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2014/11/8 更新してないねぇー ねたはあるんだけどね
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夏の魔物
 
ネットの力はすごいものだ。
ネットがなければ出会うはずもなかった人間同士が、今こうして会おうとしているのだから。
良い時代に生きることができてよかった。
そんな幸せを噛み締めつつ、
まだ顔も名前も知らないその女の子を迎えに行くため、僕は車を走らせている。
 
ネットで知り合った子と会う、という事自体は初めてではない。それに僕ももういい大人だ。
だからというわけでもないけれど、今回はそれほど緊張していない。
気心の知れた友達と会う感覚と変わらない、比較的リラックスした気持ちだ。
僕と、これから会う子が今後どうなるのか・・・などという事を考えるのは抜きにして、
今日一日を楽しむことができれば、それでいい。
 
それにしても、まだ午前中だというのに、30度を軽く超えているようだ。
相変わらず厳しい暑さが続いている。
こんな日に、屋外を待ち合わせ場所にしてしまったのは失敗だ。
彼女を待たせるわけにはいかない。
 
 
 
駅近くのコインパーキングに車を停め、駅前広場に急ぐ。
銀色のクネクネした物体がクルクル回る、意味不明なオブジェ。
その傍らにある、オブジェのタイトルが掘られているプレートの真ん前が待ち合わせ場所。
 
一人の女性が、日傘もささず、帽子もかぶらずに立っていた。
それが彼女であることはすぐにわかった。
薄い緑を基調としたブラウスとスカートで来てくれる事になっていたし、
何よりこんな真夏の、日差しの強い場所にぽつんと立っている人など他にいなかったからだ。
お互いが見つけられない時のために、事前にメールアドレスだけは交換しておいたのだが、
その必要もなかったようだ。
 
彼女の元まで真っ直ぐ歩いて行く。
彼女がこちらを振り向く。
たまらない瞬間だ。
 
「こんにちは。えっと・・・」
 
こういう時、いつも一瞬ためらってしまう。
ネットでのハンドルネームで話しかけるのが照れ臭いからだ。
 
「あ、はじめまして。すらりんです。類二さんですか?」
「類二です。どうもはじめまして、すらりんさん」
 
お互い、照れたような笑いで最初の挨拶を交わす。
彼女のほうから名乗ってくれたので、
助かったけれど、少し情けない気持ちになる。
 
すらりんと名乗ったその女性は、細めの体型で色白、
身長は僕よりわずかに低い程度。
目鼻立ちがくっきりした、とてもきれいな女の子だ。
髪はやや無造作に後ろで縛ってあるけれど、
おろせばきっとサラサラのストレートに違いない。
お嬢様系という表現が似合う、大人の女性の雰囲気だ。
正直、予想以上でびっくりした。
 
彼女の目に、僕の事はどう映っているのだろう。
僕は特別男前でもなく、背が高いわけでもないし、
普通に考えたら僕とすらりんは不釣合いかもしれない。
 
いや、そこはあまり深く考えてもいけない。
今日は、ネットで意気投合した二人が、実際会ってみてちょっと遊びに行く。
それだけの事のはずだ。
 
そんな事を考えていると、すらりんはホッとしたような表情を浮かべた。
そして、
「ああ、よかった・・・」
と小さな声でつぶやいた。
 
「え?」
「あ、ごめんなさい。とてもいい人そうなので、安心しました。怖い人だったらどうしようかと思って」
 
そう言いながら、小さなバッグから何かを取り出す仕草。
僕の見た目が彼女の期待より上だったのかどうかはともかく、
ひとまず安心してくれたみたいなので、こちらとしても一安心だ。
 
「では。はい。これ。どうぞ」
「ん?何これ」
 
両腕を真っすぐ伸ばして、小さく折りたたんだ紙片を僕に差し出した。
 
「車に乗ったら開けて見てみてくださいね」
「うん。わかった。それにしても暑い。すらりんさん、早く車のところまで乗ろう」
「はい。あ、私、加藤真紀って言います。すらりんだと恥ずかしいから、名前で呼んでもらっていいですか?真紀でいいです」
 
あっさり本名を教えてくれた。正直、とても助かる。
加藤真紀・・・意外と普通の名前だな、などと失礼な事を思いつつ、
僕も本名を伝え、一緒に車まで歩き出す。
 
それにしても、こんな炎天下で待っていたというのに、この子は汗ひとつかいていない。
美人の体というものはどういうメカニズムになっているのだろう。
 
「ごめんね。あんな所で待たせちゃって。日傘も帽子もなしで、暑かったでしょう?」
「来たばっかりだったから大丈夫ですよ。あそこに決めたの私だし。ちょっと『しまったー』っておもったけど。あはは」
 
いい笑顔。
 
「それに私、帽子似合わないんですよねー。日傘は荷物になるし」
「えー?そうかな。真紀ちゃん、麦わら帽子とか、すごく似合いそうだけどな」
「麦わら帽子って、結構恥ずかしいんですよー。まあ今日は日焼け止めバッチリなんで、問題なしですよ」

そういうものなのか。
確かに、あまり街中では麦わら帽子を見かけないような気もする。


 
ほんのわずかの間停めていただけなのに、車のドアを開けると熱気が凄かった。
それをあまり気にする事無く、
彼女は後部座席にハンドバッグを置き、おもむろに運転席に乗り込んだ。
 
「じゃあ失礼しまーす。あ、鍵を」
「はい。鍵」

僕も助手席に乗り込む。
 
「シートベルトしましたか? ではでは、出発しますよー」
「オッケー!」
「あー運転するの久しぶりだから緊張する。どこかつかまってたほうがいいかもですよ」
 
そう言いながらも、彼女の運転は発進も加速もスムーズだ。
ちょっとブレーキが多かったけれど、安心して乗っていられそうだ。
サンダルを脱ぎ、座席を一番前までスライドさせて、
窮屈そうに運転する姿が、見ていて微笑ましかった。
 
目指すは、郊外にある遊園地。一時間程度で到着するだろう。
電車で行くほうが早いのかもしれないけれど、
ドライブも楽しみたいという彼女の希望だ。
 
「今日は本当に楽しみだったんですよ。遊園地なんて行くの、ほんと久しぶりかも」
「そうなんだ。真紀ちゃん、絶叫系の乗り物とか大丈夫なほう?」
「全然大丈夫ですよ!類二さんこそ大丈夫ですか?」
「もちろん、大丈夫だよ!」



僕と彼女がそもそも知り合ったきっかけは、ゲーム関連のとあるコミュニティサイト。
ドラクエの話題で盛り上がったのが始まりである。
何度もメッセージをやりとりしているうちに意気投合し、
今度一回会ってみようかという話になった。それが今日実現したのである。

彼女の『すらりん』というハンドルネームは、
ドラクエに出てくるモンスター、スライムから取ったもの。
僕のハンドルネームが、マリオの双子の弟から取っている事も、
当然彼女は知っている。
 
「それにしても、本当に緑の入った服を着てきてくれて、嬉しいよ。すごく似合うね」
「類二さん、緑色が好きだって何回も言ってましたからねー。ふふ」
 
僕の好みに合わせてくれたわけである。男としてはものすごく嬉しい事だ。
そしてこの子には、緑が本当によく似合う。
 
「じゃあ真紀ちゃん、次会う時は、スライムの水色で揃えるのはどうかな?」
「あー。それいいですね。でも私だけじゃつまんないから、類二さんの格好も何かコンセプト考えなきゃ。マリオ風とか」
「えええっ!それは勘弁してよ」
「ふっふ。じゃあ次会う時までにちゃんと考えときますね」
 
会ったばかりなのに、もう次に会う時の事を話題にしてしまって、
内心失敗したかと思ったけれど、彼女の反応は悪くなかった。
いや、悪くないどころか、なかなかいい感じかもしれない。
ネットのままの雰囲気だし、違和感がまるでない。
初めて対面したとは思えないほどである。
 
それからしばらくは、ネットで交わしたやりとりを再現するかのような会話。
 
「やっぱりドラクエは3が一番いいですよね!私、スーファミのしかやったことないですけど」
「3も確かに名作だけど、俺は5が好きだなあ!スライムベホマズンを仲間にできるのがいいんだよ」
「あ!緑のおっきいスライムですね!」
「そう!緑の!」
「じゃあ、スライムつむりとか好きですか?」
「もちろん!」
「ああ、こんなマニアックな会話、ネット以外では初めて!」
「まだまだ全然マニアックじゃないだろー!」

コミュニティに参加したきっかけ、
好きなゲームのキャラクターやモンスター、
印象に残ったシナリオやイベント等々。
やはり自然と、そういう話になる。話題には事欠かない。
 
「でもやっぱりスライムの可愛さにはかなわないですよ」
「スライムかぁ。あいつ弱いしなぁ」
「そこがいいんじゃないですか。ペットにしたいくらいです」
「でも動物じゃなくて、モンスターなんだよ? 実は怖いかもよー」
「大丈夫ですよ。いいスライムもいっぱいいるじゃないですか」
「なんかゼリーみたいにプルプルしてるしさ、食べたら美味しそうじゃない?」
「やめてくださいよー!」
「あはははは!」
 
