいぞ。
   だったら、お前はこれから人類に──
   いや、お前が育んできた者ども全部に対してだ。
   お前はもっと優しくしてやらなくちゃいけない。
   どんなに腹が立ってもハリケーンなんぞ起こさず、
   心を込めて、もっとゆっくりと自転することだ」

火星「そうね。
   そうすれば一日が30時間くらいになって、
   忙しい人類に余暇をもたらしてあげることができるかもしれない」

金星「まさに文字通り。
   我々にも、人類にも、
   今、最も必要なのは余暇なのだから」

地球「…………」

天王星「あのー、お取り込み中のところ申し訳ないんだけど、
    私、そろそろ帰らないといけない時間なんで」

海王星「僕ももう帰るよー」

火星「ああ、いけない。もうこんな時間。
   いつまでもこうしているわけにはいかないわね。
   それじゃ、土星さん、
   さっきからずっと何か言いたそうにしているようだから、
   最後にあなたの意見を聞きたいわ」

金星「そうだね、是非お願いしますよ、土星さん」



Q4.人類はどこから来て、どこへ行くのですか?



──了
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