車で行くことにして良かったと思った。
気兼ねなく話ができるし、大きな声で笑うこともできる。
 
「そういえば私、マリオってちゃんとクリアしたことないんですよ。あれ後半むずかしくないですか?」
「難しいよね。俺いつも無限1UPとかして、ようやくクリアしてるよ」
「私それうまくできないんですよねー。昔はよく弟にやってもらってマリオ増やしましたけど、すぐなくなっちゃったりして」
「ああ、弟がいるんだ」
「はい。弟と私の二人姉弟です」
「俺も弟がいるけど、昔はよく対戦ゲームとかやってたよ」
「類二さんも二人兄弟なんですか?」
「そうだよ。もう今は一緒にゲームなんてやらないけどね」
「そうですよねー」
 
彼女は見た目はお嬢様系に分類できるけれど、天然の、とか世間知らずの、とか、
そういう接頭辞はつかないタイプだ。
頭の回転は早そうだし、話し方もハキハキしている、と感じた。
天然入ってるくらいの子がいい、とか、不思議系が好きだ、なんて男もいるけれど、
やっぱりこういう子のほうが話をしていて楽しいものだ。
 
こんな子が、家で一人でゲームをやっている姿が想像しづらい。
その事をそれとなく伝えてみる。
 
「もちろん、ショッピングとかも好きですけど、やっぱりゲームを始めるとハマっちゃいますねー」
「そうなんだ」
「外で遊ぶよりは、家にいるほうが好きかもです」
「女の子にしては珍しいタイプだよね」
「一人でゲームしながら『えいっ』とか『やぁっ』とか声出ちゃってたりするし!」
「へえ!その姿、一度見てみたいぞ!」
「イヤですよう!恥ずかしい」
 
いつまででも、話していられる。
車に乗ってからずっと、しゃべりっぱなし。
趣味だけでなく、会話の波長も合っている感じだ。いい雰囲気。
 
そうこうしているうち、ふとある事を思い出した。
 
「そういえば、最初にもらった紙、見ていい?」
「あ、はい。どうぞ見てください」
 
見てみると、そこには彼女の本名から携帯、自宅の電話番号をはじめ、
住所、血液型や生年月日、趣味特技などなど、
彼女に関する細かなプロフィールが小さな字でびっしりと書かれていた。
 
「これ・・・?」
「私、連絡先とかプライベートな情報とかを教えたりするまでの駆け引き?みたいなのが苦手なんですよ。なんていうかその、空気感みたいなのが」
「ああ。なんかわかる気がする」
「だからもういっその事、最初から全部教えちゃおうと思って。類二さん、絶対いい人だと思ったから、大丈夫って思って。だから私も、類二さんの事、色々教えて欲しいです」
「うん。もちろん」
 
即答する。素直に嬉しい。
こんな清々しい性格の持ち主だとは思わなかった。
とてもありがたい。
この紙は、大事に財布にしまっておく。
 
「なんか・・・ありがとう」
「いえいえ。どういたしまして。あはは。変な感じ」
「確かに」
 
しばらく笑い合う。
これは客観的に見ても、
ある程度僕と友達以上として付き合っていく意志があるとしか思えない。
彼女の誠意に応えなければ。
 
「あ、でも、別に私、何かに焦ってたりとかしてるわけじゃないですからね!あの、最初の段階でお互いの心を探り合うのが好きじゃないっていうか、モヤモヤした感じがだめなだけっていうか」
「うん。わかるわかる。俺もそういうの得意じゃないから、そう言ってくれてすごく嬉しいよ」
「うー。なんかやっぱりうまく言えないですね。ちょっとこんな事するの初めてだったんですけど。あんまり重く受け止めないで欲しいっていうか、あの、お気になさらずに」
 
片手がハンドルから離れて、意味不明な手振り。
何か慌てている様子が、見ていてとてもかわいい。
 
「大丈夫だよ。いや、本当にありがとう」
 
また、しばらく笑う。
 
それにしても、彼女の言う「何かに焦ってるわけじゃない」の「何か」って何だろう。
結婚とか、そういう事だろうか。
焦っているわけではないと言うからには、気にしなくても良いのだろうけど。
さっき手渡された紙に書いてあった、彼女の年齢と生年月日を思い出す。
24歳。そして、来月には誕生日。
それ以上の事を考えるのはやめる。
 
一瞬の間ができる。
出会ってから、たぶん初めての沈黙。
 
車に乗ってから、そろそろ一時間。
遊園地の観覧車が見え始めてくる。
 
平日だからか、渋滞もなく、あっという間にここまできた。
遊園地以外には、これといって何もなさそうな、少し寂しい場所だ。
目的地はすぐそこだ。
 
間が、一瞬以上に伸びていく。
 
ジェットコースターのレールも見えてきた。
 
彼女は今、何を考えているのだろう。
あまり間が開きすぎてはいけない。
 
「あの!」
 
今日一番の大きい声。
少しびっくりしたけれど、落ち着いている素振りで彼女の横顔を見る。
 
「どうしたの?」
 
彼女もちらっと僕の方を見て、こう言った。
 
「私・・・なんで運転してるんでしょうか・・・?」
 
今さら!?
僕は思わず吹き出してしまった。
 
「さあ・・・何でだろう?真紀ちゃんが運転席に座る流れがあまりにナチュラルで自然すぎたから、何も言わなかったけど!」
「ですよね!何で私、初めてのデートでいきなり自然に運転席に座っちゃったんだろう!ありえない!」
「さすがに最初は俺も疑問に思ったけどさ、真紀ちゃんが言ってた『ドライブがしたい』っていうのは、『運転がしたい』っていう意味だったのかって思って俺も助手席に座ったんだよ!」
「もー!疑問に思ったなら言ってくださいよー!」
「あまりにも普通に『鍵を!』とか言うし!」
「もうやだー!恥ずかしい!買い物行く奥さんじゃないんだから!」
「どうする?今さらだけど、運転代わる?もうちょっとで着きそうだけど」
「代わる代わる!代わります!!」
「わかったよ!じゃあ、どこかで車、停めて」
「はい!」
 
大笑いしてしまった。
やはりどこか天然なところがあるのだろうか、この子は。
自分が運転している不自然さに今頃気づくなんて、大したものだ。
この車にはナビがついていないし、僕もほとんどナビゲートをしていないのに、
標識を見て「こっちですねー」などと言いながら、
ほぼ目的地というところまで来てしまったのだから感心する。
 
そして、密かに幸せを噛み締める。
彼女の口から「初めてのデート」なんていう、
嬉しいワードが飛び出してきたからだ。
これはやっぱりデートってことでいいんだな、と再認識。
 
「どこでもいいから、適当に停めてくれればいいよ!」
「はい!ああどうしよう。今急に止めるの怖いし、ちょっとその辺の脇道に入って・・・」
 
急に動揺したのか、運転がぎこちなくなった。
本当に、「ついうっかり」運転席に座ってしまったんだな、と思った。
 
大通りから逸れて脇道に入った。
しかし運が悪いことに、起伏が激しい上に道幅が狭く、カーブも多いためか、
なかなか車を止められないでいる。
少しでも長くこの状況を楽しみたかった僕は、特に何も言わずにいた。
彼女は、少し慌てているようだ。
 
「あああ全然止められないですよこの道!もうだいぶ来ちゃいました?て言うかもうUターンもできないし!」
「別に大丈夫だよ。時間が決まってるわけじゃないし、後ろに車がついてるわけでもないから、のんびり停められるとこ探せばいいよ」
「えええええ。なんか山道みたいな感じになってきちゃいましたよ!」
「大丈夫大丈夫。慌てない慌てない」
「ああーはやく運転代わりたいーー!!」
「あははは!」
 
郊外ともなると、国道から少しでも逸れてしまえば、とたんに田舎道。
遊園地からそれほど離れているわけではないのに、周囲はすでに森のようだ。
木々に囲まれてしまって、観覧車もジェットコースターも見えない。

それから5分も走った頃。
急カーブの頂点が大きく膨らんでいて、
そこに車を停められそうな未舗装のスペースを発見した。

「あっあそこ!道路脇に一台分くらい停められそうなスペースがあるよ」
「本当だ!ここに停めます!」
 
なんとか、そこに無事に車を停めることができた。
本当に山道に入り込んでしまったらしい。真夏の陽の光が木々に遮られて、こんな時間なのに少し薄暗い。


 
エンジンを止めて、ほっと一息。
 
「すみません。こんな変な所まで来ちゃって。あああ怖かった」
「怖かった?俺はちょっと楽しかったよ!」
「あ!いじわるですねー!こっちは必死だったのに!」
「ごめんごめん!でも、駅からずっと運転してたのに、急に怖くなっちゃったの?」
「怖くなりましたよう。『初対面の男の人を助手席に乗せて、しかもその人の車を運転してるなんて絶対変だこの状況!』って思ったら何か急に手が震えちゃって!」
「確かに、最初から俺が運転するべきだったね。本当にごめん」
 
彼女も笑っているので、怒っているわけではなさそうだ。たぶん。
でも、その額には、うっすらと汗がにじんでいるように見えた。

初めて見る汗。
 
手で顔を仰ぐ仕草。
 
「あああ暑い!すっごい汗かいちゃった!ハンカチ!」
「あっ。取ってあげるよ」
 
二人が同時に身を乗り出して、後部座席に置いてあるハンドバッグを取ろうとした。
 
不意に、二人の顔が近づく。
 
はっとして、二人が同時に、動きを止める。
 
見つめあう形になった。
 
なぜか、動けない。
 
急激に気温が上がる車内。
自分も汗をかき始めていることに気づく。
 
お互い少し無理な体勢だから、食い込むシートベルトが気になってしょうがない。
 
どうせ運転を交代するのだから、一旦車から降りればいいのに・・・。
なのに、まだ二人とも、シートベルトをしたままじゃないか。
 
いや、今は汗だとかシートベルトだとか、気にしている場合ではない。
 
目の前に、彼女の顔が迫っているのだ。
お互いが少しずつ頷くようにするだけで、額が触れるくらいの距離なのだ。
 
もしかして、今、僕が少し勇気を出せば・・・?
 
いや。
いやいや。
それはいくらなんでも、おかしな話だ。
ネットでは仲がよくても、実際に会うのは今日が初めてなのだ。
ネットで交わしたやりとりも、今日ここまで盛り上がったのも、ゲームの話ばかり。
お互いのプライベートに踏み込んだ話など、ほとんどしていない。
性格だって、よくわかっていない。
だいたい、まだ目的地にすら着いていない。
僕はともかく、まだ彼女が僕を好きになる要素など、どこにもないはず。
こんな時にキスなど迫っていいはずがない。
 
では、この状況で、僕はどうするべきなのだ?
 
汗が流れる感触で、少し我に返る。
 
シートベルトが食い込む。

彼女の口元が、少し動いたような気がした。
 
何か声を出そうとしたけれど、なぜか出なかった。
喉がカラカラだった。
駅で出会ってから、飲み物も用意しないでここまで来たことを、今さらながら激しく後悔した。
きっと彼女も、喉が渇いて仕方がないだろう。失礼な事をしてしまった。
 
もう一滴、汗が流れる。

彼女は今、何を思っているのだろう。

どうしても、動けない。
 
珍しく、この辺鄙な道を車が通り過ぎる音。
 
その音が聞こえなくなりそうな時、
ずっと見つめ合っていた彼女の目が閉じた。
 
あ、と思う間もなく、僕と彼女の唇が触れ、そして離れた。

ようやく解き放たれた。
 
とても長い時間に感じられた。
一瞬の出来事だったのだろうか?
もしかしたら、本当に長い時間、ずっと見つめ合っていたのかもしれない。
 
頭が空になって、何も考えられない。
 
何で、こんな事になったんだ?
早く、遊園地に行かないと・・・。
そういえば、何をしに行くんだっけ。
ゲームの話で意気投合した二人の、最初のデートが遊園地でいいのかな。
ああ、暑いな・・・。何でこんなに暑いんだ。
落ち着け。汗を拭かないと。


 
「私は準備OKですよ!」
 
気がつくと、いつの間にか運転席はぽっかり空いていて、彼女は後部座席に座っていた。
 
「せっかく動けるようにしてあげたのに、類二さん固まったままなんだもん」
「あ・・・ごめんごめん」
 
今度こそ、本当に我に返った。
 
「早くエンジンかけてください。暑いですよう」
「あ、そうだね。ごめん」
「なんかさっきから、謝ってばっかりですねー」

意地悪そうな言い方。
なぜかその顔つきが、今日一番のかわいさに思えた。
 
「あ、そうかな?」

『あ』が多くなっている。馬鹿みたいだから、やめないと。
 
いったん、助手席から降りる。
外は、ものすごい音量の蝉時雨。全然気付かなかった。
運転席に乗り込み、エンジンをかける。エアコンが全力で作動する音。
彼女は、後部座席に座ったままだ。
 
「前に来なくていいの?」
「いいです」
「えー。なんで?」
「・・・。恥ずかしいから!」
 
バックミラー越しに、彼女を見た。
目が合った。
彼女は、にっこりと笑ってくれた。
 
「じゃあ、出発するよ!」
「ちょっと待ってください。喉かわいてません?」
「かわいてるよ。もうカラカラ」
「じゃあ、はい。これどうぞ。冷たい麦茶ですよ」
 
後ろから手を伸ばして、マグボトルを差し出してくれた。
彼女は自分の飲み物を持参してきていたのだ。
 
「ああ・・・ありがとう。でもいいや。その辺のコンビニで、なにか買うよ」
「えーそうですか?今だけでも、飲めばいいのに」
「だって・・・恥ずかしいから!」
「何でー!??」
 
二人して、なぜか今日一番の大笑い。
 
ちょっと微妙な空気を、吹き飛ばすかのような笑いだった。


 
遊園地へ向けて、再び車を走らせる。

もし、僕達がもっと仲良くなって、長い付き合いになっていったとしたら、
いつか、今の出来事を一緒に振り返りたい。
あの時、どんな気持ちだったの?
何を考えていたの?
なぜ、あの時・・・。
 
お互い、今の出来事で頭がいっぱいなのだろう。
再出発してからは、会話らしい会話もなかった。

程なくしてようやく目的地に到着。
駐車場に車を停めた。
 
遊園地の入り口の手前に、丁度良くコンビニがあったので、入ることにする。
 
「遊園地の中は飲み物高いからねー!ここで何か買ってくよ」
「私も行きまーす」
 
このコンビニは、遊園地に直結した駅からも近いためか、客は多かった。
レジに少し並んで、ペットボトルのお茶を買った。
彼女は、僕の知らないお菓子を買っていた。新商品だと言って喜んでいた。
 
コンビニの脇に、灰皿が設置されていた。
 
「タバコ吸うけど、いい?」
「いいですよ」
 
僕がタバコを吸う事は、了解済みである。
火を点けて、一服。煙を吐き出す。
これで、彼女と合う直前の、
リラックスした気分に戻ることができた・・・ような気がする。
タバコの力は偉大だ。
 
あいかわらず暑いのに、
彼女は僕の隣で、黙ってタバコを吸い終わるのを待ってくれている。
煙が少し、彼女のほうへ流れてしまう。
申し訳ない気持ちになる。
 
少し目線を上げれば、遊園地の観覧車。
悲鳴がここまで聞こえてきそうなジェットコースターのコースも見える。

遊園地に直結した駅に到着する電車。
流れてくる人の数はまばらだ。

 
 
タバコの火を消す。
じゃあ、行こうか。そう言おうとしたその時。
 
「あの!私、帰ります!電車で!」
 
え??
今、何て・・・。
 
この時の僕の顔は、ひどい間抜け面だったに違いない。
 
「えっ!何で?」
 
そう言うのが、精一杯だった。
 
「なんか今日私、スカートだし!」
 
思いもよらないことを言う。
 
確かに、スカートでは遊園地を目一杯楽しめないかもしれない。
でも、なぜ今さら?
わかっててその格好をしてくれたんじゃ・・・。
じゃなかったら、別に遊園地にこだわらないで、このままドライブを続けても・・・。
 
いや、たぶん、そういう問題ではないのだろう。そんな気がする。
何と言えば良いのかわからない。
 
「ごめんなさい!でも別に嫌いになったりしたわけじゃないですから!」
「いやいや、それにしても急すぎない?どういう事?」
「今日は本当に楽しかったです!また絶対会ってください!」
「ちょっと待って!何が何だかわからないよ」
「私、類二さんの事好きですから!もう一回キスしたらわかってくれますか?」
「そういう問題じゃなくてさ!いや、もちろん俺だって真紀ちゃんの事好きだけど」
「本当ですか?ありがとうございます!よかった!」
「だから気を取り直して、遊園地が嫌なら別の場所でも・・・」
「いえ、やっぱり今日は帰ります!本当にありがとうございました!また週末にでも会ってください!!」
 
そう言い切ると、彼女は振り返らずに、微妙な駆け足で駅に向かっていった。
 
追いかけることはできなかった。
 
訳が分からなかったが、彼女がいなくなってしまったのは事実だ。
あっという間の出来事だった。
 
こんな所で一人、どうしたらいい?
わからないので、とりあえずもう一本タバコを吸う。
買ったばかりのお茶を、一気に飲み干した。
 

 
まだ昼前なのに、遊園地の駐車場から出る。
高い駐車料金だった。
 
あてもなく、走り始める。
カーステレオを、今日初めてつける。
 
思考に前後関係がないまま、脈絡なく色々な考えが頭をよぎる。
とにかく頭が勝手にいろいろな事を次から次へと考える。
 
僕と彼女が今日初めて会って、お互いの体が触れ合ったのは唇だけ。
奇跡のような出来事だった。

それなのにあっさり、彼女はいなくなってしまった。
これが、女心というやつか?
今日という日の終わり方として、これでいいのか?

気にする必要もないのかもしれない。
あの子はそういう子・・・なのかもしれない。
 
彼女は、僕の事を好きになってくれた。その事に嘘は無いように思える。
週末になれば、きっとまた会うことができるだろう。
 
だいたい、彼女が僕を好きになってくれた理由がよくわからない。
フィーリングとか、そういうものか?
それこそ、今考えたって分かるものか。
俺だって、理由がわからないまま彼女を好きになってしまったのだから、
同じようなものだけど。
 
結局、今日はずっと彼女に主導権を握られたままだった。
 
・・・やっぱり、追いかけるべきか?
彼女が乗り継ぐ駅まで、車で飛ばして間に合うだろうか。
いや、間に合うわけがない。
 
さいわい、彼女の電話番号は教えてもらっているから、
夜にでも電話してみるか?
 
にしてもなぜ、急に帰るなどと言い出したのだ?
案外、本当にスカートが気になっただけなのだろうか?
タバコを吸ったのがまずかったのか?
 
今頃、彼女は電車の中だろうか?
今のうち、メールくらいはするべきか?
もしかしたら、彼女のほうから僕にメールしてくれている可能性もある。
携帯、どこに置いたっけ・・・
 
思い出せない。
 
今の僕は、放心状態なのか?
考えているようで、何も考えていないのかもしれない。
 
ああ、やっぱりそうだ。
なぜなら、道に迷ってしまったからだ。


 
知っている国道まで出てしまえば問題ないが、今自分がどこを走っているのか、見当もつかない。
一体、どれくらいの時間、走っていたのかもわからない。
 
困った。
どうしたものか・・・。
 
一人の中年女性が、道を歩いていた。
この人に聞いてみるか。
ハザードを出し、路肩に車を寄せる。
窓を開け、声をかける。
 
「あのーすいません!国道へ出るには、どう行けばいいかわかりますか?」
 
女性は笑顔で応じてくれた。
 
「ああ、この道もうちょっと行ったら右に曲がっておけば、しばらくしたらすんごく広い道に出ると思うんだけどねぇ。それがなんて言う名前の道路だったかはわからんねぇ」
 
「ありがとうございます!」
 
広い道に出れば、ある程度見当がつくだろう。
 
「それよりあなた!」
「はい?」
「私と踊りませんか?」
「え?」
「夢の中へ、夢の中へ、行ってみたいと思いませんか?」
「はい」
「うふっふー」
 
ここで目が覚めたので、夢終了。
ああ、(正規ルートの)夢の続きが見たい。
comments(1)
iの悲劇
 「ご主人様、私はもうダメです」

どうしたんだね。急にあらたまって。

「もう、役目を果たすことが叶いません。私の事など、捨ててください」

何を言っているんだ。そんな事を言うんじゃない。

「そして、どうか、別のパートナーと、幸せに・・・」

それは一方的というものだよ。僕にはまだまだ君が必要なんだ。

「さようなら、ご主人様。今まで長い間、本当に、ありがとうございました・・・」

おい!しっかりしろ!

「・・・」

目を覚ますんだ!何か言ってくれ!おい!!

「・・・」

・・・。
・・・。
ククク。
クックックッ。
クックックックックックッ。
フハハハハハハハ。
フハハハハハハハハハハハハハハ!
ついに!ついに壊れよったわ!
この、しぶといPHS端末め!

俺様はなぁ、ずっとスマートフォンが欲しかったんだっつーの!!
アンドロイドが使いたかったんだっつーの!!
これでようやく乗り換えられるわい!
ウィルコムのPHSともおさらばだ!!
さようならウィルコム。あんたに罪はないがね!
いや、ウィルコムはウィルコムで安くて色々と助かったが、やはり俺様も男!!
高機能通信ガジェットに手を出したいのだよ!!
というわけで、こんにちはドコモ!!これからお世話になるよ!!
やべーどうしよう!!何買おう!!
Xperiaは標準的なスペックで使いやすそうだし、
MEDIASはあの薄さが魅力的だし、
Galaxyは超絶高性能だし、どれも捨てがたい!!

いやいや、浮かれるのはまだ早い!
如何にして嫁を説得するか!
当然ながら、嫁も俺様と同じウィルコムユーザなわけだが、
その嫁をうまく説得できなければ、
俺様はスマフォを手に入れることはできないのだ!

そんな嫁に立ちはだかる壁といえば、
新しい番号やメールアドレスを友達全員に教える手間!!
あと、新端末の割賦を含めた月額料金の高さ!

これさえ説得出来れば、俺様は晴れてスマフォユーザ!アンドロイドユーザ!
初の携帯キャリアにお世話になることになるのだ!!!
よし頑張れ俺様!まずは説得のための材料を整理してだな、会話の流れの中で自然に・・・

「うるさいわね。何一人で騒いでんの」

ぬ!
もう登場しなすった!
相変わらず俺様の不意を突く華麗な先制攻撃!
落ち着け俺様!こういう時は1ターン目の攻防が大事!!!
今この場で説得できなければ俺様の未来にスマフォはないのだ!!

「いやー大変だよ。俺の端末、壊れちゃったみたいアハハ」

さあどう出る嫁!
もしここで、「あっそ。さっさと修理出したらいいじゃない。自分で壊したんだから自分で修理代出しなさいよ当然でしょ。じゃ、私はひみつの嵐ちゃん観てんだからもう騒がないように。騒いだら罰金700円と明日の食事担当ね」
などと言われたら非常に形勢不利!

「あっそ」

フウウウウウウ!
ここまでは予想通り!
さあどう出る嫁!さあどう来る嫁!

「で、どうすんの?」

おおおお!今日の嫁ときたら、俺様の話を聞くつもりがあるらしい!大チャンス!!
今こそ千載一遇の好機!!
ここは一気に攻勢に出るべし!

「い、いやーこの際だからさ、修理代金も高くつくわけだし、どうせなら携帯電話に乗り換えたりしてみたらどうかなーって。もうなんか070じゃ恥ずかしいじゃん?二台持ちでもないのにさ。今どきの携帯なら機能もいっぱいついてるし、ワンセグでいつでも嵐の番組観れるしさ。だからいっそのこ」

「いいよ」

え!?

「ピッチやめる」

おお!
おおおお!!
おおおおおおおお!!!
なんとまあ、あっさりと!
いいの?いいんですか本当に!!!!????

やったーー!!!

「私iPhoneね。後は任せたから。じゃ、私はひみつの嵐ちゃん観てんだからもう騒がないように。騒いだら罰金850円と明日の食事と風呂掃除担当ね」

!!
ちょっとマッタ!!!それソフトバンク!!
俺様は・・・ドコモのXperiaかMEDIASかGalaxyのどれかにしようと思ってたんですけども!!!
これはヤバい!

「え、iPhone?なんで?」

「なんでって?」

「iPhoneじゃなきゃだめなの?」

「えー。iPhoneオシャレじゃん。私あの指ではじいたりして画面動かすやつやりたい」

「いや、俺はiPhoneっていうかソフトバンクじゃなくてさ、ドコモのXperiaかMEDIASかGalaxyあたりのアンドロイドにしようかと思ってたからさ」

「何そのお子様向けの古臭いマンガみたいな名前。意味わかんね。iPhoneでいいじゃん」

「い、いや、アンドロイドでも、一応指で操作したりすることはでき」

「アンタはそれにすりゃいい話でしょ。好きにしなさいよ。私はiPhoneを使う事に決まってんの」

ああ!
この嫁ときたら、昨今のスマフォ事情、というか携帯事情を全然知らんのよ!
キャリアが違うんだキャリアが!
いくらなんでも、同一世帯でソフトバンクとドコモの契約は金額的にありえない!!
つーか嫁なんてスマフォ絶対使いこなせない!フツーの携帯で十分!!それをわかってもらわねば!

「あの、iPhoneって、どういうものだか知ってる?」

「んー。よく知らね。なんかおしゃれなやつ」

「じゃあちょっと説明するとね。iPhoneってのはソフトバ」

「ハア?やめてよめんどくさい」

「ごめん、悪いけどちょっとだけ話聞いて。いい?iPhoneはスマ」

「いいこと考えた」

「え?」

「あとあのMACの超薄いノートパソコンも一緒に買う。うん。それがいい。そうしましょう。それで決まり。私天才。アップル最高。リンゴ大好き」

いやいやいやいやいや!!!
唐突に、思いもよらぬ、ノートPC欲しい攻撃!!
話があらぬ方向へ!!

「えええ!?何でそういう話になるのさ」

「だって、私が使ってるノートパソコン、アンタのおさがりじゃない。重いし黒いしドンくさいし。あれ気に入らないからマンションの窓からたたき落としたいっていつも思ってんの私」

「そんなあ!俺御自慢のThinkPadをそんなふうに考えていたとは!」

「御自慢だかなんだか知らないけど、私おしゃれじゃなきゃイヤだから。じゃ」

「ちょっと待って!時間を、時間をください」

「別にいーけど、iPoneとMACの超薄いノートパソコンは決定ね」

「とにかく!考えさせて!考えさせてください」

どうしよう俺様・・・。
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灼熱地獄の果てにフェアリーを見つけた、この夏。
 6月の半ば頃だっただろうか。
仕事から帰ってみると、アパートの周囲に巨大な足場が組まれていた。
足場の外側は更に安全対策の緑のネットで覆われている。
いったい何事だろう。
怪訝に思いながらもネットをくぐって奥に進むと、
入口の掲示板に張り紙がしてあり、
どうやら大がかりな外壁塗装工事が始まるらしいとわかった。
期間は約3週間。
なるほど。いい加減ボロなアパートだから、
見た目だけでもリフォームしようというわけか。
ご苦労なことだ。
今さら外装を取り繕ったところで、どうなるものでもなかろうに。
そんなことを考えながら部屋に入り、ふとあたりを見回したとき、
あれ? と違和感を覚えた。
いや、実際には違和感どころではない。
ほとんど愕然とした。
まッ、窓が! 窓がーッ!!
窓の外側が、何やら半透明のビニールで覆われている。
とりあえず窓を開け放ってみたが、そこに見慣れた外の景色はなく、
あるのはビシッと張り詰めたビニールの膜だった。
いったい誰がこんなマネを──と、疑問するまでもない。
いわゆる養生というやつである。
しかもこの養生、さすがに職人技というべきか、
窓枠の隅から隅までぴっちりとテープで固定されており
(といっても内側からは見えないのだが)
まさに一分の隙もない、という見事な出来栄え。
僅かなペンキの粒子も通過させまいという心意気に充ち満ちている。
しかし、窓を開けても外が見えない、風も入ってこない、
というのは些か息苦しいような。
図らずも密室状態になっているし。
あまり開放的なのは好みではないが、
といって、こうまで圧迫感があるのも問題だろう。
というか、この職人、ご丁寧にエアコンの裏側まで養生している。

きっと知らない人が増えているのではないかと思われるが、
エアコンには幾つか種類があって、
室外機から余熱を放出するタイプのやつと、
そうでないレアなタイプのやつがある。
うちのエアコンはレアなタイプのやつだ。
つまり、排気ファンと本体が一体化しており、
開けた窓の隙間に取りつけて使用する。
ファンは本体の背面にあり、直接熱風を外に吐き出すのだ。

その吐き出す窓の隙間が養生された。
しかも職人の手による完璧な養生である。
窓とビニールの間の狭い空間はまさに密閉状態。
仮にエアコンが稼働した場合、
背部のファンから吐き出された熱風は、
その狭い密閉空間に吹きだまり……。
瞬間、恐るべき可能性が脳裏を掠めたが、
目を背けてねじ伏せた。
折しも季節は梅雨まっさかり。
今年の梅雨はずいぶん長いらしく、まだまだ明けるのは先らしい。
梅雨といっても雨の日は少なく、曇天が続いていて過ごしやすいし、
下手をしたら朝方などまだ寒いと感じる日だってあるくらいだ。
もしかしたら冷夏の可能性だってなくはないし。
なぁに、たったの3週間じゃないか。
大丈夫、大丈夫。

3週間後。

甘かった。
「雨天の場合は予定が遅れる場合があります」
ちゃんと工事日程表にも書かれていた。
7月に突入しても梅雨は明けず、
雨、雨、雨、で工事日程はずいぶん遅れているらしかった。
予定の終了日が過ぎても、
アパートを取り囲む足場とネットが取り外されることはなく、
無論、窓の養生もそのままである。
変わったことといえば、水色だった入口のドアが
濃いブルーに塗り替えられたことくらいか。
まったく、勝手なことをしてくれる。
外側だけ青くしてしまって、内側は水色のままじゃないか。
何このツートンカラー。
しかし、職人たちだってサボりたくてサボっているのではない。
すべて雨のせいだ。
雨のせいで工事が遅れて……気がつけばすっかり梅雨が明けている。

地獄が始まったのはそれからだ。
あの気の早い真夏日、品川かどこかで36℃だかを記録したあの日、
うちのアパートの窓はぴっちりビニールで覆われていた。
これはつまりビニールハウスと同じ構造である。
ビニールハウスと違うのは、
中で栽培されているのが植物ではなくて人間であるということ。
帰ってくるなり、窓を開け放った。
養生のおかげでペンキは一滴たりとも侵入していなかったが、
しかし、ひとそよぎの風すらも入ってこない。
明らかに部屋の中より外の方が涼しい。
試しにエアコンをつけてみたが、
バサバサと勢いよく養生ビニールを揺らしたエアコンは、
その後、五分足らずで沈黙した。
無論、予測していたことだった。
余熱を逃がせない機械は数分で停止する。

熱帯夜。
密室状態のビニールハウス。
風は入ってこない。
エアコンも使えない。
この夏、この部屋ほどエコな場所はないのではないか?

ああもう。
養生ビニールが憎くてならない。
遅々として進まない塗装工事にも腹が立つ。
しかし、勝手に養生を剥がすわけにもいかず、
妥協策として、養生の一部を引っぺがすことにした。
といっても慎ましいものだ。
養生の隅を、僅か20センチほど剥がしただけだ。
それでもそのとき吹き込んできた生ぬるい風には、
ベホイミくらいの効果があったと思われる。
残念ながらエアコンの復活は叶わなかったものの、
それで3週ほどやり過ごすことができた。
が、しかし、
7月の半ばを過ぎても工事が終わらないというのはどういうことか?
そろそろ暑さが洒落にならない。
暑いと言うより熱いという方が正しい。まさにその通り。
本当に工事なんてしているのか? と疑いたくなる。

この頃の生活というのは、ほとんど発狂寸前だ。
昼間、部屋にいるだけで汗が滝のように溢れ出す。
イライラなど通り越して、すでにぐったりしている。
なんだか食欲もなくなって、
これ幸いとばかりに毎日安いカレーばかりを食っていた。
毎日毎日、足場が取り外されていることだけを願って帰宅したし、
暑くて寝られないから、寝ようと思って寝るのではなく、
身体が眠さに耐えられなくなって寝る、という生活を続けた。
そうして、昼間部屋にいることになるから、
休日が来るのが嫌だな、
なんていう信じがたい発想さえ持つに至った。
しかし、気持ちが滅入ったらいかん、という思いから、
無理矢理に前向きを装い、
暑さと闘う自分を修行僧か何かのように思い込んで、
ひたすらゲームをプレイし続けた。

そんなある土曜の朝。
少々暑さに頭がやられていたのだろうか。
部屋の外から聞こえてくる話し声で目を覚ました。
午前7時。休日にしては早い時間だ。
話し声は何を言っているのかよく聞き取れないが、ベラベラベラベラ
部屋の窓のすぐ近くから、ひっきりなしに聞こえてくる。
わりと大声。
聞き取りにくいのは、方言のような独特な口調のせいか。
うるさかった。
30分くらい経ってもずっと続いているので、
さすがにイライラしてきた。
まったく、人のうちの前で何のつもりだ。
そう思ってコンビニに行くついでにちょっと様子を見ることにした。
すると。

アパートの正面、
俺の部屋のすぐ前に、フェアリーたちが集っていた。
3人いる。
一人はレッドマン。見ればわかる。見まごうはずもない。
もう一人は、おばちゃんだ。
見覚えがある。
そうだ。
以前、俺の部屋に侵入しようとしてきた二階に住んでるおばちゃんだった。
最後の一人は新人だが、去年くらいに一階に越してきたおっさんだ。
日曜になると大音量で演歌か何かを流してカラオケをやっている。
その3人が、俺の部屋の前の道路にしゃがみ込んで、
何やらベラベラとお喋りをしているのだ。

ああ、なんという凄まじいメンツ!
歌舞伎者勢揃い!!!!
俺は今、奇跡のような光景を見ているのではないか?
それはまさに真夏の朝の夢。
フェアリーたちの集い。

でもそれは別段奇跡でもなくて、その翌週も翌々週も
同じ時間に同じ場所で見ることができた。
きっと俺が見てないだけで、平日もやってるんだろう。
そしてフェアリーたちの集いは毎回2時間くらい続くので、
そのすぐ隣のサウナの中でゲームをやっている俺は、
このままだと何か悪い病気になるかもしれないと思って
あの憎たらしい養生を全部引っぺがしてやりました。
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8の話をしよう
8っていいよね 数字の8
俺はまず右上から左上に向かって半円を描いたのち、一直線に右下まで突っ切り、
そのままヘアピンカーブのごとく切り返して左下から、今度はやや自然なカーブを描きつつ元の位置である右上まで戻す書き方が好きでしょうがない
このとき、左上のカーブ部分のみ、やや鋭角になっていることが望ましい

ポイントはやはり右上にあるわけで、ここへ向かって左下から戻ってくる線が、
ぴったり開始位置と重なってしまうようでは一人前の8の字マスターとはいえず、
多少オーバーランするようにして書き終えるのが本物である、と提唱されている(私によって)

結果として、8の字を構成するふたつの○が、だるまのごとく上下にきれいに重なるのではなく、
上の○がやや右に傾いている形がもっとも理想的であり、
この傾き具合を決める最後の微妙な筆運びがポイントとなってくるだろう

さて、8をマスターしたら、
次に目指すのはアンバサンド(&)である
当然8に比べて難易度が高いわけだが、長くなるので、続きはいずれ
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モンスター・シェアリング
 
「モムーン。モムーン。」

あっ。野生のマンババン(※マンドリルとバブーンとヒババンゴを掛け合わせたUMA。)が困っているよ。
いったいどうしたの?

「モムーン。モムーン。」

えっ。見知らぬ人間たちの集団に襲われたって。
かわいそうに。

「モムーン。モムーン。」

大事にしていたこん棒を奪われてしまったの。
それは大変だ。
悪い人間たちだね。きっと盗賊団にちがいないよ。

「モムーン。モムーン。」

よーし。
僕がこらしめてあげるよ!

「モムーン。モムーン。」

えっ。
やつらはかなり強いって。
でも大丈夫。僕にまかせておいてよ。

「モムーン。モムーン。」

やめとけっていうのかい。
でも僕だって強いんだよ。
それに、君が困っているのを見捨てるわけにはいかないよ。

「モムーン。モムーン。」

なんだい。
せっかく僕が君のかたきをとろうというのに、
なんだってそんなに嫌がるんだ。

「ボフー!ボフー!」

わっ。
どうしたのさ急に。
落ち着きなよ。

「モムーン。モムーン。」

えっ。後ろを見ろって。
まさか。
うわっ。人間だ。

「モムーン。モムーン。」

こいつらが君のかたきだね。
おい。人間ども。
マンババンくんから奪ったこん棒を返せ!

「モムーン。モムーン。」

えっ。なんだって。
ま、まさか、マンババンくん、君はあの人間たちを
許すと言っているのかい?

「モムーン。モムーン。」

わかったよ。
君はやさしいんだね。

「モムッフ!モムッフ!」

甘くせつない夢の香りだね。

「モムッフーン?モムッフーン?」

それはダウトだ。調子に乗るな。
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ポイポイ
先日、と言ってももうずいぶん以前のことだが、
あれはちょうどセンター試験の日だったと思う。
通勤電車の中で、
おそらく受験生であり試験会場に向かうのであろう
女子高生たちのこんな会話を耳にした。

「この前、○○からメール来たんだけどさー、
あいつなんかしつこくてぇ、すげぇヤなんだけどぉ」
「あー、あいつー、チョイうざいよねぇ」
「でしょー。バレンタイン、なんかくれとかさー、
ちょーしつこいんだけど」
「あー、言うねー。言う言う。私も言われたー」
「マジうるさい。バカじゃないの。
だからさぁ、もう、だったらこれやるよってー、
バナナの皮でも送ってやろうかと思ってぇ。なんかムカつくし」
「バナナぁ?」
「足下に置いといてやるよ、マジで」
「ああ、ああ。なるほど、バナナの皮ねー。
でも、まだ甘いな。甘い。
私だったら激落ちくんだよ。ハイ、これプレゼントっつって」
「激落ちくん?」
「そう、激落ちくん」
「ぎゃはは、それきっつー」
「ぎゃはは、ちょーヘコむよねー」
「ぎゃはは、ヘコむー」
「ぎゃはは」
「ぎゃはは」

と、このように世間一般の女子高生にまで広く親しまれ、
市民生活に深く浸透してる『激落ちくん』だから、
この商品を知らない人の方がむしろ少ないのではないかと思われる
なので、今更言うまでもないことではあるのだが、
激落ちくんとは、実に大した商品だ。
初めて激落ちくんを手にしたときの衝撃を、私は今でも鮮明に覚えている。
ほとんどあきらめかけていた、冷蔵庫に付着したタバコの脂だとか、
押し入れの扉に付着したタバコの脂だとか、
照明のスイッチパネルに付着したタバコの脂だとか、
とにかく、ありとあらゆるタバコの脂をことごとく落としきって、
まるで消しゴムのように細かなボロ屑となって消えていった、激落ちくん。
文字通り、その身を削りながら頑固な汚れに挑む姿は感動的ですらあり、
かつてお国のために青春のすべてを捧げた若き英霊たちの姿を彷彿とさせる。
無論、命を賭したその仕事ぶりは見事としか言いようがなく、
これまでスポンジ片手にゴシゴシやっていた主婦たちは、
「嘘よッ!」とばかりに我が目を疑い、今日までの徒労を嘆いたに違いない。
タバコの脂ばかりではなく、茶碗にこびりついた茶渋だとか、手垢だとか、
普通の洗剤では落としきれない汚れを
きれいさっぱり一掃してくれるのだ、激落ちくんは。
しかもこれが、洗剤いらずで軽く擦るだけという驚くべき簡便さ!

それほどまでに驚異的な洗浄力を誇る激落ちくんだから、
今まで気づかずにいたのがむしろ不思議なくらいで、
今では不覚とすら自省しているのだが、ふと思いついた。

激落ちくんで歯を磨く。

そこに激落ちくんがあったからそう思ったのか、
はたまた、歯が汚れていたからそう思ったのか、
着想の起点は定かではない。
が、この着想を得たとき、私は世の人間がすべからく愚者に見えた。
何故、今まで誰もこの発想に辿り着かなかったのか?
何故、未だ『激落ちくん歯ブラシ』が登場していないのか?
激落ちくんの性能は周知の通りだ。
歯の白さを得ようと躍起になっている人間はことのほか多く、
けれどもその大半が志し半ばで挫折している。
理由は、歯の白さを得るのが
一朝一夕では叶わぬことと思い込んでいるからであろう。
しかし今、我々には激落ちくんがある。
激落ちくんがひとつあれば、一朝一夕どころか、
ものの数秒で白く輝く美しい歯を手に入れることができるではないか!

実に素晴らしいアイディアだ。
その上、まだ誰一人としてこのアイディアに気づいていないのだから、
これを実行しない手はない。
となれば善は急げ、早急に激落ちくんを手に入れる必要がある──
否。
否、否、否。
ここは万全を期すためにも、激落ちキングを入手すべきだ!
キングと言うからには、その威力は最高峰だ!
パパだのママだの、ましてやただの激落ちの比ではあるまい。
何、激落ちダブルキング!?
何だそれは、そんな商品があるのか!!
よしわかった、そいつだ、そいつをくれ!
先の女子高生も、激落ちくんなどとケチなことを言わずに、
このダブルキングを送りつけてやればよかったのだ。


*使用の際は、注意書きをよく読みましょう。
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群雄割拠
昔ファミコンのソフトに、キングオブキングスというファンタジー調
戦略シミュレーションゲームがあって、
これがなかなかおもしろく、何度も繰り返し遊んだものだが、
ゲーム性の秀逸さもさることながら、キングオブキングスという、
何やら妙にかっこいいタイトルがお気に入りだったりした。
王の中の王。かっこいい言葉ではないか。

しかし残念なことに、このゲームに出てくるキングたちは個性が無かった。
そりゃそうだ。たとえば将棋の王と玉で性能が違ったら不公平だ。
そこで考えてみる。
真のキングオブキングスって・・・誰だ?
王と名乗る(呼ばれる)者たちの中で、もっとも王にふさわしいのは・・・誰だ?
ぱっと思いつく限りを並べてみよう。

エントリーNo.1・ボンバーキング
ご存知ボンバー界のカリスマ、ボンバーキングである。キングオブボンバーである。
あいかわらず個人的にお気に入りのキングである。
ファミコン全盛期、当時絶好調のハドソンが自信を持って世に送り出した、
マル超シリーズの代表作の主人公である。
仕掛けると1秒きっかりで爆発する、危険極まりない爆弾
(当然、爆風に巻き込まれたら一発で死ねる)を平然と扱うアンドロイドである。
戦いの場において、最高権力者が最前線に出るなどもってのほかであるが、
この王ときたら敵がうようよいる惑星に単身乗り込む、勇ましき王なのである。
カリスマ ★★    (アンドロイドだしなー)
統治領域 ★★★★★ (星一個まるごとである)
戦闘能力 ★★★★  (なんといってもボンバーの破壊力は抜群)
政治能力 ★     (支配領域の拡大に尽力しすぎ)


エントリーNo.2・マキシマム
週刊少年ジャンプ黄金期に連載されていたダイの大冒険に登場する、物語の後半も後半、
ラストで一番盛り上がる場面で登場した、キングである。
これはもう、キングなのである。チェスのキングの形をしているから、
キング以外の何物でもないのである。
必殺技はキ〜〜〜ングスキャ〜〜〜ン!!である。
どういう技かというと、これはもうFFで言うところのライブラである。
敵の状態を知るのである。
なにもかもわかってしまうのである。
カリスマ ★★    (吾輩はキングである!)
統治領域 ★★    (チェスの盤上が吾輩の支配地域であり、部下も豊富である!)
戦闘能力 ★     (キ〜〜〜ングスキャ〜〜〜ン!!)
政治能力 ★     (では、また会おう!さらばだ!)


エントリーNo.3・キング・クリムゾン
ビートルズをもおびやかしたと言われる、かつてのUKカリスマロックバンドから
その名を譲り受けた、近距離パワー型のスタンドである。
近距離パワー型といえば、スタンド界の花形である。
なんたって、時間を切り取ってしまうのだから恐れ入る。
こんなのが本当に王だったら、世の中どうなってしまうのか心配である。
カリスマ ★★★  (もう一度よく考えろ!この世で「矢」を持つにふさわしい王は誰か!)
統治領域      (測定不能ゥゥゥゥ!)
戦闘能力 ★★★★★(結果だけだ!!この世には結果だけが残るッッ!!)
政治能力      (測定不能ッッッッ!)


エントリーNo.4・王貞治
その名前もさることながら、世界の誰よりも多くホームランを打った男である。
世界の王である。名前負けしていないのである。
関係ないが、おそらく日本でどの犬よりも早くワンちゃんと呼ばれた男ではないだろうか。
カリスマ ★★★★★(長嶋と並び、日本の野球界における絶対的な存在である)
統治領域 ★★★  (九州全域と言ってもいいんじゃないか)
戦闘能力 ★★   (バットが装備可能なのは心強い)
政治能力 ★★★★ (監督時代後期は名将ぶりを発揮)


エントリーNo.5・ナリタキングオー
競走馬である。馬の中の王、サラブレッドである。
オーの名が付く馬ではサクラケイザンオーのほうが好きだったのだが、
キング決定戦のエントリーであれば、やはりこちらだろう。
競走馬でキングとかオーとか付く馬は多いが、この馬はその両方使っちゃってるのである。
サンデーの初年度産駒と同期。春のクラシック前は名前に負けない鮮やかな勝利を続けていき、ナリタブライアンの再来か!二年連続の三冠馬か!と期待させておきながら、
その後は故障の影響で活躍できず、単なる早熟馬として惜しまれることなく引退してしまった
哀しきキングである。
個人的な話で恐縮だが、競馬にハマったきっかけの馬である。
一番金を使って一番損した馬である(二番目に損した馬はバトルライン)。
カリスマ ★(鞍上南井、シャドーロール、スプリングS勝利、共通信杯勝利の三冠馬!と一緒)
統治領域 ★  (残念ながら種馬になれず)
戦闘能力 ★★ (晩年は船橋に転厩するものの最下位ばかり)
政治能力 ★  (たぶんないと思う)


エントリーNo.6・ラ王
ラーメン界からの勇気あふれる参戦である。
インスタントラーメンの歴史を塗り替えた製品である。
超高速の湯切りと、生麺の圧倒的な食べ応えは日本を震え上がらせた。
カリスマ ★★ (乾麺など敵ではないが、やはり本物には勝てない)
統治領域 ★★ (同僚Spa王との激しい生麺キング争い)
戦闘能力 ★★★ (熱々である)
政治能力 ★   (ラーメンが政治を行うのはやや厳しいか)


エントリーNo.7・ステカセキング
キングである以前に、悪魔であり超人である。悪魔超人なのである。
それはもう極悪非道なのである。
装備はウォークマンである・・・
個人的には、初期キン肉マンの特徴であるギャグ路線の最後のキャラとして愛している。
カリスマ ★   (残念ながら悪魔超人の中ではザコクラス)
統治領域 ★   (カセットテープ界ならキングかもしれないが、時代はiPodである)
戦闘能力 ★★★★(攻撃力だけなら上位に喰い込む余地ありか)
政治能力 ★    (無理だべ)


エントリーNo.8・キングサーモン
魚類からもエントリー。
キングオブサーモン。鮭王である。
が、よく知らないのである。
カリスマ ★★★ (釣り人の心をつかんで離さない・・・のか?)
統治領域 ★★★ (わりと北方の海ではぶいぶい言わしてる・・・のか?)
戦闘能力 ★★  (海中で生身の人間と一対一で戦ったら、強い・・・のか?)
政治能力 ★    (エラ呼吸に政治はできない・・・のか?)


これらの出場者を抑え、見事第一回キングオブキングスに輝いたのは、メタルキングであった。

エントリーNo.9・メタルキング
ドラクエプレイヤーなら誰もが知っている、孤高のモンスターである。
灰色に輝くボディ、不敵な笑み、そしてキングの証である王冠。
彼こそがキングオブキングスの名にふさわしい。異論を挟む余地などないであろう。
カリスマ ★★★★★(圧倒的であろう)
統治領域 ★★★★ (最強クラスの魔物が生息する地域を堂々と治めているのである)
戦闘能力 ★★★★ (ベギラマ!パルプンテ!)
政治能力 ★     (すぐ逃げ出すであろう)

総評:
全体的に、政治能力に劣るキングが多く、心配である。
comments(3)
Just dig!
20xx年、初冬。
僕たちは運命の選択を迫られた──。



「おい、お前、どういうつもりだよ」
「え、何が?」
「何がじゃねぇよ。とぼけるなよ。p子のことだよ。決まってるだろ」
「あ、ああ、そのことか……」
「どうなんだよ」
「ど、どうって、僕は別に……」
「何だよ」
「いや、だから、なんて言うか、その、えっと……」
「はっきり言えよ。お前、p子のことふったんだろ? 知ってんだからな」
「そ、それは……。いや、でもまだはっきり伝えたわけじゃないから──」
「ふざけるなよッ! 何考えてんだよ。ああもうマジわけわかんねぇ。お前ずっと前からp子のこと好きだって言ってたじゃねぇか。だから俺がわざわざお膳立てしてやったのに」
「…………」
「おい、何とか言えよ」
「…………」
「何とか言えっつってんだよ! お前、p子のこと嫌いなのか? 好きだって言ったの、嘘だったのか?」
「う、嘘じゃないよ。もちろん、彼女のこと好きだよ。本当に憧れてるんだ。だけど……」
「じゃあ何だよ、何が気に入らないんだよ? p子、美人だし、超頭良いし、あんないい子、他にいねぇだろ」
「そ、それは……うん。そうだよ、そんなことわかってる。……確かに彼女、すごく綺麗だ。多才だし、ホントにいい子だと思う。でも……」
「でも? でも、何だよ? まさか、ちょっと寸胴なのが気になるとか言うんじゃないだろうな?」
「ち、違うよ。そんなの全然関係ない。そうじゃなくて、ただ……なんていうか、僕にとって彼女は……その、やっぱり遠い存在というか……」
「遠い存在?」
「高嶺の花っていうの? すごく遠い所にいてさ、僕なんかとはそもそも住んでる世界が違ってて、気安く話しかけたりとかできない……。正直言うとね、彼女のことを知れば知るほど、ああこれは本当に手の届く距離じゃないなって、わかっちゃったんだ。彼女の家、すごいお金持ちみたいだし……。とにかく、僕とp子さんとじゃまるで釣り合わない。僕みたいなヤツには無理なんだ。君だってそう思うだろう?」
「はぁ? 何それ? お前、p子がタカビーなお嬢とか思ってんの?」
「いや、高飛車とは言ってないけど……。でも、そういう印象はあるよ。彼女、すごく気が強そうだし、プライド高そうだし、下手な扱い方したら、すぐに機嫌損ねちゃうんじゃないかって……。とてもじゃないけど、僕の両親に会わせたりできないと思う。牛丼屋に連れてくとか、そういうの、もっての外でしょう?」
「ああ、まあな。それは否定しない。確かに、p子のヤツはちょっとお高くとまってるようなところもある。実際、──この野郎、貧乏人ナメてんのか、って思うこともあるからな」
「そ、そうでしょう。だから……だから仕方ないんだよ。僕がどんなに望んだって、こんな貧乏人には彼女を手に入れる資格なんかない。諦めるしかないんだ、もう……」
「ふぅん。それでw美なのか?」
「えっ?」
「w美だよ。隠すことないだろ。お前、最近あいつに興味津々じゃないか」
「えっ、いや、そんなことは──」
「ま、確かに、w美はp子と違って庶民派だよな。アクティブでスポーティーでリーズナブルで……友達感覚っていうか、男の財布の中身なんか気にしないだろ。取っつきやすさって意味じゃ文句ナシだ。まあ、俺はああいう疲れるヤツは苦手だけど、お前とだったら案外お似合いかもな」
「……そ、そう? 確かに彼女、わりと小柄だしね」
「何だよ、小柄が好みかよ」
「あ、いや、別にそういうわけじゃ……でも、w美さんと一緒にいるとすごく楽しそうなんだ。僕、彼女みたいに活発じゃないから、何をするのも新鮮で……あの人とだったら、こんな僕でも新しい自分が見つけられるんじゃないかって──」
「それはp子だって同じだろ」
「え?」
「誰と付き合ったって新しい発見くらいあるさ。p子にはp子なりのいいところがある。あいつはお前の持ってないものだってたくさん持ってるよ」
「そ、そりゃそうかもしれないけど……でも、やっぱり僕には──」
「違うね。お前はp子のことちゃんと見ようとしてないんだ。見ようとしないで目を逸らしてる。本当は一緒にいたいくせに、貧乏だとか釣り合わないとか適当な理由作って誤魔化して……お前、そんなんでいいのかよ。p子のこと、そんな理屈並べただけで諦められるのかよ。関係ないだろ、金のことなんて。大事なのはお互いの気持ちじゃないのかよ!」
「そ、それは──」
「どうせw美のことなんて、とりあえず手が届きそうだってところに惹かれただけなんだろ? p子から逃げるために即席の感情作ってんだよ。理屈こねて自分を騙して、将来のこととか何も考えてない。俺にはそう見えるけどな」
「ち、違うよ! そんなことない。将来性はすごく重視してる。僕はただ……」
「だったら、もう少しp子のこと本気で考えてやれよ。金とか住んでる世界とか、そんなんじゃなくて……。あいつが今どんな気持ちでお前のこと待ってるか……お前、ちゃんとわかってるのか?」
「……え?」
「そりゃ、最後にはお前が決めることだからな、p子のこと、ふるならふるで構わないさ。でも、せめてあいつと、p子と正面から向き合って、それから答えを出してやらなきゃ嘘だろう? ……そうじゃなきゃ、あいつが可哀想だ。目ぇ逸らされたまま、有耶無耶にされちまったら──」
「き、君……」
「俺じゃ無理だから言ってるんだよ。わかるだろう?」
「わ、わからないよ。なんだよそれ、何言ってるんだよ。正面から向き合って彼女のことふれって言うの?」
「……p子は本気なんだ。本気でお前のことを待ち続けてる。これが最後かもしれないからって、無理して貧乏なお前に合わせようとまでしてるんだぞ? あのプライドの高いp子が」
「それこそ高飛車じゃないか。いいよ、無理して合わせてくれなくても。……でも、何? どういうこと、それ、……最後かもしれない?」
「な、何だよお前……知らないのかよ」
「……知らない」
「あ、ああ。……そうか、そうだよな。p子が自分で言うわけないもんな……」
「何だよ」
「いや、いい、知らないんなら別にいい。気にするな」
「気にするなって、ちょっと──」
「知ったらお前、逃げるから」
「……逃げる?」
「だいたい、最初から逃げかけてたもんな。それで手頃なw美に乗り換えようとしたんだから……ああ、期待した俺が馬鹿だった。もういいよ。せいぜいw美と仲良くやったらいいんだ。お前なんか──」
「ちょっと待ってよ。何勝手に決めてんだよ。逃げる? 僕がいつ逃げたっていうんだ! 僕は逃げてなんかないぞ。p子さんのことだって、ちゃんと正面から向き合って、僕なりに考えて答えを出そうとしてるんだ。悩んで悩んで、本当に毎日苦しいよ。それを適当に諦めたみたいに言って……冗談じゃない。君にそんなこと言われる筋合いはないんだ!」
「そうなのか?」
「そうさ。こうしてる今だって僕はずっと悩んでる」
「p子のこと、本当にそこまで本気で考えてくれてるのか?」
「ああ。もう適当に誤魔化すつもりはない。彼女のこと、正面から受け止める覚悟ができたよ。君と話して、そうしなくちゃいけないってわかったんだ」
「……そうか」
「…………」
「…………」
「……最後って、何?」
「…………」
「何?」
「……先に言っとくけど、俺、p子が好きだ」
「うん」
「でもあいつにそれを伝える気はない。やっぱりあいつは……あいつが選んだヤツと一緒にいた方が幸せになれると思うから」
「……うん」
「……あいつはさ、身体に爆弾抱えてるんだよ」
「え?」
「家系らしい。美人薄命ってあるだろ。今は何でもないような顔して振る舞ってるけど、まるっきり調子の悪い日もある。いつ発病してもおかしくない身体なんだよ、あいつは。だからこれが最後かもしれないって言った」
「そんな……」
「本当は誰かに気持ちをぶつけるようなヤツじゃないんだぜ、あいつ。いつもツンと取り澄ましてさ、そりゃお高くとまってるように見えても仕方ないかもしれないよな。でもそれは、そうやってようやく手に入れた幸せが、いつか自分のせいでなくなっちまうってわかってるからなんだ……」
「そ、そんなッ! そんなのってないよ! どうして──」
「でも今は違う。あいつピカピカに輝いてる。すごく頑張ってるよ。さっき言ったのは冗談じゃないんだ。少しでもお前に近づこうとして、虚勢張って、できもしない値下げに挑んだりして、本当に無茶してるんだ。それもこれも、全部お前に選んでもらうためなんだからな」
「…………」
「……何だよ、聞かなきゃ良かったと思ってるのか?」
「……いや。それで、どれくらいもつの? 正直な話」
「そうだな、これまでの状況からすると、長くて五年、六年。普通なら三、四年てところだけど、今のあいつだったら、最悪、即日ってこともないわけじゃない。実際、細かいところではちらほら障害も出始めてる」
「そ、そうなんだ……」
「何だ? やっぱりw美に傾いてるのか? そうだよな、あいつ、子供から大人まで大人気だもんな。今のp子じゃリスク大きすぎるよな。でもw美だって、案外キレやすかったり、乱暴だったり、それなりにリスクはあるんだぜ?」
「君は……君は、どうするの?」
「俺か? 俺はとりあえず様子を見るよ。一年くらい。ここで焦って馬鹿見るのはゴメンだし」
「偉そうなこと言ったわりに無難だね。そんなに長い間我慢できるの?」
「できるさ。問題ない」
「そっか。それなら僕も……」
「お前は駄目だよ。今すぐにでも決心しなくちゃいけない。お前にはそれだけの理由と責任があるんだから」
「そ、そうなの?」
「当たり前だ。だからお前は今すぐ決めろ。ここで決めろ。p子かw美か……ああ、それからお前、x女史のことも一応考えてやれよ。あっちはあっちで先陣切って猛烈アピール仕掛けてきてるんだから」
「エ、x女史? x女史って、あの?」
「何だよ、自覚ナシかよ。すげぇ積極的にアタックしてきてるじゃねぇか。めちゃめちゃお得だぞ、アレ」
「そっ、そんな! 無理だよ、いくらお得だからって、僕、外国製の人はちょっと……」
「だよな。俺もそう思う。ま、誰を選ぼうが一長一短だ。せいぜい頭を悩ませて苦しめばいいさ。どのみち正解なんてないんだし、悩んで悩んで後悔すればいい。だってそれが──」

それが青春ってモンだろう?


新感覚・次世代青春恋愛小説

『三つどもえ』

──完──
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中pかぶら禁止
おしぼりくん「おい。このチュパカプラ診てくれ」
獣医「ウチはチュパカプラ禁止なんですよ〜特にUMAは厳禁ね!!」
チュパカプラ「あんた美人獣医だなぁ…俺うつ病みたいなんだよ〜
獣医「チュパカブラなんて診れません!!」
おしぼりくん「あんた美人だけどケチなこといわないで診てやってくれよ。」
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チュパカブラとおしぼりくん
チュパカブラ「どうした?おしぼりくん?」
おしぼりくん「よくぞ聞いてくれたよ。チュパカブラ、実はミッキィがうつ病なんだ。」

チュパカブラ「ミッキィもうつになる時代なんだな。」
おしぼりくん「199X年より酷い時代さ。」
チュパカブラ「それにしてもおしぼり君…しぼれたな…。」
おしぼりくん「まあな。ミッキィもうつになるくらいだ。しぼれたさ。」
チュパカブラ「おしぼりくんはまったく気がついてないな…。」
おしぼりくん「何が?」
チュパカブラ「まあいい。」
おしぼりくん「そうか。では逆に聞くがなぜ俺がおしぼりくんと呼ばれているか知ってるか?」
チュパカブラ「しぼれてるからだろ。?」
おしぼりくん「ははははっ!チュパカブラ語るに落ちたりっ!!」
チュパカブラ「えー…」
おしぼりくん「ところで元気か?」
チュパカブラ「まあまあだな!!」
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